絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□消し飛ばす力!
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裏切り、別離、そして改心。
それらを経て再会を果たすに至った少年、天願朝陽が皆の前に姿を現す。
森山しずく「……!」
桜野準一「朝陽…」
緑川なお「…ッ」
朝陽の登場に顔を綻ばせるのは、しずくと準一の二人だけ。
朝陽のことを詳しく知らない者は、いったい誰が来たのかと首を傾げるだけだが……。
逆に朝陽の事情を知っている者からすれば、この場に駆け付けてくれたとしても素直に喜べるものではない。
緑川なお「…天願……」
天願朝陽「……言いたいことは分かる…。でも今は勘弁してほしい」
たった二言三言の会話だったが、それだけでも伝わるものはあった。
もう“あの時の天願朝陽ではない”ということが。
天願朝陽「色々とごめん。他のみんなと合流できたら、またちゃんと謝るつもりだからよ」
緑川なお「……当然でしょ」
魔王「だが…、ここでギスギスと関わり合いを見せている場合でもないな…」
ニコに抱かれながら、苦痛に顔を歪めつつ魔王が割って入る。
目の前に立つ大猿のセイテンは、いまだに何が起きたのか理解できずに困惑しているようだった。
セイテン『おい! そこのお前! いったい何しやがった!』
天願朝陽「おーおー、無駄にデケェ声してんなぁ! あれって、デッドエンド・バロンの新しい幹部か? 孫悟空って敵なのか?」
緑川なお「違うよ。ジルドーレの魔手に堕ちた、絵本の世界の派遣組の一人」
天願朝陽「おぉ、なるほど……」
何となく事情を把握した様子の天願は、その場で手首と足首を回しながらストレッチを簡単に済ませ、笑みを浮かべながら前に出る。
周囲を見渡しても一目瞭然。
もう、目の前の怪物を相手に戦える者は皆無だった。
天願朝陽「どうやら、ここは僕の出番みたいだからよッ。ウォーミングアップだ♪」
セイテン『……! 二度も三度も同じ手を食らってたまるか! 調子に乗るなよッ、人間!』
セイテンは、自身の両耳の穴の中に指先を忍ばせる。
そこから取り出したのは、二本の如意棒。
もちろん伸縮自在である上に、太さまで調整が利く“相棒”そのものだ。
日野げんき「おい! あの巨体で反則だろッ」
サゼロン「もはや山のようでおじゃるッ」
エィラ「…あら? そういえば、先程まで振るっていた最初の如意棒は何処に行ったのでしょうか?」
青木淳之介「あ…、言われてみれば……」
朝陽が駆けつけてくれる直前。
なおたちに向けられていた極太の如意棒。
それは今、何処を見渡しても見当たらなくなっていた。
セイテンが消失させたのだろうか?
それとも……。
セイテン『今度こそ終わりだぁ! このまま消し飛べぇえええッ!!』
より長く、より太く、最強の武器へと変貌を遂げた二本の如意棒を両脇に挟んで構える。
狙うは前方。
誰一人として余すことなく薙ぎ払うため、セイテンは勢いに任せて如意棒を振るった。
しかし……。
天願朝陽「無駄だからよ。その玩具は片付けときなさい」
セイテン『あぁ!?』
目の前に迫り来る殺戮の一撃。
それに対して一切臆する様子を見せずに前線に立ち続ける朝陽。
げんきたちが慌てふためいている中で、しずくと準一だけは安心にも似た表情を浮かべて肩の力を抜いていた。
なおも、納得のいかない様子ながらもその身を預けて休息に呈している。
天願朝陽「“笑福の守神(コスモハザード)”」
構えなかった。
左手をポケットに入れたまま、右手を腰に当てたまま。
セイテンに向けて身構えることもなく、ただ技名を呟いただけ。
たったそれだけのことで、セイテンの両脇に挟んで固定して振るっていた二本の如意棒は……一瞬にして音もなく消失する。
セイテン『…………!!?』
あまりに突然のことに、不覚にも二度目の困惑を味わう。
しかし今回はそれで終われなかった。
どういう力が働いているのか知らないが、大猿化しているセイテンの目の前に笑顔を浮かべた朝陽がパッと現れた。
セイテン『うおお!!』
天願朝陽「だからデケェって! その声!」
よく見れば、朝陽に下半身がなくなっている。
腰から下は黒い靄か霧のようなものが噴出しており、それを利用して空中飛行しているようだ。
ニコ「あれは…」
魔王「…あぁ。話には聞いていたが、間違いないようだな」
そんな朝陽の様子を見て、ニコと魔王は確信に至った。
自分自身の内側に混沌を宿して、あらゆるものを無限の彼方に追放する能力。
ブラックホールを作り出して自在に操ることが出来る力を秘めた宝玉。
ニコ「黒い力……、闇の宝玉」
魔王「コスモの力、か。俺たちが知らない間に、あれほどまで使いこなしていたとは」
ニコと魔王が会話している最中。
朝陽の体から噴き出した“闇”がセイテンの巨体を包み込んでいた。
まるで圧縮されるように、セイテンの体を包み込んだ闇の塊が少しずつ縮小していく。
それは、なおとしずくが戦っていた頃のセイテンと同じ大きさになるまで縮んでいった。
天願朝陽「君の中の悪い部分を吸収してやる。また明日から笑顔を作るためだからよ」
緑川なお「…………」
セイテンを一切傷付けることなく、目の前で戦いが終わっていく。
一度悪堕ちを経験し、みんなを裏切り、改心を経て戻ってきた朝陽。
同じ状況に立っていたからこそ、セイテンに同情しての倒し方だったのかもしれない。
緑川なお「……筋は通すんだね…。安心したよ…、天願」
闇の塊が解かれ、元通りの姿へと戻ったセイテンが倒れている。
気を失っているようだが、例え意識があったとしても戦意は喪失していることだろう。
朝陽の闇に呑まれた悪の部分が綺麗サッパリ抜け落ちたセイテンの素顔は、まるで心地よい夢を見ている赤ん坊のような笑みを浮かべているのだから。
みゆきの光の力は、傷を癒して治す能力があった。
逆に朝陽の闇には、傷を取り除いてダメージそのものを消滅させる効果を持っている。
この力で傷ついた者たちの手当てを完璧に済ませたのは良かったが、この力にも例外はあった。
天願朝陽「ごめん、なお。その脚は僕の力でも、さすがに……」
緑川なお「気にしなくていいよ。元から“そういうものだ”って分かってたし、消し飛ばす力を使って復元されても矛盾してるだろうしね」
緑川ひな「なお姉ちゃん……」
せめて傷口だけでも治癒できたのは救いだった。
まるで最初から左脚がなかったかのように、なおの左脚の断面は綺麗に仕上げられている。
それが逆に残酷にも思え、ひなの目には涙が浮かぶ。
天願朝陽「ここにいるほとんどは絵本の世界の関係者と人質で連れて来られた子たちばっかりか……。みゆきたちは?」
緑川なお「分からない。ここに来てみんなと別れてから、まだあたしも再会できてないし…」
天願朝陽「そっか…。じゃあ悪いけど、ここのみんなを頼んだからよッ」
緑川なお「え?」
その言葉の意味を訊こうと顔を上げた時、既に朝陽の全身から闇を噴出させて浮遊を始めている。
桜野準一「朝陽!」
森山しずく「朝陽先輩!」
天願朝陽「先にみゆきを見つけて、みんなも捕まえて戻ってくる! 多分ジルドーレに一番繋がりが濃いのってみゆきだからよッ」