絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□目に見えぬ襲撃
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気を失ったエィラはヘイテンが担ぎ、ニコたちはジルドーレを捜して洋館の奥へと進んでいく。
この洋館から出る術がないため、ニコたちと同行するしかない人質たち……げんきたちの姿もそこにはあった。
魔王「本来、関係のない一般人を巻き込むことは大問題なのだがな……」
ヘイテン「そんなこと言ってる場合でもねぇだろ。それにこんな場所じゃ、せっかく助けた人質だけを何処かに残していく方が危険だ」
ニコ「そうね…。その不安を拭い去りたいなら、やっぱりジルドーレをなんとかしなくちゃ…」
既にみゆきたちは動いているのだろうか。
別れ別れになってしまったため、他の者たちの行動状況を把握できないのは痛手だったが、自分たちが立ち止まる理由にはならない。
もう戦いが始まっているのなら加勢すればいいし、まだ始まっていないのなら自分たちから仕掛ければいい。
日野げんき「姉ちゃんたち、何処におんねやろ……」
緑川ひな「なお姉ちゃん……」
青木淳之介「………れいかたちが心配だ…。無事でいてくれるといいけれど……」
自分の姉妹の安否を思うげんきたち。
大丈夫だとは思うが、それでも顔を合わせない限りは安堵を感じることもできないだろう。
ニコ「急ぎましょう。いつ何処で何が起きるか分からないわ」
そして、そんなニコたちの状況をリアルタイムで鑑賞し、楽しんでいるジルドーレは……。
ニカスター「どうなのです? もしも人質だけ別の場所に残されていたら……」
ジルドーレ「再び捕らえ、奴らの目の前で拷問にでも掛けようか。それもまた一興」
ニカスター「なるほど♪」
ニカスターと共に洋館内の状況を観察していく。
もちろん、そこには裏切り行為を見せる牛魔王、ヘイテンの姿も映っているわけだが。
ニカスター「彼の処罰は如何いたしますか?」
ジルドーレ「牛魔王は放っておけ。あの程度では何もできんよ。裏切りも醍醐味として楽しもうではないか」
ニカスター「仰せのままに。ですが……あちらの件は如何いたしますか?」
ニカスターが示したモニターに映っているのは、大爆発によって跡形もなく吹き飛んだ地下空間の様子と、その衝撃によって瓦礫の山とかした洋館の一部。
その下には、前線に立つ戦力の一手と思われたルプスルンが眠っていることだろう。
ジルドーレ「………期待外れは否めんな…」
ニカスター「三幹部の名折れですが……逆に考えれば、お母様たちがそれほどにまでパワーアップしていることの証です」
ジルドーレ「ふむ」
ジルドーレにとっても、まさか一番目の手でルプスルンが敗れるとは思っていなかったのだろう。
そんな予想外を生み出した原因を考えるならば、やはりみゆきたちの戦力増強以外に考えられない。
ニカスター「その可能性も、きっともうすぐ確信に変わりますよ」
ジルドーレ「………ほぉ…?」
続いてニカスターが示した別のモニター。
そこに映っていたのは、たった一人で洋館の中を駆けていく少女の姿。
彼女が向かう先には、ニコたちが鉢合わせたエィラと同じく、本来ならばみゆきたちの仲間になるはずだった住人。
更に言えば、今回待ち構えている悪堕ちの住人は、エィラの時ほど上手くいかない戦いが予想されていた。
ニカスター「まだまだ楽しめそうですね? ニィフフフ♪」
ジルドーレ「あぁ、まったくだ……」
ジルドーレとニカスターがモニター越しに鑑賞している最中。
一人きりで洋館内を駆け回っている少女、黄瀬やよいが目の前の扉を開け放った。
黄瀬やよい「……!」
昔話に登場するかのような、のどかな庭園。
和風の中庭を思わせる部屋に踏み込むと、ようやく今まで休みもなしに走っていた事実に気付いた。
黄瀬やよい「(……心細かった、のかなぁ…。まだ、息が上がってる……。少し、落ち着かなくちゃ…)」
額の汗を拭い、走り過ぎで痺れ始めている足をゆっくりと動かす。
すると……。
黄瀬やよい「……!?」
やよいの耳に、微かな物音が聞こえた気がした。
庭の茂みの中を、何かが素早く動き回ったような、カサカサとした音だった。
黄瀬やよい「……だれ…ッ…?」
返事はない。
もしも味方であるならば、やよいの声に応えてくれてもいいはず。
それがなかったということは……やよいを陰から狙っている敵か、それ以外の何かか。
黄瀬やよい「………ッ…」
立ち止まり、周囲に意識を集中して警戒する。
自分が動かないのならば、相手が何処にいようとも何か仕掛けるために向こうの方から動きを見せるはず。
そう思って、立ち止まって身構えていた時だった。
黄瀬やよい「…………?」
やよいの首に違和感が走り、手で触れてみようと思った……直後だった。
風穴の空いたやよいの首から、ツツーッ、と早いスピードで鮮血が流れ始める。
黄瀬やよい「ーーーッ!!?」
急いで首の傷を押さえるが、指の隙間から溢れるようにして出血が止まらない。
何が起きたのか分からなかったが、結果として出されたことは単純明快。
黄瀬やよい「(“攻撃された”ってこと!!? でも、誰が? 何処から!? どうやって!!?)」
声を上げたら喉から避けるかもしれない。
もしかしたら出血の速度が増すかもしれない。
あらゆる不安に襲われるやよいが、とりあえず身を隠そうと近場の岩陰に身を投じようとした……その瞬間。
黄瀬やよい「ーーー痛ッ」
一歩、岩陰に向けて前に出した右足に激痛が走る。
足の下から何かで貫かれたのか、やよいの足には首と同じように風穴が空いていた。
当然、右足の裏から甲を貫く一撃から発生する出血も半端ではない。
黄瀬やよい「(……ッ。こ、の…攻撃……ッ、もしかしたら……ッ…)」
痛みに耐え、声も上げず、涙目になりながら、やよいは敵の正体を予想した。
首や足に開けられた風穴は、どれも“一寸”程度という極度の小ささ。
そこから導き出された暗殺者の正体は……。