絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□素敵な出会い?
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 みゆきと天願が職員室で対面していた時と同時刻。

 みゆきが光り輝く玉と遭遇した曲がり角にて、一つの人影が蠢いていた。

 否、それを人影と呼んでいいものかは個人に寄るのかもしれない。

 何故ならその人物は……人のようであって、人の姿をしていないのだから。

ウルフルン「……チッ…、やっぱり何処にも見当たらねぇか…」

 人でないとするなら、彼を呼称するには“狼”が適切だろう。

 容姿だけなら人に近いものがあるが、全身を覆う灰色の体毛に、腰まで伸びた銀色の髪。

 何より、その頭は完全な狼であり人の頭とは掛け離れた形をしていた。

ウルフルン「フランドール。探し場所を間違えてるって可能性はねぇよな?」

 人狼、ウルフルンは自分の右肩に座る一匹のヒキガエルに話しかける。

 真っ白な体に黒いリボンを結んでいるヒキガエル、フランドールは可愛らしい声で返答した。

フランドール「間違いないわ、ウルフルン。宝玉が現出した反応は、間違いなくここよ」

ウルフルン「っつーことは……何処かの誰かが持ち去ったか、風に吹かれて転がったか……」

フランドール「前者の可能性が高いけど、あまり望めない状況ね」

ウルフルン「まったくだ。後者の方は報告を待つか」

 そう呟いたウルフルンの前に、一匹のコウモリが飛んできた。

 何の前触れも見せずに現れては、ウルフルンの左肩に止まってくるコウモリに対し、当人のウルフルンは驚く様子もない。

ウルフルン「バットパット。周囲の状況は?」

 ウルフルンの左肩に止まったコウモリ、バットパットは溜息を吐きながら報告する。

バットパット「残念ですが、この周囲に宝玉らしき物は発見できませんでした。困りましたねぇ〜」

ウルフルン「チッ。やっぱり持って行かれたパターンか」

 宝玉と呼ぶ物を探している三人(三匹?)は、探し物が見つからないことに頭を悩ませた。

 この場に落ちてきたことまでは分かっているようだが、それ以降の動きが掴めない。

 周囲に同じような物が見当たらない以上、何らかの原因で別の場所に移されたのだ。

フランドール「どうするの? あれを持っていったのが野良猫や野良犬なら問題ないけど、人間だったら……」

バットパット「それは大問題ですね。下手を踏めば、その人間は命を落としかねません。何しろアレは、人間にとって有害な代物ですからねぇ」

ウルフルン「だからこそ回収を急いでんだろうが。急ぐぞ、フランドール、バットパット。初っ端から人間の被害者を出すなんざ、魔王もニコも許すはずがねぇんだからよ」

 右肩にヒキガエルのフランドールを、左肩にコウモリのバットパットを。

 それぞれ乗せたまま、人狼のウルフルンは七色ヶ丘の空を跳んでいく。

 自分たちの探し物は、星空みゆきが持ち去っている事実を知らないままに。







 七色ヶ丘中学、二年二組の教室にて。

佐々木先生「それでは、転校生を紹介します」

 教壇の上に立ち並ぶみゆきと天願が、クラスメイトたちから注目される。

佐々木先生「さぁ、星空さん、天願くん。自己紹介してください」

星空みゆき「ぁ、はいッ………えーっと…」

 クラスメイトの注目を浴びて緊張したのか、考えていた自己紹介文など一瞬でポンッと吹き飛んでしまう。

星空みゆき「(な、なにこれッ、超緊張する……ッ。で、でも大丈夫、挨拶の練習ちゃんとしたもんッ)」

天願朝陽「どーもッ、はじめまして! 天願朝陽って言います〜。今日からみんなのクラスメイトだからよ、仲良くしてくださ〜い」

星空みゆき「(はわわッ。天願くん、超フレンドリーだ……)」

 先に自己紹介を始めた天願は、持ち前の明るさと人懐っこさを武器に意気揚々と挨拶を続ける。

 と、そんな時だった。

豊島ひでかず「何だ、お前。変な名前だよなぁ」

富田ただあき「“天願”って聞き慣れないね」

木村さとし「めっずらしい〜」



天願朝陽「あ゙?」



 静寂、という言葉を辞書で引くまでもない空気が広がる。

 話し方から伝わる陽気さや、外見から感じられる歳相応とは異なる幼さ。

 そのどれにも該当しない禍々しい声量で、天願は豊島たちを睨みつけていた。

豊島ひでかず「……ッ」

 蛇に睨まれた蛙も、きっとこんな気分だろう。

佐々木先生「て、天願くん。ありがとう。さぁ、次は星空さんよ」

星空みゆき「え、あ、はいッ」

 何とか空気を変えなくては場が持たない。

 しかし、もはや教室の空気など関係なく、みゆきは自己紹介にテンパっていた。

星空みゆき「(うわぁぁぁぅぅぅ、やっぱり緊張するぅぅッ。頑張れッ、わたしぃッ!! でも……やっぱり無理ぃぃぃ!! でも、やんなきゃッ、やんなきゃッ、やんなきゃッ!)」

 この有様である。

日野あかね「……まだー? 自己紹介〜」

星空みゆき「ぅええ!! あ、はいッ! ほ、星空みゆきです! え、えっと、あの、えっと……と、とと、とにかく、よろしくお願いします!!」

日野あかね「……へ? それで終わり? アカン、オチないやんッ」

星空みゆき「え?」

 不意に立ち上がった少女、日野あかねの機転によって教室の空気は更に一変していく。

 それは豊島たちが原因の悪い空気を払拭するためか、天願の機嫌を治すためか。

 いや、きっとみゆきの緊張を解すためのお巫山戯だったに違いない。







 二人の自己紹介が終わり、あかねが席に戻っていく。

佐々木先生「それでは、星空さんの席は……」

日野あかね「はいは〜い。ウチの後ろ空いてま〜す」

佐々木先生「そうですね。では、星空さんの席はあそこです」

星空みゆき「はい」

 みゆきがあかねの後ろに座り、残るは天願の席なのだが……。

佐々木先生「では、天願くんはその隣り。豊島くんの後ろになりますね」

豊嶋ひでかず「げ」

 再び教室内に緊張の空気が広がるかと思われたが。

天願朝陽「は〜い♪」

 当人の天願は、既に元通りの雰囲気を取り戻していた。

 ホッと胸を撫で下ろしたところで、みゆきは前の席のあかねに改めて挨拶しておく。

星空みゆき「日野さん、よろしくね」

日野あかね「こっちこそ、よろしくな」

 こうして、みゆきの七色ヶ丘中学での学校生活が始まった。
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