絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□貫き通す意思
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 ニカスターの頬を撫でる業火の熱風。

 先程まで目の前にいたみゆきの姿は、炎の中へと消えていった。

 しかし、その直後に場の空気を包み込んだのは……真っ白な煙と言えるほど濃厚な蒸気。

ニカスター「…………」

 ジュワァアアアッ!!!! と派手な音を立てて広がっていく真っ白な蒸気の正体は、炎を浴びたことで生まれた水蒸気の波だった。

 ニカスターは、気付いていた。

 気付いていて、あえてみゆきに炎を放った。



 この場に“駆けつけた彼女たちが、必ずみゆきを守ってくれる”と確信していたから。



ニカスター「……ニィッフフフ…♪ さすがですねぇ…。上出来です!」

 水蒸気の大波が晴れた時、先程までみゆきが座り込んでいた場所には……。

 相変わらずボロボロになった衣服を身に着けているものの、何故か火傷一つ負っていないみゆきの姿。

 それに並んで、ニカスターを睨みつけている人物が二人、この戦況を理解し、土壇場であろうとも瞬時の判断力で加わってきていた。



星空みゆき「……れいかちゃん…ッ、ジョーカー…ッ」



ジョーカー「手遅れになる前で何よりです」

青木れいか「お待たせしました、みゆきさん」

 みゆきとニカスターの立ち並ぶ戦場に、最強タッグが加勢した。







 きっかけは、二つの光が交差した際に生まれた戦闘音だった。

 みゆきの光と、ニカスターの光。

 その威力は凄まじく、一定の範囲ならば洋館内の空気を響かせるほどの音を発している。

 それを聞きつけたれいかとジョーカーが、みゆきとニカスターの姿を確認するまで時間は掛からなかっただろう。

 だが、そんな二人の到着はニカスターに気付かれてしまった。

ニカスター「アナタ方が到着した以上、ワタクシの攻撃からお母様を守って当然……。総判断した上での放火でした♪」

青木れいか「わたしの氷結能力が間に合わず、みゆきさんが焼死する可能性を考えなかったのですか」

ニカスター「はい」

 即答だった。

 ニカスターには、それだけの自信と確信があったのだ。

ニカスター「宝玉に関する事件を経て、アナタ方の絆の深さは知り得ています。間に合わない、なんてことは絶対にありえないのですよ♪ ニィッフフフ……」

ジョーカー「呆れます。何とも嬉しくない信頼ですねぇ」

 そう言いつつ、ジョーカーは手品師の真似事をして簡単な衣服をパッパと取り出した。

 安っぽいカーディガンだったが、それをみゆきに放り渡して先を促す。

ジョーカー「それを着て先をお急ぎなさい」

星空みゆき「…え?」

青木れいか「ニカスターの相手は、わたしたちが引き受けます…。みゆきさんはジルドーレの部屋に向かってください」

 二人は知らないのかもしれない。

 つい先ほど明かされたばかりの、ニカスターが秘めている面倒な能力を。

星空みゆき「ま、待って! わたしも一緒に戦うッ」

青木れいか「…みゆきさん?」

星空みゆき「ごめん…ッ。わたしのせいなの……。わたしがニカスターに、あんな能力を…作っちゃって……」

 一度見た能力を複製し、独自の効果を付け加えて発動する力。

 あらゆる絵本の夢を詰め込もうとした結果、幼く無邪気な心が実現させた厄介な能力。

ジョーカー「なるほど…。ニカスターがみゆきさんの能力に似た力で対抗していたのも、それが所以ですか」

星空みゆき「うん…。多分、二人だけじゃ倒せない…。だから……」

 しかし、れいかたちの意見は変わらなかった。

 確かに二人では難しいかもしれない。

 だが相手はニカスターだ。

 早く打ち倒さなければならない敵ではないのなら、ここで時間も戦力も割いている暇はないのである。

青木れいか「いいえ、みゆきさん。わたしたちなら大丈夫です」

星空みゆき「れいかちゃん…!」

ジョーカー「れいかさんの言う通りですよ。ここは、わたしたちを信じてください」

星空みゆき「ジョーカー…」

 二人の顔を見て、三人はお互いに目で合図する。

 無言の対話。

 そして、決断の時。

星空みゆき「……ありがとう…。先に行くね……ッ」

青木れいか「任せてください」

ジョーカー「お気を付けて」

 れいかとジョーカーを残し、ニカスターの背後に続く廊下の先に向けて走り始める。

 ニカスターの真横を素通りした時、意外にもニカスターはみゆきを止めようとしなかった。

星空みゆき「………ッ…」

ニカスター「ニィッフフ」

 すれ違う瞬間、目が合った。

 息を呑むみゆきに対して、ニカスターは不敵な笑みを残すのみ。

 一切手を出すことなく、そのままジルドーレの部屋へとみゆきを向かわせるのだった。

青木れいか「…追わないのですか?」

ニカスター「…………」

ジョーカー「それとも、初めから止める気もなかったのですか…?」

 ニカスターの意図が分からず、警戒を解くことなく質問する。

 するとニカスターも、別に隠すことでもないため回答してくれた。

ニカスター「お母様とは、本気で戦いたくないのですよ」

青木れいか「…………」

ニカスター「立場こそ敵対していますが、これでもワタクシを作ってくれた方なのです。当然でしょう?」

 これまでも、ニカスターはみゆきを手助けしたことが何度かある。

 デッドエンド・バロンの一員である前に、みゆきは自分にとって生みの親も同然。

 倒したり殺したりする戦闘行為は、出来れば避けたかったのがニカスターの本音なのだった。

ジョーカー「では、どうしてあなたはここにいるのですか?」

ニカスター「…………」

ジョーカー「母であるみゆきさんと敵対してでも、デッドエンド・バロンに加わっているあなたの願いとは……いったい何なのですか?」

 この質問には、答えなかった。

 その代わりに見せた回答は、れいかとジョーカーに対する明確な敵意。

 みゆきには決して向けることがなかった、殺意を孕んだ本物の敵対心。

ニカスター「お母様も先に向かわれました…。もう我慢することは何もありません…ッ」

青木れいか「……!」

ニカスター「さぁ…、殺し合いましょう! 本来ワタクシたちがあるべき姿を、今こそ開放し合うのです…! ニィッフフフフフ!!」

 みゆきたちと戦わなければならない立場。

 しかし、戦いたくない感情と傷付けたくない本心。

 何かしらの理由を言い訳に、回避したかった本音を告白したが、今のニカスターは戦意を表している。

 理由など簡単だ。

 みゆきではなく、れいかたちが相手ならば殺したって構わない。

 やっと戦える相手を前にして、ニカスターは本気の敵意を持って襲いかかった。

 剣を取り出し、思いっきり振りかぶるニカスター。

 それを見たジョーカーが取った行動は、笛を取り出して奏でること。

ジョーカー「“ネズミも子供も踊りなさい”」

ニカスター「……!」

 笛の音を聞いた生き物を自由自在に操る能力。

 だが、その魔句詠唱の発動を察したニカスターは……。





 何の迷いもなく、自らの耳を斬り飛ばした。
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