絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□母子対決!?
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 アクアーニの金棒が振るわれ、それをモモタトスの刀が受ける。

アクアーニ「ふんッ!」

モモタロス「ぬ…ッ、くぅ…!!」

 モモタロスの刀が風を切り、アクアーニの金棒が弾き退ける。

モモタロス「だぁあああ!!」

アクアーニ「む……ッ!!」

 どちらも一歩として譲らぬ攻防。

 アクアーニたちの背後に立つあかねたちが加勢すれば、まだ勝機もあるだろうが……。

アクアーニ「やよいッ、仲間を連れて先に行くのであるッ」

黄瀬やよい「えッ、で、でも…」

アクアーニ「ジルドーレを討つためにも、この場で戦力を分かつのは痛手であるッ。進め!」

 ジルドーレの強さは知らない。

 だが、今までのどんな敵よりも強力であることは間違いないのだ。

 アクアーニと一緒に留まったところで、肝心な戦陣に人手が足りなくなっていては何にもならない。

日野あかね「……やよい、行くで…」

黄瀬やよい「でも、アクアーニがッ」

美優楽眠太郎「任せておけばいい。それだけの実力と自信があるはずだ」

 それに、今はウラシマンも運ばなくてはならない。

 アクアーニのお荷物にならないよう、大人しく先に進むのが吉というものだ。

黄瀬やよい「……アクアーニッ。また後でね!」

アクアーニ「了解した」

 あかねたちが先へと進み、この場にアクアーニとモモタロスが残される。

 意外にもモモタロスは、あかねたちを追うような真似を見せなかった。

 桃太郎として、目の前の青鬼を討つことだけに専念するつもりらしい。

アクアーニ「感心である。桃太郎の主人公よ」

モモタロス「黙れッ。人を襲うことを悪としない卑劣な鬼め!」

アクアーニ「…………」

モモタロス「ここで大人しく討たれてもらおうか……ッ。それが桃太郎として生まれた者の役目なりッ」

アクアーニ「人を襲うことを悪としない、か……。的を得て妙であるな」

 かつて自分は、デッドエンド・バロンの一員として人的被害を及ぼす事件にも手をかけただろう。

 だがその真意が、人間の友達が欲しかったから、ともなれば笑い話だとしてもふざけている。

 しかし、もう今のアクアーニは違うのだ。

アクアーニ「抗うのである。鬼として生まれた者の役目から……」

モモタロス「なに?」

アクアーニ「鬼であろうと、人を守る。善も悪も関係ない。友達を守るのは当然であろう? モモタロス」

モモタロス「…………」

 金棒を構えるアクアーニを見据え、これまでにない“何か”を感じ取るモモタロス。

 だが決して、その刀を収めるつもりはない。

モモタロス「お主が、鬼の分際で世の人を守るというのならば……それも良かろう」

 刀を構え、討つべき敵を見据えて不敵に笑い、戦意を表す。

モモタロス「まずはその幻想を斬り伏せるッ。覚悟しろ、この鬼め!」







 みゆきの居場所もジルドーレの部屋も、皆目見当も付かない。

 あかねたちは、とりあえず勝手に突っ走っていったウルフルンを追うことにしていた。

日野あかね「っちゅーかウルフルンのやつ、ホンマにどうしたんや……?」

美優楽眠太郎「急に走り出したしなぁ…。何か悪いことでも予感したんだろうか…?」

黄瀬やよい「とにかく誰かと合流しなくちゃ。このまま三人で掛かっても、きっとジルドーレには敵わないよ」

 本当のことを言えば、誰ひとり欠けることなく全員で集合できたとしても、ジルドーレに勝てるかどうか分からなかった。

 それだけ未知数なのだ。

 宝玉を二つも取り込んだ者など前代未聞で、ジルドーレは“無の宝玉”を明かしている。

 だが、もう一つは今も不明なまま。

美優楽眠太郎「どんな爪を隠しているか、分かったものではないな……」

黄瀬やよい「多分、一番ジルドーレに近付いてるのってみゆきちゃんだよね? 無事だといいんだけど……」

 その予想は、誰よりも早くジルドーレの部屋に向かったから、という理由から来るものだ。

 誰もがバラバラになっていく中で、いの一番にジルドーレを目指しているのはみゆきしかしない。

 それは何時間も前に逆上るほど前のことなのだが、それ故に新たな疑問も生まれてくる。

日野あかね「……妙やな…」

黄瀬やよい「…え?」

 今まで気付かなかったわけではない。

 ただ、もしも本当だったなら“あまりにも非常識”だったため、そんなはずはないと考えないようにしていただけだ。

 だが改めて思い返せば、やはり不自然に思えてならなかった。

日野あかね「ウチら、もう何時間動いてんねん……。せやのにジルドーレの尻尾も掴めへん……」



日野あかね「この洋館、ウチらが来た時より広ないか……? もうわけ分からんわッ」



 その疑問の答えは、今し方みゆきも聞き出したところだ。

 目の前に現れたニカスターが、この洋館の秘密を教えてくれた。







 ニカスターがみゆきの目の前に現れるまでの経緯は、簡単に言えば以下の通りだ。

 ニカスターが動き始めた際、偶然にもみゆきはジルドーレの部屋に続く最短のルートを走っていた。

 洋館の内部をリアルタイムで観察し、より面白い展開に進めるように構造そのものに手を加え、洋館内部のルートを変えていた。

 これがジルドーレによる、洋館の秘密の真実。

 しかし、その中にもルールを決めており、ジルドーレは自分の部屋に続くルートにのみ手を加えることはなかった。

 どれだけ頑張ってもラスボスまで辿り着けないゲームにしないための拘わりだった。

 だが、みゆきの走るルートに気付いたニカスターは、ジルドーレに頼んで一度だけルートを操作してもらったのだ。

 一時的でいい。

 ジルドーレの部屋に到達する前に、みゆきのルートを無限ループの廊下に落として、ジルドーレの部屋に行かせないように。

 それらが済んだところで準備は完了。

 あとはニカスターが、そのループの輪に加わって真実を語る。

 洋館内操作の種明かしをした後にルートも正常なものに戻し、母と子の親子喧嘩という名の遊戯を楽しむ前戯として。
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