絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□最凶最悪最後の敵!
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 ジルドーレを倒し、デッドエンド・バロンは壊滅した。

 と同時に崩壊を始める洋館から、一刻も早く脱出しなければならない。

 人間界や絵本の世界から隔離されたこの空間に、崩壊諸共飲み込まれれば生きて帰ることはできないだろう。

 そんな危機的状況に、マホローグがアカンベェを指揮して駆け付けてくれた。

 と言っても本人は洋館の出入口に先回りして帰還の準備に呈しているようだが、それでもアカンベェに運んでもらえるのは大助かりだ。

 荒々しく忙しない戦争も、このまま無事に終息していくものと思っていた……その矢先。



ルプスルン「ーーー星空ぁッ、みゆきぃぃぃいいいいいいいいッ!!!!!!」



 洋館全体に響き渡るほどの、憤怒の咆哮が轟いた。

星空みゆき「ーーーッ!!?」

ウルフルン「あの野郎ッ!」

日野あかね「ウソやんッ、まだ襲って来るんか!?」

 あかねとウルフルンが敵対し、そう簡単に立ち上がれないダメージを与えて打ち倒した相手。

 デッドエンド・バロンの三幹部が一人、ルプスルンが敵意を剥き出しにして現出した。

ルプスルン「このまま逃がすと思ってんのか……小娘ども……ッ」

星空みゆき「………ッ…」

 ルプスルンとの距離は遠く、今の呟きは届いていない。

 だが、それでも殺意は伝わってきた。

 アクアーニとマホローグは協力的で、ニカスターとジルドーレとは決着を果たした。

 まだ、ちゃんとした形でルプスルンとの戦いを終えてなどいない。

星空みゆき「……みんな…、先に行って」

黄瀬やよい「…! みゆきちゃん!!」

日野あかね「なに言うてんねん! 一人で戦う気か!?」

アクアーニ「無謀である。そもそも奴には、もはや常識が通じぬ……。この状況だろうと、己の欲を優先するはずである」

 洋館の崩壊も自身の身の安全も、もうルプスルンには関係ない。

 とにかく今は、この空間から脱出しようとしているみゆきたちを殺したくて仕方ないのだから。

星空みゆき「…それでも、放っておけないよ……」

ウルフルン「みゆき…」

緑川なお「……もしかしたら、ジルドーレやニカスターよりも厄介かもしれない…。あたしたちも残ろう」

ジョーカー「それが賢明ですね」

青木れいか「……しかし、リスクは跳ね上がります」

 大人数で残れば、確かに勝率は上がるかもしれない。

 反面、全員が無事に脱出する可能性はグッと下がる。

 かと言って、このままルプスルンを無視して逃げに呈して洋館を出たところで、待っているのは人狼の暴走。

 みゆきたちだけならば問題ないが、ここには無関係に巻き込まれた一般人もいるのだ。

日野げんき「姉ちゃん…」

日野あかね「………」

緑川ひな「ぅぅ…」

緑川なお「…ひな」

青木れいか「……お兄様」

青木淳之介「…………」

 そしてそれは、勝手に巻き込まれてしまった当人たちにも分かっている。

 だからこそ、力ある者に選択を託す。

 情けない話だが、下手に口を出せるような立場でも状況でもない。

青木淳之介「れいか、思うままに動くんだ。それが、僕たちの辿る正しき道に繋がるはずだから」

青木れいか「…正しき、道……」

 淳之介の顔を見て、傍らのジョーカーへと視線を移す。

 なお、やよい、あかね、ニコや魔王、他の絵本の世界の住人たち。

 朝陽、準一、しずく、眠太郎たちもこの場で固唾を飲む。

 そして、みゆきとウルフルン。

青木れいか「…………」

マホローグ『おい、何をしている! あの馬鹿の相手役など適当に決めてしまえッ。崩壊に巻き込まれれば助からないぞ!』

 アカンベェの指揮を担うマホローグも、状況を知って遠くから声を送ってくれている。

 いつルプスルンが猛スピードで迫り来るかも分からない今、早急な決断が下された。







 ルプスルンは怒りを抱く。

 猪突猛進ながら、相応の戦績を収めてきた自分に。

 本当は、こんな戦いが一番の望みじゃなかったはずなのに。

ルプスルン「…………」

 大爆発に巻き込まれるという、無様な敗北を迎えた決着に。

 単純に油断していたがために招いた結果に、自分自身が納得していないのだ。

ルプスルン「………」

 デッドエンド・バロンの壊滅が、信じられなかったから。

 自分の願いを叶えるために故郷の世界を裏切って、命を掛けて奔走していた今までの苦労は何だったのだろうか。

ルプスルン「……」

 そして何より、この世界の全てが憎かった。

 自分が“教えたかったもの”の姿を帳消しにした、平和主義な世界を壊したかった。

ルプスルン「…」

 それら全てを台無しにしてくれた少女たちを、ルプスルンは絶対に許さない。

 例え自分が助からなくなったとしても、残酷に食い殺さなくては死に切れないと思うほどに。

ルプスルン「……ダメだ…ッ。あ…ァあァァァッ……イライラが…、治まらねェ…ッ!!」

 あかねが引き起こした粉塵爆発に巻き込まれ、ルプスルンは全身に火傷を負っている。

 しかし、そんな痛みは気にならなかった。

 その血走る双眼が捕らえ続けて離さない獲物は、目の前にいる。



 たった一人この場に残った、星空みゆきのみ、視野に入れる。



星空みゆき「……ルプスルン…ッ…」

ルプスルン「ディナーショーだ…。食い殺す前に、ちったァ楽しませてくれよ……小娘…ッ」







 みゆきを残し、アカンベェは先へ進む。

 背中に乗せた者たち全員をマホローグのいる場所に届けて、そこから全員で脱出するために。

ウルフルン「おいッ! みゆきを置き去りにするつもりじゃねぇだろぉな!?」

マホローグ『声がデカいッ!! マイクに近すぎるぞッ、もっと離れろ!!』

緑川なお「マホローグ…。あたしたちは…、みゆきちゃんが戻ってくるまで帰らないからね……」

マホローグ『……チッ、分かってるっつーの…。どいつもこいつも…』

アクアーニ「…………」

 結論として、まずは脱出させなければならない人員が多かったために、残る者は一人に絞られた。

 ルプスルンから指名されてしまった、みゆき唯一人という形で。

 もちろん賛否両論あったが、一人でも多く助かる選択が最優先事項として決定したのである。

青木れいか「…………」

ジョーカー「責任を感じていますか?」

 先程から浮かない顔をしているれいかに気付き、ジョーカーが優しく声をかける。

 こういった気遣いが出来るようになったのも、みゆきやれいかたちに関わってきたからこそだと思う。

 でなければ、初めて会った時の印象に疑問が出てしまう。

青木れいか「…わたしは……正しかったのでしょうか…」

ジョーカー「…………」

青木れいか「やはり、もう一人くらい……わたしも残った方が……」

ジョーカー「考えるだけなら自由ですが、実行するには覚悟も必要です。それに、決定してしまったものは簡単には覆りませんし、過ぎた時間は二度と戻りません」

 この選択が正しかったかどうか、それは誰にも分からない。

 正しい選択という結果が欲しいのならば、そうなるように願うしかないのだ。

ジョーカー「信じましょう。ここにいる全員が笑顔で帰れる、最高にウルトラハッピーな未来を」

青木れいか「………はい…」
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