絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□昔を思う暴走
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 なおたちは、何層も先の階下まで落とされてしまった。

 素早く立ち上がって辺りを見渡し、全員の安全確認を手早く行っていく。

緑川なお「フランドール! チェイサー!」

チェイサー「ニーヤニヤニヤッ。ここだよーん♪」

 相変わらずの調子で立ち上がったチェイサーを尻目に、なおは二人目の返答を待つ。

 しかし、待てど暮らせど返ってくることはなかった。

緑川なお「あ、あれ…? フランドール…!?」

チェイサー「ニーヤニヤニヤ、こりゃ大変」

緑川なお「もしかして逸れちゃったの!? 早く見つけなきゃッ」

チェイサー「それも大変・だ・け・ど……もっと大変なのは上だよ、上♪」

緑川なお「はぁ? 上?」

 見上げて確認するまでもなかった。

 この崩壊を招いた元凶である巨体の男が、唸り声を上げて降ってくる音が聞こえてくる。

巨体の男『ーーーウボブォオオオッ!!!!』

緑川なお「げッ!!」

チェイサー「ニーヤニヤニヤ! あ、そらッ、逃げろぉい!!」

 フランドールと逸れてしまったのは気がかりだったが、この洋館内にいることは間違いない。

 何処に行ってしまったのかは不明だが、カエルの姿ではなく人間の姿に変身していたはず。

 ならば瓦礫に潰されていることもないはずだ。

 それならば、今は自分の身の守らなければならない。

緑川なお「大体、何なの!? あの巨人!!」

チェイサー「まぁ普通に考えりゃ、何かの絵本に登場する巨人、ってところかなぁ?」

緑川なお「やっぱアカンベェじゃないかッ。そもそも鳴き声が違うし、特徴的な鼻も見当たらないしッ」

 アカンベェではない何かが落ちてくる。

 潰されないように離れていったつもりだが、その程度では逃れられない。

 何しろ相手は生き物なのだ。

 目標が逃げているのを確認してしまえば、排除するために追ってくるのも当然である。

巨体の男『ーーーオォォォオオオオオッ!!!!』

緑川なお「……ッ!!」

チェイサー「ニーヤニヤニヤッ、やっぱり五月蝿ぇ!!」

 鼓膜を振るわせる咆哮に少なからず苛立つチェイサーは、逃げてばかりの足をグルリを回転させる。

 元々の特異能力である跳躍力と機敏さを駆使して、巨体の男の目の前まで跳ね上がった。

緑川なお「チェイサー!!」

チェイサー「喧しい口はチャックしよう♪ 子供でも知ってる常識さ!」

 チェイサーの考えは単純だった。

 鼻っ柱でも眉間でも眼球でも唇でも、とにかく何処でもいいから攻撃する。

 怯んだ隙にスタコラサッサ。

 それが神出鬼没なチェシャ猫の戦い方である。

 しかし……。

巨体の男「…………」

チェイサー「ーーーッ!!!??」

 その男の顔を見た瞬間、チェイサーの体が強張った。

 この巨体の男の意外な正体に、顔を見た瞬間に気付いてしまったのだ。

チェイサー「そんな…、まさかッ…」

緑川なお「……! チェイサーッ、危ない!」

 巨体の男の目の前で動きを止めてしまったチェイサー。

 それでは敵にとって狙い易い的でしかない。

 巨体の男が大きく腕を振るい、チェイサーを勢いよく地面に叩きつけようと拳を振り下ろしてきた。

 だが、なおに気付かれては意味を成さない。

緑川なお「“天風の一撃(マーチシュート)”!!」

 パワーアップした風の一撃を蹴り放ち、巨体の男が振るってきた腕を逆に弾き返す。

 男の体が大きく傾き、そのまま真後ろに背中を打ち付けて派手に転ぶ。

 地響きにも似た轟音が広がり、なおも思わず膝を付く。

緑川なお「おっととと! 危ない危ないッ」

チェイサー「…………」

 そんななおのすぐ傍に、黙ったまま硬直しているチェイサーが降り立った。

緑川なお「ちょっとチェイサー! あんなところで立ち止まってちゃ危ないでしょッ」

チェイサー「…………」

緑川なお「………あの巨人、いったい何なの…?」

 分かりきった質問は省略した。

 チェイサーの様子がおかしい。

 それは、あの巨体の男の顔を見た瞬間からだ。

 であるならば、チェイサーが気付いた“何か”は、あの男の正体以外には考えられなかった。

チェイサー「……ウラシマン」

緑川なお「え…?」

チェイサー「日本の昔話“浦島太郎”の主人公さ。顔を見たから、間違いないね」

緑川なお「ち、ちょっと待ってよ! あの巨人の正体が…浦島太郎だって言うの!?」

 チェイサーが言うのだから間違いはないだろう。

 しかし、それでも信じられなかった。

 常識だが、浦島太郎は巨人ではない。

 鼓膜にダメージを与えるほどの咆哮も吐かない。

 何より、あれほどまでブクブクと太った大柄な大男ではなかったはずだ。

 つまり、誰もが知っている“浦島太郎”の人物像の要素を、何一つとして持っていない。

チェイサー「まいったねぇ〜。どうやらジルドーレは、オレたちが思ってた以上に厄介なモンを撒き散らしてるみたいだ」
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