絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□和解の心
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 あかねはルプスルンとの激闘で体力を消耗し、ここまでウルフルンに背負われながら洋館の中を駆け回っていた。

ウルフルン「おい、本当に大丈夫か?」

日野あかね「平気や…。もう十分休んだ…」

 だが甘え続けるわけにもいかない。

 ウルフルンの背中から降り、自分の足でウルフルンと並びながら洋館の中を走り始める。

 先に別れてしまったみゆきのことも心配だが、他のみんなの安否も気掛かりだ。

 ジルドーレと交戦する前に誰かと合流した方がいいだろう。

日野あかね「遅れを取り戻すで…ッ」

ウルフルン「焦るこたぁねぇよ、無理すんな」

日野あかね「…おおきに」

 だが、そんな二人の行く手を阻む者が来襲する。

 前方の曲がり角からゆっくりと現れた“それ”は、あかねたちを見つけると同時にお決まりの鳴き声を上げて突進してきた。

日野あかね「ーーーッ」

ウルフルン「チィッ!! 鬱陶しい!!」

猛獣アカンベェ「アカンベェッ!!!!」







 その頃、あかねたちと同じ状況ながら別の切り口で難を凌いでいる者たちもいた。

猛獣アカンベェ「アカンベェ! アァッカンベェッ!!」

 標的を見つけて追い掛けるアカンベェ。

 しかし、標的が廊下の角を曲がったところを追いかけていくと、先程までそこにいたはずの標的が何処にも見当たらない。

猛獣アカンベェ「アカ? アカンベェ??」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、走るのをやめて歩き始める。

 まだ近くにいるとでも思っているのか、その足取りは異様に慎重になっていった。

 そしてそれは……。

桜野準一「(こいつ何してんねんッ。早よどっか行けやッ!)」

 正解だった。

ニコ「(ねぇ、もしかして……このアカンベェが立ち去るまで、ずっと動けない感じ…なのかしら?)」

青木淳之介「(う、むぅ……、なかなか厳しいね……)」

 一寸法師のサゼロンを打ち倒した準一は、すぐにニコたちと合流を果たすことができた。

 その後も一緒に行動していた矢先にアカンベェと顔を合わせてしまったのだが、準一の能力があれば逃げる必要などない。

 洋館の壁と同化して対象の視覚から見えなくなってしまえばいい。

 つまり、透明になってしまえばアカンベェの目を欺けるのだ。

 準一の能力は直接的な攻撃力は何一つ持たないものの、誰かの目を騙すことに関しては万能に働く。

 それは自分の体だけではなく、周囲の環境や他人の姿まで影響するため、この場にいる全員を透明にさせることも可能なのだ。

 しかし、問題が一つ。

日野げんき「(……アカン…、めっちゃ動きたいわ…ッ)」

ニコ「(我慢しなさい!)」

青木淳之介「(僕らの足音を消すことは出来ないのかい?)」

桜野準一「(不可能やない……。せやけど、アカンわ…。先の戦いで、もうマジカルエナジーが残ってないねん…)」

 そう言いつつ、準一の鼻からツツーッと鼻血が流れ始める。

 この能力を含め、全ての宝玉の力にはマジカルエナジーが消費されている。

 対象を騙すためならば、視界も聴覚も何でも欺くことができる準一の能力だが、エネルギーだけは無限ではない。

 この能力を自由に行使できるのも限られているため、今は視覚だけを騙すことが限界だった。

 つまり、下手に身動きすれば足音が鳴り、大きな声で話せばその会話が聞こえてしまう。

 アカンベェがこの場を通り過ぎるまで、準一たちは逃げることができなくなってしまったのだ。

魔王「(つらいだろうが頑張ってくれ)」

ニコ「(魔王、ずるい!! わたしの影に身を潜めて!)」

魔王「(幻の宝玉を使う人員を減らすためだ)」

桜野準一「(ありがたい話やけど…、何か納得できひんわ…)」

ヘイテン「(お荷物は増える一方だしな)」

 ヘイテンの肩にはエィラが担がれ、頭の上にはサゼロンが乗っている。

 どちらも気絶した状態で、いつ意識を戻すか分かったものではない。

 ある意味、最も絶体絶命状態のあるのは準一たちなのかもしれないのだった。







 猛獣姿のアカンベェが洋館の至るところで動き始めた。

 その様子をモニタリングしていたジルドーレとニカスターは、マホローグの行動開始を察している。

ニカスター「これで三幹部全員が動き出したようですね♪」

ジルドーレ「ふむ……それではニカスター、そろそろ…」

ニカスター「えぇ、分かっています。わたくしも動き出すと致しましょう」

 デッドエンド・バロンの三幹部が始動したところで、ついにニカスターも戦場へと足を踏み入れる。

 向かう先は……言うまでもないだろう。

ジルドーレ「こちらに向かって単独で走っているらしいぞ。迎えに行ってやりなさい」

ニカスター「ニィッフフフ♪ では行ってきます」

 母に会うため、ニカスターは上機嫌でジルドーレの部屋を出て行った。

 残されたジルドーレは再びモニターに目を移す。

 新たに支配した派遣組の戦いは余興でしかなく、ルプスルンが倒された今では残された楽しみも限られていた。

ジルドーレ「どれ……アクアーニの方はどうなったか……」

 モニターの画面を切り替えて、アクアーニの部屋の様子を映す。

 すると、そこには……。

ジルドーレ「む?」

 もう既に誰もいなかった。

ジルドーレ「(新たに行動を開始したか……。して、何処に消えた?)」

 モニターを切り替え、現在にアクアーニを追っていく。

 やっと見つけた時、ジルドーレの目に飛び込んできた光景は……。
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