絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□明かされる大事件
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 謁見の間に通されたみゆきたちは、玉座に座る(というか、乗った)魔王を前にする。

 話を始める前に、ウルフルンは気になっていたことを先に指摘した。

ウルフルン「そういや“人間と話すなら”とか言ってたよな? 人間の姿に変身して廊下で待ってたみてぇだが、オレたちがこの女を連れてくることを知ってたのか?」

魔王「あぁ。つい数分前にホレバーヤから連絡が入ってな。人間界で何が起きているのか、先に情報だけ知らされていたのだ」

フランドール「…? どうしてホレバーヤがこの子のことを知ってるのよ?」

 新たに出てきた“ホレバーヤ”という名前に首を傾げるみゆきだったが、次の魔王の一言でみゆきは周囲の視線を浴びることになる。

魔王「そこにいる星空みゆきは、どうやら偶然にも“ふしぎ図書館”への道を開き、ホレバーヤの監視の目を潜り抜けてしまったらしい」

ウルフルン「……マジかよ」

バットパット「次から次へと、ミラクルを起こしてくれる人間ですねぇ」

星空みゆき「え? え? なになに、なんなの?」

 勝手に話を進められて困惑するみゆきに、フランドールが説明してくれた。

フランドール「本棚の中にある本を、ある一定の動作を続けて動かすことで、わたしたちが人間界で生活する際の住処にしてる“ふしぎ図書館”への道を開くことができるのよ」

星空みゆき「“ふしぎ図書館”……? あ…」

 心当たりはある。

 あの化け猫の少年から逃げ延びる際、みゆきは七色ヶ丘中学の図書室にある本棚の中の本を動かし、あの不可思議な空間に飛び込んだのだ。

魔王「ホレバーヤが言うには、すぐに侵入者の確認に出向いたらしいが、その時には既に別の場所へと移動した後だったらしい」

ウルフルン「なるほどな。それで学校周辺から商店街まで、宝玉の気配が一気に移動してやがったのか……」

 そして、もう一つ思い出すことがあった。

 商店街に移動する寸前、背後から誰かが近付いてくる気配があったことを。

 てっきり図書室で遭遇した化け猫の少年が追って来たのかと思っていたが、魔王たちの話を聞く限りでは、どうやら“ホレバーヤ”という人物だったらしい。

 ウルフルンたちの口振りからして、何の危険もない仲間の一人だったのだろう。

星空みゆき「(……知らなかったことだけど、ちょっと悪いことしちゃったかな…)」

ウルフルン「まぁ、ふしぎ図書館の館長として責務を全うして、魔王に報告してくれたってんなら、こっちも余計なことを話す手間が省ける」

フランドール「わたしたちの用件は分かってるわね? 光の宝玉を見つけたわ」

魔王「……あぁ、知っている。そして今、気配のない光の宝玉がこの場に届いていることもな」

 そう言って、魔王はみゆきを見据えた。

 魔王は、みゆきが光の宝玉を取り込んでしまったことも把握していたのだ。

バットパット「ご理解が早くて助かります。では、早々に返していただくとしましょう」

星空みゆき「え? 返す、って……どうしたらいいの?」

フランドール「そのために、わざわざあなたをここに連れてきたのよ」

 フランドール曰く、宝玉を取り込んだ後に安全に取り出す方法は、魔王が知っているらしい。

 宝玉を取り出してしまえば、もうみゆきに危険は及ばない。

 ウルフルンたちの宝玉回収の目的も果たされ、この始末は解決すると思われた。

 しかし……。

魔王「…いや、その前に話しておこう」

ウルフルン「あん? 何をだよ」





魔王「今、この“絵本の世界”で起きている大事件について、星空みゆきにも知ってもらおうと思っている。そして可能ならば、取り込んだ光の宝玉の力を使って、オレたちに協力してもらえないか、とな」





ウルフルン「ーーーなッ!!?」

フランドール「……ッ」

バットパット「正気ですかッ!? ただ巻き込まれただけの人間を、わたくしたちの問題に意図的に関わらせるなどッ」

魔王「……これは一つの運命かもしれんのだ。で、あるならば…その手を考慮するのも選択の一つ。ただそれだけの話だ」

 絵本の世界で、何か大きな事件が起きている。

 それは、みゆきが取り込んでしまった宝玉が大きく関わっている。

 四人の雰囲気から、それだけはみゆきにも理解できた。

 そして魔王は、その事件にみゆきの協力を仰ごうとしていることも。

ウルフルン「運命だぁ? そりゃどういうことだ」

魔王「不思議に思わなかったのか? ホレバーヤですら把握していない“星空みゆき”の名前を、オレがこの場で最も早く口にしたことに」

ウルフルン「……ッ」

 魔王は、星空みゆきを知っている。

 その事実を、今この場にいる全員に知らしめたのだった。

星空みゆき「…魔王さん……。あなたは、一体…」

魔王「オレの話よりも、この世界の話だ。オマエが巻き込まれた事件の全貌を、聞き入れた上で選択を迫られる覚悟はあるか?」

 それは、事件の全てを知った上で協力の有無を問うた時、この場で答えることが出来るか、という念押しだった。

 みゆきは少しだけ答えに悩んだ末、しっかりと魔王を見据えた上で返答した。

星空みゆき「……話してください。この世界で、何が起きているのかを」

魔王「………いいだろう…」

 ここまで踏み込んできたのだ。

 それなら、もっと深いところも覗いてみたい。

 その意思を伝えたみゆきは、魔王によって語られる絵本の世界の事件を知ることになった。







 絵本の世界とは、人間界に存在する絵本を通じて、人々に感動を与えることを生業とする者たちの世界。

 ここで暮らしている者は、それぞれ自分が登場する絵本の作品を持っている。

 そんな絵本の世界の全てを支えているのが“マジカルエナジー”と呼ばれる魔法の力だった。

 この魔法力によって世界全体が構成されており、これが失われれば絵本の世界はいつ崩壊を迎えてもおかしくないほどに大きく力を失ってしまう。

 そのマジカルエナジーを絵本の世界へと常に放っているのが、この世界の秘宝とされる“宝玉”の存在だった。



星空みゆき「……その宝玉が…」

魔王「うむ。今、星空みゆきが体内に取り込んでいる物だ」

ウルフルン「オマエは、光の宝玉が持っていた“光のマジカルエナジー”を取り込んで、光の能力を操る事ができるようになったわけだ」



 ところが、その秘宝が先日、何者かの手によって人間界へと放たれてしまったのである。

 早急に調べた結果、その宝玉は七色ヶ丘市にのみ集中して放たれてらしく、犯人による意図的な実行であることが判明した。

 もちろん、絵本の世界から魔法の力が消失し、既に世界各所から異変が生じている。

 川から桃が流れてくることはなくなり、打出の小槌はただの槌と化し、溺れてしまうため竜宮城に近付ける地上人は誰もいなくなった。



星空みゆき「そんな……ッ。そんなに大事なものなら、わたし返します! それでこの世界が戻るならッ」

ウルフルン「……いいや、ダメだ。それを返してもらったところで、オレたちの世界は救われねぇよ」

星空みゆき「…え? で、でも……宝玉が戻れば、またマジカルエナジーが復活するんじゃ……」

バットパット「フロイライン。ウルフルンがあなたの宝玉を名指す際に、何故“光の宝玉”と呼ぶか分かりますか?」

星空みゆき「……それって…、もしかして…」



 この広い絵本の世界に、強大なマジカルエナジーを放っていた宝玉は、一つではない。

 その数、全部で十二個。

 そして現在、その十二個全ての宝玉が七色ヶ丘市に放たれてしまっているのだ。
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