絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□素敵な出会い?
2ページ/4ページ
みゆきと天願が職員室で対面していた時と同時刻。
みゆきが光り輝く玉と遭遇した曲がり角にて、一つの人影が蠢いていた。
否、それを人影と呼んでいいものかは個人に寄るのかもしれない。
何故ならその人物は……人のようであって、人の姿をしていないのだから。
ウルフルン「……チッ…、やっぱり何処にも見当たらねぇか…」
人でないとするなら、彼を呼称するには“狼”が適切だろう。
容姿だけなら人に近いものがあるが、全身を覆う灰色の体毛に、腰まで伸びた銀色の髪。
何より、その頭は完全な狼であり人の頭とは掛け離れた形をしていた。
ウルフルン「フランドール。探し場所を間違えてるって可能性はねぇよな?」
人狼、ウルフルンは自分の右肩に座る一匹のヒキガエルに話しかける。
真っ白な体に黒いリボンを結んでいるヒキガエル、フランドールは可愛らしい声で返答した。
フランドール「間違いないわ、ウルフルン。宝玉が現出した反応は、間違いなくここよ」
ウルフルン「っつーことは……何処かの誰かが持ち去ったか、風に吹かれて転がったか……」
フランドール「前者の可能性が高いけど、あまり望めない状況ね」
ウルフルン「まったくだ。後者の方は報告を待つか」
そう呟いたウルフルンの前に、一匹のコウモリが飛んできた。
何の前触れも見せずに現れては、ウルフルンの左肩に止まってくるコウモリに対し、当人のウルフルンは驚く様子もない。
ウルフルン「バットパット。周囲の状況は?」
ウルフルンの左肩に止まったコウモリ、バットパットは溜息を吐きながら報告する。
バットパット「残念ですが、この周囲に宝玉らしき物は発見できませんでした。困りましたねぇ〜」
ウルフルン「チッ。やっぱり持って行かれたパターンか」
宝玉と呼ぶ物を探している三人(三匹?)は、探し物が見つからないことに頭を悩ませた。
この場に落ちてきたことまでは分かっているようだが、それ以降の動きが掴めない。
周囲に同じような物が見当たらない以上、何らかの原因で別の場所に移されたのだ。
フランドール「どうするの? あれを持っていったのが野良猫や野良犬なら問題ないけど、人間だったら……」
バットパット「それは大問題ですね。下手を踏めば、その人間は命を落としかねません。何しろアレは、人間にとって有害な代物ですからねぇ」
ウルフルン「だからこそ回収を急いでんだろうが。急ぐぞ、フランドール、バットパット。初っ端から人間の被害者を出すなんざ、魔王もニコも許すはずがねぇんだからよ」
右肩にヒキガエルのフランドールを、左肩にコウモリのバットパットを。
それぞれ乗せたまま、人狼のウルフルンは七色ヶ丘の空を跳んでいく。
自分たちの探し物は、星空みゆきが持ち去っている事実を知らないままに。
七色ヶ丘中学、二年二組の教室にて。
佐々木先生「それでは、転校生を紹介します」
教壇の上に立ち並ぶみゆきと天願が、クラスメイトたちから注目される。
佐々木先生「さぁ、星空さん、天願くん。自己紹介してください」
星空みゆき「ぁ、はいッ………えーっと…」
クラスメイトの注目を浴びて緊張したのか、考えていた自己紹介文など一瞬でポンッと吹き飛んでしまう。
星空みゆき「(な、なにこれッ、超緊張する……ッ。で、でも大丈夫、挨拶の練習ちゃんとしたもんッ)」
天願朝陽「どーもッ、はじめまして! 天願朝陽って言います〜。今日からみんなのクラスメイトだからよ、仲良くしてくださ〜い」
星空みゆき「(はわわッ。天願くん、超フレンドリーだ……)」
先に自己紹介を始めた天願は、持ち前の明るさと人懐っこさを武器に意気揚々と挨拶を続ける。
と、そんな時だった。
豊島ひでかず「何だ、お前。変な名前だよなぁ」
富田ただあき「“天願”って聞き慣れないね」
木村さとし「めっずらしい〜」
天願朝陽「あ゙?」
静寂、という言葉を辞書で引くまでもない空気が広がる。
話し方から伝わる陽気さや、外見から感じられる歳相応とは異なる幼さ。
そのどれにも該当しない禍々しい声量で、天願は豊島たちを睨みつけていた。
豊島ひでかず「……ッ」
蛇に睨まれた蛙も、きっとこんな気分だろう。
佐々木先生「て、天願くん。ありがとう。さぁ、次は星空さんよ」
星空みゆき「え、あ、はいッ」
何とか空気を変えなくては場が持たない。
しかし、もはや教室の空気など関係なく、みゆきは自己紹介にテンパっていた。
星空みゆき「(うわぁぁぁぅぅぅ、やっぱり緊張するぅぅッ。頑張れッ、わたしぃッ!! でも……やっぱり無理ぃぃぃ!! でも、やんなきゃッ、やんなきゃッ、やんなきゃッ!)」
この有様である。
日野あかね「……まだー? 自己紹介〜」
星空みゆき「ぅええ!! あ、はいッ! ほ、星空みゆきです! え、えっと、あの、えっと……と、とと、とにかく、よろしくお願いします!!」
日野あかね「……へ? それで終わり? アカン、オチないやんッ」
星空みゆき「え?」
不意に立ち上がった少女、日野あかねの機転によって教室の空気は更に一変していく。
それは豊島たちが原因の悪い空気を払拭するためか、天願の機嫌を治すためか。
いや、きっとみゆきの緊張を解すためのお巫山戯だったに違いない。
二人の自己紹介が終わり、あかねが席に戻っていく。
佐々木先生「それでは、星空さんの席は……」
日野あかね「はいは〜い。ウチの後ろ空いてま〜す」
佐々木先生「そうですね。では、星空さんの席はあそこです」
星空みゆき「はい」
みゆきがあかねの後ろに座り、残るは天願の席なのだが……。
佐々木先生「では、天願くんはその隣り。豊島くんの後ろになりますね」
豊嶋ひでかず「げ」
再び教室内に緊張の空気が広がるかと思われたが。
天願朝陽「は〜い♪」
当人の天願は、既に元通りの雰囲気を取り戻していた。
ホッと胸を撫で下ろしたところで、みゆきは前の席のあかねに改めて挨拶しておく。
星空みゆき「日野さん、よろしくね」
日野あかね「こっちこそ、よろしくな」
こうして、みゆきの七色ヶ丘中学での学校生活が始まった。
→
次へ
←
前へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ