絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□大決戦の開幕!
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他のどの部屋よりも広い面積を誇る大部屋。
その中で、巨大化した灰かぶりと真の姿を現した魔王が拮抗していた。
エィラ「うああああああああッ!!!!!!」
その大きな体を存分に発揮し、お姫様には似合わない拳を握って魔王に殴りかかるエィラ。
九尾のドラゴンに姿を戻した魔王だったが、その攻撃を真正面から受け止める以外に何も出来ない。
魔王「ーーーむッ、ぬ…ぅ…!!」
ジルドーレに何を吹き込まれたのか知らないが、悪堕ちしていようと絵本の世界の住人に変わりはない。
ルプスルンたちの事情を知った今となっては、魔王が直々に手を下して場を治めることに躊躇いが生まれている。
ニコ「魔王! しっかりしてッ」
魔王の肩の上で、ニコが懸命にエールを送る。
魔王「…しかし、エィラはジルドーレの力で心を落とされている……ッ。加えて、シンデレラは元から非戦闘員だ…。オレが迎撃して、無事で済むはずが……」
ニコ「だからって…やられっ放しじゃ、わたしたちも先に進めないじゃない…ッ」
魔王「それはそうだが……」
倒すことが出来ないのに、倒さなければ先に進めない。
苦しい板挟みに陥る魔王とニコだったが、助け舟は意外なところから差し向けられた。
ヘイテン「だぁらぁぁぁあああああッ!!!!」
エィラ「ーーーッ!!!??」
エィラの足に向かって猛突進してきた牛魔王のヘイテン。
その衝撃は巨体のエィラにとって小さなものだったが、虚を突くには十分な効果を発揮していた。
ニコ「……! あれはッ」
魔王「西遊記の牛魔王、ヘイテンかッ!?」
ヘイテン「ボーッとしてんな! そのまま押さえ込めぇ!!」
小さな衝撃を不意に受けたことで、エィラの巨体が少なからずグラついた。
そのチャンスを活かすべく、魔王はエィラを押し倒す勢いで床に組み伏せ、そのまま身動きを封じていく。
エィラ「ーーーッ!! くッ、こ、のぉ!!」
また、こうしている間にヘイテンも次の行動に移っていた。
エィラが巨大化する際に使われたと思われる打出の小槌を回収し、助け出した人質のげんきたちに託していたのだ。
ヘイテン「あの竜の肩にいる、翼みてぇな髪のお嬢ちゃんだ。渡してこれるか?」
日野げんき「り、了解ッ」
ヘイテン「よし! それじゃあ……かっ飛べッ!!」
言うが早いが、げんきを肩に担いだヘイテンはそのままげんきを魔王の肩まで思いっきり投げ放った。
目的は、回収した打出の小槌をニコに届けるため。
日野げんき「え!? わッ、ちょッ、どわぁぁぁああああああああああああああああッ!!!!!!」
ニコ「ーーー!!? な、なにッ!?」
突然、自分の目の前に飛来してきた人間にニコも仰天する。
しかし、げんきの手に握られた打出の小槌と、下から聞こえてくるヘイテンの言葉にニコが取るべき行動が明確になっていった。
ヘイテン『打出の小槌を応用しろ! 元に戻すんだ!』
ニコ「……ッ、も、元に……?」
元に戻す。
打出の小槌は、何も“対象を巨大化させるアイテム”というわけではない。
ニコ「……! わ、分かったわッ」
飛ばされて目を回しているげんきから小槌を取り上げ、魔王の肩からニコが飛び立つ。
狙いは、魔王が押さえ込んでいるエィラの体。
ニコ「小さくなぁれッ!!」
エィラ「ーーーッ!!?」
一寸法師の物語に登場する、願いを叶える不思議な小槌。
元から体の小さかった一寸法師の願いが、たまたま大きくなりたいという願いだったに過ぎない。
所詮は基準の設けられた物語の産物が故に、叶えられる願いにも限界はあるのだろうが……。
対象を大きくすることが出来るのならば、逆に小さくすることが出来ても不思議ではない。
シンデレラの巨大化という常識外れの現象は、こういった形で幕引きとなった。
力を失い戦意喪失に陥ったエィラは、元の体の大きさに戻ったところで気を失った。
大きな外傷がないことを確認した淳之介たちの傍らで、ヘイテンは魔王に自分たちの経緯を話していた。
魔王「では、新たな派遣組のメンバーは全員が、このエィラと同じ状況というわけか?」
ヘイテン「十中八九、間違いねぇ。俺みてぇに“元から悪役の立場”の奴は、偶然にも悪堕ちの末路から外れたみてぇだがな」
ジルドーレによって、ルプスルンたち三幹部は良心を打ち消されている。
絵本の世界を裏切り、マジカルエナジーを生み出す宝玉を破壊せんとする行動は、ジルドーレが取り込んだ“無の宝玉”が大きな原因なのだ。
その力を、今は新たな派遣組のメンバーに向けられているらしいのだが、今を改善しようと思う願いもなかったヘイテンだけは、その魔手から逃れることに成功したらしい。
ヘイテン「物語の主人公どもが悪堕ちしてちゃ、悪役の俺らは何してりゃいいんだ、っつー話だろ」
魔王「まったくだな」
ちなみに大雑把ではあるが、ニコもげんきたちに一応の事情を話していた。
絵本の世界のこと、宝玉のこと、デッドエンド・バロンのこと。
そして、げんきの姉あかね、ひなの姉なお、淳之介の妹れいか。
それぞれが宝玉を取り込んで、世界を崩壊させようとしている組織と戦っていること。
緑川ひな「なお姉ちゃんが……」
青木淳之介「まさか……いつの間にか、そんなことになっていたとは……」
日野げんき「…………」
三者三様、俄かに信じ難いという表情を浮かべている。
が、それでもげんきの瞳には興奮の色も宿っていた。
日野げんき「何か……かっけぇな、それッ」
ニコ「え?」
魔王「……」
日野げんき「俺の姉ちゃん、炎使うてメッチャ強い敵と戦ってんねやろ!? そんなん最高やん! めっちゃ見たいわッ」
魔王「これは遊びじゃない。文字通り“命懸け”の戦いなんだ。姉を思う気持ちは分かるが、その方向性を間違えることは感心しないぞ」
青木淳之介「…確かに、こんな事態まで引き起こす連中だ……。れいかや、他のみんなのことも心配だね…」
日野げんき「何言うてんねん。端っから姉ちゃんの心配なんかしてへんわ」
その言葉に全員の視線がげんきに集まった。
当人は、キラキラした瞳で意気揚々と胸を張っている。
日野げんき「俺の姉ちゃんが負けるわけないッ。そないな力持ってんねやったら尚更やッ。弟の俺が言うんやから間違いない!」
げんきが姉の勝利を宣言した、と、同時刻。
牙を剥き出しにしたルプスルンの大口が、あかねの右脇腹を噛み捕らえた。
日野あかね「………ぇ…?」
ウルフルン「……あ?」
バキベキボキッ!! と、あばら骨が深く食い込み、へし折れる音が連続して響き渡る。
日野あかね「ーーーッ、が! ふ、ぅッ」
ルプスルン「……ッ」
ルプスルンが大きく首を振り、肉を食い千切る勢いであかねの体を振り飛ばした。
ウルフルン「ーーーッ!!? あかねぇッ!!!!」
日野あかね「…あ……ぎ…ぅがッ、あああッ」
ゴロゴロと地面を転がっていった体が止まった瞬間、目に見えて血溜まりが広がっていった。
ウルフルンが駆け寄っていった時には、既に再び、ルプスルンの姿は何処にも見当たらない。