絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□闇を経て集結!
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無の宝玉を使い、あらゆる攻撃を無力化させて無効とするジルドーレ。
しかし、ウルフルンの強力な拳はジルドーレの防壁を貫き、その顔面を殴り飛ばした。
明確なダメージが伝わったと思われるジルドーレは、いまだに床に倒れたまま動かない。
星空みゆき「…ウルフルン。今の力って……」
ウルフルン「あぁ、魔句詠唱の効果だ。オレの力は“対象が如何なる防衛能力を持っていようと、それを上回る力で粉砕する能力”なんだ」
天願朝陽「なにそれ!? じゃあ無敵じゃんッ」
ウルフルン「ところが、そう上手くはいかねぇのさ…。こいつには弱点がある」
ウルフルンの正体は、民間伝承“三匹の子豚”に登場するオオカミである。
一匹目のブタが建てた藁の家を強烈な息吹で吹き飛ばし、二匹目のブタが建てた木の家を強力な脚力で蹴り倒す。
しかし、三匹目のブタが建てた煉瓦の家には歯が立たず、最後には煙突から忍び込んでブタを食べようとした。
だが煙突の下に準備されていた釜の中へと放り込まれて、最期はブタに食べられて殺されてしまうのだ。
天願朝陽「……三匹の子豚って、そんな話だったっけ?」
ウルフルン「時代と共に残酷な部分が改良されてんだよ。だが初版はそんなモンだ。オレの力はそれを模してる」
星空みゆき「それじゃあ、ウルフルンの弱点って……」
まだ一発、ジルドーレを殴っただけ。
それを三匹の子豚のエピソードに重ねていくのなら……。
ウルフルン「オレの無敵化は二回が限度だ。それも、連撃には加算されずに一発は一発。しかも三度目の攻撃を仕掛ける際に、オレは今までの自分以上に弱くなっちまうんだ」
天願朝陽「条件付きの最強、ってことだからよ……。こりゃ厄介だな」
普通の攻撃が通じないジルドーレに、ウルフルンの手で明確なダメージを与えられるのは残り一回。
何度も魔句詠唱を使っていてはウルフルンのマジカルエナジーが底尽きる。
それに、どれだけの攻撃を叩き込めばジルドーレを倒せるか分からないため、無作為にゴリ押しするわけにもいかない。
ウルフルン「とにかく、オレだけの力じゃジルドーレを倒せねぇ。他の連中と合流するか到着を待つか……とにかく、頭数を増やさねぇことには」
天願朝陽「あぁッ、それならノープロブレムだからよ!」
ウルフルン「あん?」
視線を向けた時、朝陽は片膝を崩して地面に右手を着けていた。
何をするつもりなのか問おうとした直後、朝陽を中心に、地面いっぱいに“闇”が広がっていく。
天願朝陽「“無法の救済(コスモハザード・ディメント)”ッ!!」
洋館内の全ての廊下に、朝陽の闇が広がっていく。
規模と対象数によって発動まで時間がかかるが、指定した対象を闇の中に引きずり込み、同じく闇が広がっている別の場所まで転移させることができる力だ。
天願朝陽「これはッ、マジカルエナジーの消費量が半端じゃねぇッ。そう何度もッ、多様は出来ねぇ力だからよぉッ」
星空みゆき「朝陽くんッ」
天願朝陽「でもッ、こういう状況で使わねぇとッ、意味ねぇことだからよぉ! さぁ集え! 全員ッ、この場所にッ!!」
朝陽の全身に汗が滲み出る。
その様子を見るだけで、この力が如何に常識外れな効果を持っているのかを知れた。
今後の戦闘で使用するマジカルエナジーにも左右されるが、これほどの力を再び使うのは至難の選択だろう。
だが、これでいい。
ラスボスのジルドーレを目の前にして戦力不足なのだ。
ここで使わなければ意味がなかった。
あかねとやよいと眠太郎は、目を覚ましたウラシマンに現状を説明していた。
ジルドーレの魔手に堕ちていたことも、全て。
ウラシマン「みなさんには、とんでもねぇ迷惑をかけたみたいッスねぇ…。ホント、申し訳なかったッス…」
美優楽眠太郎「気にすることないさ。もう暴れないんだったらな」
日野あかね「いや、ジルドーレを倒す、っちゅー意味なら暴れてもらうで。ウチらも急がなッ」
と、ここで朝陽の闇が到達する。
あかねたちの足元に広がった闇は、事情を知らないあかねたちの体をズルズルと闇の中に引きずり込み始めた。
黄瀬やよい「わわわッ!! な、なにこれぇ!?」
ウラシマン「こ、これがジルドーレの力ッスかぁ!?」
日野あかね「そんなんウチらかて知らんわ!」
美優楽眠太郎「…………」
ただ一人、闇の力に対して心当たりがある眠太郎だけが、冷静に甘んじて闇の体を飲まれていく。
セイテンの意識が戻ったところで、なおたちも行動を始めようとしていた。
しかし、当然ながらこちらにも朝陽の闇が迫り来る。
緑川なお「……!」
森山しずく「これって……」
桜野準一「朝陽や! ジルドーレんとこまで辿り着いたんや!」
幻の宝玉『おぉッ、ついに最終決戦でござるか!』
ニコ「……ジルドーレ…」
魔王「臆するな、ニコ。ここを乗り切れば、事件解決も目前だ…」
日野げんき「姉ちゃん……大丈夫かな……」
青木淳之介「問題ないさ。きっと合流できる」
緑川ひな「でも…怖い…」
セイテン「この闇ッ、ジルドーレのヤツの力とは違うのか!?」
ヘイテン「当然だ。まぁ、確かに見た目は禍々しいが、俺たちが手を貸すべき連中の力の一つ、ってところだ」
サゼロン「麻呂も手を貸すでおじゃるッ」
エィラ「誰一人欠けることなく、全てを終わらせましょう。みなさん、お気を付けてッ」
不安はある。
だがその心境とは裏腹に、個々の結束の力は強まっているように感じられた。
右脚を失ったジョーカーと共に洋館を巡っていたれいかも、朝陽の闇を目の当たりにした。
朝陽がジルドーレのところに到達した事情を知らない二人だったが、この現象を見て鋭い勘を働かせる。
青木れいか「…ジョーカー」
ジョーカー「えぇ、分かっていますよ。いよいよ、最後の戦いが始まるのですね……」
見た目だけなら恐ろしく見える闇の侵食も、二人は甘んじて受け取った。
バラバラだった者たちが、朝陽の闇を通じて一ヶ所に集おうとしている。
この事件が勃発する発端となった、ジルドーレの待つ戦場へと……。
そしてその枠組みには、この者も含まれようとしていた。
アクアーニ「……む?」
モモタロスとの戦いを続けていたアクアーニの足元に広がった闇が、ズルズルとその身を飲み込み始める。
どうやら、みゆきたちの仲間として対象に加わり、迎え入れられているようだ。
アクアーニ「…………」
モモタロス「待て! 我との戦いに決着を付けずして、何処に行くつもりだ!」
アクアーニ「…生憎と呼び出しを受けてしまったようである。私の仲間が待っているのだ」
モモタロス「なに!?」
アクアーニ「ここで失礼する。私は友達の助けに向かおう」
一方的な呼び出しを受け入れ、アクアーニは闇の中へと姿を消していく。
だが、それを許すモモタロスではなかった。
モモタロス「この鬼めッ。ここで逃がしてなるものか!」
アクアーニ「…むッ」
アクアーニの全身が沈む直前、モモタロスはアクアーニの角を掴み取った。
それが判定に値したのか、もしくは朝陽の力にも限界が近かったのか。
モモタロスまで枠組みに加わり、その身が闇へと沈んでいく。
洋館の内部で個々に散っていた者たちは、こうして集結の過程を辿った。