絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□宝玉事件の終わり!
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無の宝玉は、あらゆる能力を打ち消して無効化する。
死の宝玉は、自身から“死”という最期を抹消した。
あらゆる攻撃を一瞬で蹴散らし、致命傷を負ったとしても死ぬことはない。
完全無敵の絶対的な戦力を取り込んだジルドーレが……。
星空みゆきの“何の変哲もない普通の打撃”を受けて、地を転がった。
ジルドーレ「ぐ…ッ!? うぅ?? あ…ふ、ぅんん……????」
星空みゆき「…………」
手で口を押さえると、鼻血が指へと流れていく。
みゆきの攻撃は無効化されることなくジルドーレの頬を叩き、確実な痛みを与えた。
それは、魔句詠唱を発動してジルドーレの無敵を食い破ったウルフルンの攻撃よりも響いていたようにも思える。
ジルドーレ「………ッ…。何だ……その力は…ッ。この一瞬で、いったい何をしていた…!?」
星空みゆき「……滅多に起こらない奇蹟を起こして、わたしはあなたを倒す。そのために必要な力は、みんなが用意してくれた」
今、みゆきの背後には仲間たちが控えている。
固唾を飲んで戦いの最後を見守る中に、大きな仕事を成し遂げた朝陽が脱力して横たわる。
闇の宝玉を使って、最後の宝玉を取り込みに行かせる。
だがそれは、朝陽一人では成し遂げられなかった役目だ。
時間稼ぎだろうが何だろうが、ここにいる皆がいたからこそ、みゆきは絶対無敵を上回る力を手に入れた。
星空みゆき「わたしが取り込んだ宝玉は、あなたと同じ二つ。これで、もう負けないッ」
ジルドーレ「二つッ!!? 馬鹿なッ、最後の宝玉など何処からッ」
星空みゆき「わたしは勝たなくちゃいけないのッ。大好きな絵本の世界を、あなたの手から取り戻すために!」
みゆきが両腕を大きく振るって、ハートのアーチを描いていく。
桃色の光が煌き、ジルドーレに向けて容赦なく放たれた。
星空みゆき「“幸福の光来(ハッピーシャワー)”ッ!!」
だが、その程度の攻撃ではジルドーレは討てない。
今までの戦いから、それは学んでいたはずなのに。
ジルドーレ「…ッ! 無駄なことを…!!」
無の宝玉の力を使い、みゆきの攻撃へと手を伸ばし、無力化を試みる。
ところが……。
ジルドーレ「ーーーッ!!!??」
みゆきの攻撃が直撃する寸前、ジルドーレは大きく飛び退いて攻撃を避けた。
別に、今までの攻撃よりパワーアップしていたわけではない。
瞬時に悟ったのだ。
無の宝玉を使っても、無効化できない。
ジルドーレ「(どういうことだ……!? 何故、わたしの無力化が通じないッ!?)」
今、無力化できないことを悟っていなければ、みゆきの攻撃を真正面から受けて全身に大ダメージを受けていただろう。
見るからに焦るジルドーレに対して、みゆきの表情は冷静だった。
決して余裕に溺れない。
圧倒的な力を有しても、みゆきはジルドーレを真っ直ぐに見据えていた。
星空みゆき「…………」
ジルドーレ「……ッ。気に食わんッ。その目が、実にッ!」
星空みゆき「なら、どうするの? もうわたしに無力化は通じないよ」
この戦いに疑問が尽きないのは、何もジルドーレだけではない。
みゆきの後ろで戦いを見守っていた、あかねたちも同じことだった。
日野あかね「どういうことや……? 何で、ジルドーレの能力が効かへんねん……」
ニコ「……それは、みゆきが取り込んだ最後の宝玉の能力ね」
黄瀬やよい「最後の宝玉…?」
魔王「あぁ、間違いない…」
ニコと魔王は気付いていた。
みゆきが最後の宝玉を取り込んだと知った瞬間、今のみゆきに宿っている能力の詳細が。
ニコ「無の宝玉や死の宝玉も、もう関係ない。あらゆる力を退けるのも受け入れるのも、もうみゆきの意のままになってるわ」
魔王「己自身がルールに成り、あらゆる力の善と悪を見極め、それを調停する能力。それが、星空みゆきが取り込んだ最後の宝玉……」
あらゆる能力の詳細を無視して、善と悪に分ける宝玉。
星空みゆき「それが“聖の宝玉”の力。わたしが取り込んだ、二つ目の能力」
そう言って、みゆきは右手の甲を見せた。
そこには、宝玉を取り込んだ証のハートを模した刺青が刻まれている。
ジルドーレ「聖の、宝玉……だとッ」
星空みゆき「今のわたしは、あなたの能力を“悪”に設定して、一切の効果を受け付けない。そして、みんなの能力を“善”に設定して、どんな災厄からも守ってみせる」
ジルドーレ「………ッ…!!」
星空みゆき「ジルドーレ。わたしがここに立っている限り、もうみんなを傷付けることは出来ないし、わたしを相手に、あなたの能力が通じることはないよ」
みゆきが相手だったら、という条件付きだが、もうジルドーレの能力は通じない。
みゆきを相手に無の宝玉は効かないため、みゆきの攻撃は避けるしかない。
みゆきを相手に死の宝玉は効かないため、不死という絶対的な防御も意味を成さなくなった。
また、ここにみゆきがいる限り、みゆきの背後に控えている仲間たちに手出しをすることさえ出来ない。
とはいえ、逆に言えばみゆきの仲間たち全員はジルドーレの無効化能力が通じてしまうのだ。
こちらから攻めることができず、結局はみゆきに戦いの全てを任せて応援することしか出来ないのである。
緑川なお「でも、勝てるッ」
青木れいか「ええ。もう負けはありません!」
ウルフルン「やっちまえッ!! オレらの分まで、思いっきりジルドーレをブン殴れえッ!!」
みゆきを応援する声は絶えない。
例え声に出さずとも、みんなの気持ちは一緒だった。
みゆき一人に任せてしまうのは心苦しかったが、ジルドーレを倒せるのはみゆきしかいない。
ならば、全力で応援するのみ。
星空みゆき「………ッ…」
ところが……。
ジルドーレ「…………」
ジルドーレは……。
笑っていた。
ジルドーレ「……わたしの力が、無効? 宝玉は、意味を成さない、だと? ふ、ふふ、ふふふッ」
星空みゆき「(……なに…、この感じ…。口では笑ってるのに、目は全然笑ってない……ッ)」
ジョーカー「何かするつもりでしょうか……?」
森山しずく「みゆき先輩ッ、気を付けて!」
明らかに様子がおかしいジルドーレだったが、別に深く考えることもなかった。
宝玉という強大な力があったからこそ、全員が失念していただけなのだから。
アクアーニ「……!」
ニコ「…あッ」
魔王「まずい…ッ! 星空みゆき!! 下がれぇ!!」
寸前で“それ”に気付いた者もいたが、もう遅い。
ほぼ同時に、ジルドーレはみゆきに向けて自らネタをバラしたのだ。
ジルドーレ「宝玉の力に頼り過ぎたせいかな……。どうやら、きみたちは忘れていたようだ」
星空みゆき「……!」
ジルドーレ「わたしは絵本の世界の住人だ。この力を有しているのが当然だろう?」
ジルドーレ「“わたしの部屋に入るでないぞ”」
ペロー童話“青ひげ”の主人公兼悪役、殺人男爵。
彼の屋敷に隠された、秘密の部屋の扉が開かれる。