絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□探索再開!
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 その後、お茶菓子を用意して現れたホレバーヤが、ふしぎ図書館の中心にある小さな建物の中へとみんなを招き入れる。

 最低限の共同生活スペースとして確保されたその場所には、みんなで食事できるほど大きなテーブルとイスもある。

 そこまで連れてこられたみゆきは、事情を知ったウルフルンから信じられない事実を聞かされたのだった。

 曰く、あの漆黒のリボンを頭に結び、純白ロリータドレスを着た怖い印象の少女について。

星空みゆき「ーーーえええええッ!!!?? この子って、あのヒキガエルだったフランドールちゃんなのぉッ!!?」

フランドール「何だよ、文句でもあんのか?」

星空みゆき「ひぃッ!!」

 ギロリッ、と下から睨み上げられて思わず怯んだみゆきが、サササッ、とウルフルンの背後に隠れる。

 自分の腰を掴んで離れないみゆきの頭にポンポンと手を乗せたウルフルンは、こういう反応でも仕方がないと言わんばかりに説明を続ける。

ウルフルン「こいつは、姿がヒキガエルの時は性格が物静かで温厚なんだが、人間の姿になってる時は邪で敵意剥き出しの性格に豹変しちまうんだよ」

フランドール「チッ、悪かったな」

バットパット「まぁまぁ。フランドールの体質を知らなかったのなら、これは仕方がありませんよ」

 確かに、ヒキガエルだった時のフランドールの姿は、黒いリボンを体に結んだ白い肌をしていた。

 照らし合わせれば、彼女が人間バージョンのフランドールだと説明されても頷けるが、さすがに口調や性格が違いすぎる。

星空みゆき「わ、わたし……人型のフランドールちゃんに慣れなさそう〜……」

フランドール「ハッ、だったら四六時中この姿で生活してやろうか? その方が早く慣れんだろ? あぁん?」

バットパット「宝玉回収時に歩くのが嫌で、ウルフルンの肩を借りて移動しているのは何方ですか? 意地悪など言わず、少しずつ慣れてもらいましょうよ」

フランドール「チッ、めんどくせぇ」

 フランドールの口調に逐一反応していては身が持たず、今でもみゆきはウルフルンの腰に手を回したまま背後から出てこようとしない。

 そんな時、お茶会の準備を整えたホレバーヤがパンパンッと手を打ち鳴らして注目を集める。

ホレバーヤ「はいはい、お喋りは中断だよ。席に座って、お茶をいただくとしましょう。ね?」

 ホレバーヤの印象は、典型的な“優しいお婆ちゃん”だった。

 腰が曲がった小さな体に、白い頭巾と白い前掛けエプロン。

 鼻の頭に小さな丸眼鏡をかけた、優しい微笑みを絶やさない女性という容姿も、その印象を強めている。

ホレバーヤ「ふふ、あなたがみゆきちゃんだね? あたしはあなたの顔を一度見てるけど、あなたはあたしと初対面かしら?」

星空みゆき「ぁ…」

 その口振りから、やはり初めて館内に迷い込んだ時、みゆきの背後に近付いてきていた足音の正体は彼女だったようだ。

 そして、ホレバーヤがみゆきを見つけていなければ、魔王へのコンタクトを得ることも出来なかっただろう。

星空みゆき「あの時は挨拶もせずにごめんなさい。それと、色々ありがとうございました」

ホレバーヤ「あらあら。いいのよ、そんなこと。あたしたちのために宝玉探しを手伝ってくれるんでしょ? お礼を言うのはこっちだわ」

 何処までも優しい笑みを向けてくれるホレバーヤを前に、田舎に済む祖母を思い出したみゆきは胸が温かくなっていくのを感じた。

 そんな時、二人の傍に立ったバットパットが、カップに注いだばかりのお茶を二人に差し出す。

バットパット「どうぞ」

ホレバーヤ「あらあら。ありがとうね」

星空みゆき「あ、ありがとう」

バットパット「どういたしまして。ところで、フロイライン。もう時間も遅いようですが、何か用事があったのではありませんか?」

 本日、三度目になる質問。

 ここでようやく、みゆきは自分の左太股に浮かび上がったハートマークの痣について話したのだった。

ホレバーヤ「なるほどね。まぁ、予想できてるだろうけど、間違いなく宝玉が関係してるだろうね」

星空みゆき「あ、やっぱり……」

ウルフルン「それ以外に考えられねぇが、詳しくは分からねぇな。何しろ宝玉を取り込んだ人間ってのは前例がねぇんだ。まぁ、絵本の住人が取り込んだケースも少ねぇけどよ」

フランドール「っつーか、そんなモン魔王にでも調べさせりゃ一発だろ。さっさと報告しとけ」

バットパット「結果が分かり次第、わたくしたちがお伝えに伺います。それまで少々お待ちください、フロイライン」

 絵本の世界の住人と、ふしぎな空間でお茶会を楽しむ。

 夢にまで見た状況を前に、少しだけ緊張気味だったみゆきの顔に笑顔が戻る。

 痣に抱いていた不安感など、とっくの昔に吹き飛んでしまっていた。







 一方、七色ヶ丘市の某所。

 岩肌が剥き出しになった人気のない山の中にて、ルプスルンが全身の怒りを大岩にぶつけていた。

ルプスルン「クソッタレがぁッ!! あんのクソ小娘ぇッ!!」

 怒りの原因は、言うまでもなく星空みゆき。

 体に取り込んだ光の宝玉の力を使い、ウルフルンと協力してルプスルンを退けることに成功したのだ。

 その展開が、狼としての誇りを持つルプスルンにとって堪えられない屈辱を味わわせていた。

ルプスルン「次に会った時に思い知らせてやるさ……ッ。誇り高き一匹狼を怒らせたことを、地獄の底で後悔させてやるッ」







 そして後日。

 みゆきは体育のバレー授業を受けていた。

日野あかね「さぁ、ウチの出番やで!」

 そこで大活躍を見せているのが、バレー部に所属しているクラスメイト、日野あかねだった。

緑川なお「……ッ、早いッ」

 あかねの見事な腕前を前に、バレー授業では右に出る者などいなかった。

 しかし、決して自分だけが前に出て意地を見せるような真似はしない。

 同じチームに入っていたクラスメイトの黄瀬やよいが上げたレシーブにも、焦って向かうようなことはしなかった。

 ボールが放たれた先に立っていたみゆきに気付き、迷うことなくパスをお願いする声をかけたのだ。

日野あかね「トスやッ、星空さーん!」

星空みゆき「ぅえ!? えええッ!!?」

 しかし、それはバレーが特別得意なわけではないクラスメイトにとって幸か不幸か。

星空みゆき「(よ、よーしッ! こうなったらッ)」

 両手を前に突き出してボールを待ち構える。

 ボールよりも、手の平の方に意識を集中していくと、みゆきの両手が薄桃色に輝き始めた。

 直後……。

星空みゆき「ーーーぎゃふんッ!!!!」

日野あかね「ナイスや!」

 光魔法の発動が間に合わず、顔面トスを決めたみゆきのボールがあかねの方へと回っていく。

 対抗しているクラスメイトの緑川なおと青木れいかのタッグが、あかねのシュートを止めようとジャンプしたが、結局あかねの腕前には敵わなかった。

緑川なお「やられたッ」

青木れいか「さすがはバレー部のエースアタッカー候補ッ」

 ガッツポースを決めて着地したあかねの背後で、思い描いていたパス回しに失敗したみゆきが、顔に受けた衝撃を抱えて倒れ込んだのだった。

黄瀬やよい「星空さーんッ!!」

 倒れた瞬間、やよいが自分を心配して駆け寄ってくる足音と声が聞こえた気がした。
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