絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□ついに再会!
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 突如、激闘していたアカンベェが苦しみ出す。

猛獣アカンベェ「……ッ!! アッ、アカ…ッ、アッカンベェェェエエエエエ……ッ!!!!」

日野あかね「……!?」

ウルフルン「…なんだぁ?」

 あかねたちの前に現れて、今の今まで好き勝手に暴れていたアカンベェは……一頻り苦しみ抜いた末、やがて自然に消滅していく。

 あかねとウルフルンを相手に争った、その形跡だけを残して。

日野あかね「…………」

ウルフルン「……ったく、何だってんだ…。無駄に体力だけ使わせやがって…」

 わけが分からず悪態を吐くウルフルンだったが、あかねは何となく天井を見上げて勘付いていた。

 あのアカンベェは間違いなくマホローグの差金だ。

 で、あるならば……。

日野あかね「……マホローグ…、負けたのかも分からんな…」

ウルフルン「あぁ?」

日野あかね「だって、この状況で召喚したもんを下げる理由はあらへん……。せやのに、あんな無茶苦茶な形で退場させるっちゅーのは、おかしないか……?」

ウルフルン「……まぁ…、言われてみりゃ…確かにな……」

 先ほど、あかねとウルフルンはルプスルンを撃退してきた。

 デッドエンド・バロンの三幹部を倒すことが、どれほど困難か身を持って知っている。

 だが自分たちでも倒せたのだ。

 他の仲間の誰かが立ち向かい、見事マホローグを倒したというのであれば、それは喜びなのだろう。

ウルフルン「何であれ、ここにいたアカンベェは消えたんだ。どんな形でも順調には変わりねぇんだろ」

日野あかね「せやな…」

ウルフルン「みゆきを捜す。そんでもって、さっさとジルドーレの野郎をぶっ潰すッ」

日野あかね「分かっとる…。ほな行くでッ」

 そう意気込みを改めた……直後のことだった。



 ゴロゴロという低い地響きが恐ろしい速度で伝わり、二人の目の前の天井が一瞬で崩壊した。



日野あかね「どわぁあああ!!?」

ウルフルン「だぁあああッ、クソッ!! 今度は何だ!!」

 また敵襲かと思って身構えたが、今度は違った。

 崩壊した天井の瓦礫に紛れて、見知った男性が重い腰を持ち上げて顔を上げたのだ。

美優楽眠太郎「あ痛たたた……ッ。まだ寝惚けてるのか……」

日野あかね「……あの桃色の髪……、眠太郎さんか!?」

美優楽眠太郎「んん? その声は……」

 巻き上がる土煙を掻き分けて、眠太郎はあかねとウルフルンを見つけて歩み寄る。

 その背中には、いまだに意識を戻さないウラシマンの姿もあった。

ウルフルン「ウラシマンじゃねぇか!!?」

美優楽眠太郎「あぁ、色々あってな……。今は眠ってるが、とりあえずは何ともない」

日野あかね「とんでもない登場やな…。上の階で何があったん…?」

 眠太郎は、これまでの経緯を簡潔に話した。

 ジルドーレの魔手に堕ちたウラシマンを相手に、なおとチェイサーと一緒に戦ってきたこと。

 その過程でフランドールと別れてしまい、後にマホローグと遭遇してアカンベェの軍勢に襲われたこと。

 ウラシマンの相手を自分が引き受け、アカンベェの軍勢をチェイサーが相手したこと。

ウルフルン「……ウラシマンが、世話になったな」

美優楽眠太郎「なに、大したことではないさ。それよりもフランドールが何処に行ってしまったのか…」

ウルフルン「あぁ見えて頭は回る奴だ。近くで騒ぎが起きてる感じもしねぇし、問題ねぇだろ…」

日野あかね「ほんで? なおとチェイサーはどうなったんや? マホローグは?」

美優楽眠太郎「…………」

 眠太郎は重い口を開いた。

 伝えなければならない。

 アカンベェの一掃を抱えて、最後の最後まで自分らしく戦い抜いたお調子者の戦士の最期を。

美優楽眠太郎「チェイサーは、アカンベェを倒す使命を全うした後……還るべき場所に還っていったよ」

日野あかね「……ッ!!?」

ウルフルン「………そうか…」

 それだけで十分だった。

 二人はそれ以上、チェイサーについては何も追求しない。

美優楽眠太郎「だが朗報もある。なおくんが無事に、あのマホローグを打ち倒した」

日野あかね「…! ホンマかッ」

ウルフルン「じゃあ、さっきアカンベェが勝手に消えたのも…、やっぱそれが原因か」

 しかし、その際の凄まじい激闘が原因で戦場が崩落。

 マホローグの能力で眠らされていた眠太郎が目を覚ました直後、傍にいたウラシマンを巻き込んで床が崩壊し、あかねとウルフルンに出会ったというわけだ。

日野あかね「……っちゅーことは…、このまま崩壊した天井を通って、真上に行けば……なおとも会えるっちゅーことか…?」

美優楽眠太郎「いや、それはないだろう。なおくんも崩壊に巻き込まれている可能性があるが、今この場にはいない」

ウルフルン「…今の崩壊の中でも移動し、難を逃れた……ってわけか。じゃあ、もうこの上にはいねぇな…」

 崩壊の直前まで眠っていたため、この惨事に眠太郎は巻き込まれてしまったが、なおは違う。

 どうにか崩壊に巻き込まれる二次災害だけは免がれ、今も何処かで行動を再開していることだろう。

日野あかね「マホローグはどうなったんや?」

美優楽眠太郎「寝起きで意識もハッキリしていなかったし、詳しいことは分からんが……死んではいなかったと思う」

ウルフルン「崩落に巻き込まれたか、生き延びたか……。まぁ、どっちにしても再動まで時間はかかるだろうな」

 もうマホローグは脅威ではない。

 それだけでも分かれば十分だった。

 ウルフルンは、眠太郎に代わってウラシマンを背負うと、あかねたちを引き連れて行動を再開する。

ウルフルン「オレたちも動くぞ」

日野あかね「せやな…ッ」

美優楽眠太郎「う、うむ…」

 ウラシマンを含めて四人になり、再び移動を始める面々。

 天井だった瓦礫を飛び越え、ほんの数分ほど廊下を駆け抜けていった時のことだった。

 それほど遠くない場所から、何かと何かが争っている戦闘音が聞こえてきた。







 なおはマホローグと別れていた。

 あの崩壊があった直後、一緒に助け出そうと手を伸ばしたのだが、それをマホローグが振り払ったのだ。

緑川なお「(あの状態で動けるはずがないけど……眠太郎さんたちも落ちていったみたいだし、任せちゃって大丈夫かなぁ……)」

 なおは知らない。

 眠太郎とウラシマンが落ちた先に、マホローグがいないことを。

 あかねたちと合流を果たした眠太郎たちだったが、その場にマホローグはいないのだ。

 マホローグが何処に行ってしまったのか、なおを含めて誰も知らない。

緑川なお「……あたしはあたしで…、一歩でも前に進まなくっちゃ…ッ」

 そしてなおは、あの崩壊に巻き込まれる前に廊下を駆け抜けて移動し、体を休めていた。

 駆け抜けて、と言っても地を這うようにして両腕と片足を無様に動かしていた、という方が正確である。

 マホローグとの戦いで失った左脚は、もう二度と戻ってこない。

緑川なお「……一歩でも…、前へ…ッ」

 そう言い聞かせ、左手を廊下の壁に添い、歩き始める。

 マジカルエナジーの消費も激しく、今は風に頼るわけにもいかない。

 次の戦闘に備えて、今は温存しておくべきだと判断したのだ。

 と、そんな時……すぐ近くで、聞き覚えのある少女の叫び声が聞こえてきた。



森山しずく『ーーーきゃぁあああッ!!!!』



緑川なお「……ッ!!? 今の声…、しずくちゃん…!!」

 壁に沿って歩くペースを上げていく。

 声が聞こえた方に向かい、廊下の角から顔を覗かせると……目と鼻の先に、その少女はいた。

 全身が血にまみれ、息も絶え絶えで誰かと戦っているしずくの姿が。

緑川なお「しずくちゃんッ!!!!」

森山しずく「……ッ…、ぁ…」

 今にも泣きそうながら、安心した様子が顔に浮かぶ。

 だが状況は芳しくない。

 しずくが相手していた何者かは、まだ目の前に立っている。

????「なんだ……お仲間かぁ?」

緑川なお「ーーーッ」

 その者を見て、なおは戦慄した。

 見た目から、ウラシマンと同じく絵本の世界から派遣されて、ジルドーレの魔手に堕ちた者だと理解できた。

 だがそれ以上に、なおはその者の正体に勘付いたのである。

 そして予想できた。

 この者は、絵本の世界から派遣された住人の中でも……間違いなくトップクラスに入るほどの“最強の登場人物”であることを……。
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