絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□認められた器
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 ジルドーレには、あらゆる攻撃が通用しない。

 取り込んでしまった“無の宝玉”の力で、あらゆる攻撃を一瞬で無効化してしまうのだ。

 みゆきたちが放った渾身の一撃、総合計七発。

 それらも、触れられた瞬間に無力化の末路を辿った。



 ジルドーレには、死期という最後が存在しない。

 取り込んでしまった“死の宝玉”の力で、完全な死を前にして蘇ってしまう。

 無の宝玉の効果を退けて攻撃を当てることが出来たとしても、結局は何の意味もない。

 死を超越したジルドーレの体は、例え全身をバラバラにされたとしても絶命することはないのだから。



 それが実力。

 二つもの宝玉を取り込む過去にない異例の偉業を成し遂げた者の、今の戦力。

ジルドーレ「さて、これで終いかね?」

 たった一人“絶対無敵”の舞台に立って、彼は気怠げに呟いた。







 もはや“戦い”ではない戦場。

 それは“一方的な虐殺”といっても過言ではない状況として目の前に広がっていた。

ウルフルン「……ッ」

ジョーカー「これは、反則と呼ぶにも生温い……ッ」

魔王「…実に厄介だ……」

ニコ「どうしたら…ッ」

 みゆきもあかねも、やよいもなおも。

 れいかもしずくも、眠太郎も。

 本気の本気で渾身の一撃を放ったつもりなのだ。

 誰だって、必殺の一撃を放った瞬間に無力化されれば同じ感想を抱くだろう。

 勝てない。

 どうすればいいのか分からない。

 このままでは負けてしまう。

ジルドーレ「考えても無駄だ。先に述べたばかりだろう?」

星空みゆき「……!」

ジルドーレ「きみたちにわたしは倒せんよ。それが現実だ、とね?」

日野あかね「そんなん、聞いててもしゃーないわ!」

黄瀬やよい「わたしたちは勝たなきゃいけないのッ」

緑川なお「黙って退くなんて、筋が通らないッ」

青木れいか「二つの世界を背負ってきたんですッ。負けられません!」

 五人が胸を張って告げた意思に乗じて、少女たちの頭上を超え、次なる戦力がジルドーレに飛びかかる。

ウルフルン「そういうこったッ!! 覚悟しろッ、ジルドーレ!!」

ジョーカー「ゴリ押しも致し方ありませんね!」

魔王「手加減無用だ!!」

 並みの力を取り戻したウルフルン、長剣を構えるジョーカー、ドラゴンの力を一点に集中させた魔王。

 だが、ここで終わらない。

アクアーニ「行くのであるッ」

モモタロス「覚悟ぉ!!」

 みゆきたちの左右から第三戦力が突き進む。

 右手から、金棒を構えたアクアーニ。

 左手から、悪堕ちした状態のまま剣を振りかぶるモモタロス。

 更に、セイテン、サゼロン、ヘイテンら、残る全精力が勢いに乗じて突進していく。

 だが……。

ジルドーレ「………つまらん…」

 呟き、たった一歩、ジルドーレが踏み出した。

 待っていても標的は向こうから迫っているというのに、それを待つ時間すら飽き飽きしてきた。

 右へ左へと無造作に手を振っていき、迫り来る攻撃の一つ一つに触れていった。

 ただそれだけ。

 ジルドーレに向けられた敵意という名の攻撃、その全てが虚しく消し飛ばされていく。

日野げんき「…お、おい……」

緑川ひな「……ッ」

青木淳之介「……こんなッ」

ニコ「……戦力差が、開きすぎてるッ」

エィラ「ここまで、一方的なんて……」

 まさに“地獄絵図”だ。

 ここまで勝ちの見えない戦いもないと思った。

森山しずく「…………」

美優楽眠太郎「…………」

 力があった者さえ、成り行きを見守るしかない。

 力を振り絞るだとか、努力するだとか、何処かに勝機があるとか、そういう次元にない。

ジルドーレ「もう何度目か分からんが、今一度改めようか?」

星空みゆき「…………」

ジルドーレ「きみたちに、わたしは、倒せんよ」

 みゆきたちの攻撃、その全てを打ち消して、絶対無敵の殺人男爵は呟いた。

 そんな中で。

天願朝陽「…みゆき」

星空みゆき「…!」

 ある程度の体力を取り戻した朝陽が、準一の肩を借りてみゆきの傍まで歩み寄り、そっと耳打ちする。

天願朝陽「普通に考えて、今のままじゃ勝ち目なんて、もうないみたいだからよ……。せめて、条件を同等に整えよう」

星空みゆき「……どういうこと?」

桜野準一「何や? 朝陽、まだ手が残っとるんか?」

 言われるまま同行していた準一も、朝陽の発言に興味を示したようで、みゆきとの会話に自然と入り込んでいく。

天願朝陽「上手くいく確証はない。でも、今のままじゃ勝てないなら、その手に乗ってみる価値もあるはずだからよ……。多分、最後の賭けだ」

 最後の賭け。

 文字通りで捉えるのならば、もしもその手に敗れた場合……。

 もうジルドーレとの戦いに、勝利することは不可能なのだろう。







 情けないと思った。

 ジルドーレの配下から脱したというのに、せっかくの友達が苦悩しているというのに。

アクアーニ「(アカオーニとの約束も守れぬまま、私は助力さえ全うできぬのであるか……)」

 金棒を持つ手が震える。

 友との約束すら守れない悔しさと、進むべき道を誤った怒り。

 それらはジルドーレに向けたものではなく、全て自分へと向けられていた。



 情けないと思った。

 ジルドーレの魔手から脱していない状況でも自我を取り戻したというのに。

モモタロス「(俺の力は、ここが限界なのか……。奴の魔手に落ちていなければ、まだ出し切れる力があるのではないのか……)」

 刀を握る手が震える。

 主人公でありながら悪を討てない悔しさと、未熟さが招いた末路への怒り。

 それらはジルドーレに向けたものではなく、全て自分へと向けられていた。



 だが、それをぶつけるべき矛先は自分自身ではない。

アクアーニ「私は、諦めんッ」

モモタロス「俺は、戦い抜くッ」

 金棒と刀を構え、二人は今一度ジルドーレへと立ち向かった。

ジルドーレ「言っても聞かぬのなら、もう言うまい」

 それらを軽く跳ね除けて、ジルドーレは両者の首を掴む。

アクアーニ「ーーーッ」

モモタロス「……ッ。離せッ」

ジルドーレ「身を持って分からせる他にあるまい。それを見た者たちも、己の目で現実を知るだろう」

 あらゆるものを無力化させ、死をもたらす能力の持ち主。

 その手が触れた瞬間に、二人の全身に悪寒が走る。

 走馬灯が流れなかったのが不思議なほど、二人は全身で己の死期を感じていた。

ジルドーレ「ここで死ね。残る者たちへの教訓としてな」

アクアーニ「……ッ!!?」

モモタロス「う、ぐッ。うぉおおおッ!!!!」

 暴れようにも力が出ない。

 後ろで控えていた皆も、助太刀したいが手段がない。

 それよりも、勝ち目の予測が一切浮かばない相手を前に抵抗する方法さえないのだ。

 この場にいる者たちの体を押さえ込んでいた感情は……もはや純粋な“恐怖”だった。

ジルドーレ「さぁ、最期だ」





桜野準一「“精神の幻影(ビジョンスプライト・フロンティア)”ッ!!」





 ジルドーレの呟きは、準一の言葉によって完全に掻き消された。
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