絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□再来!
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 そして当然ながら、こちらの二人の宝玉発生の気配を察知していた。

ニコ「ーーーッ!!」

魔王「……来たか…ッ…」

 発生源である七色ヶ丘中学まで、それほど距離があるわけでもない。

 しかし、今もルプスルンが宝玉発生地点に向かっていることを知らない二人は、今から駆けつけて間に合うかどうかは微妙なところだった。

 加えて……・

魔王「ニコッ、まだ終わらんのか?」

ニコ「ち、ちょっと待って魔王! もうちょっとだけッ!」

 取り皿いっぱいのスイーツを前に、ニコは大急ぎで完食を急いだ。

 ケーキバイキングに来ていた二人は、果たして宝玉の破壊を阻止できるのだろうか。







 本日のバレー練習も無事に終わり、残るはミーティングだけ。

 昨日と同じようにみゆきと別れたあかねは、バレー部の部室に戻って恒例のミーティングに参加している。

 しかし……。

日野あかね「ゆ、ゆか…? どないしたん…?」

 部活が終わる頃、ゆかの様子がおかしかった。

 別に体調不良だとか、顔色が優れないとか、そういう類いものではない。

名倉ゆか「練習メニューを大幅に改善する、って言ってるの。このままじゃダメだ。身に着くはずのものも身に着かない練習を続けたって、何の意味もないじゃんか」

 熱心なのは分かる。

 バレー部に熱意を注いでくれているのを理解できる。

 しかし、その熱意のベクトルは今までのゆかとは一味も二味も変わっていた。

日野あかね「ちょい待ちやッ。新しく考えた練習メニューか何や知らんけど、こんなんハード過ぎるでッ」

 問題はそれだけではない。

 バレー部全体の実力向上のために考案されたゆかの練習メニューは、現在の実力では維持することが困難に思われるほどハードなものだった。

 予想の段階で断言できるのだから、この場ではあかねに反対する者などいない。

 しかし、これにはゆかも譲らなかった。

名倉ゆか「エースアタッカーを目指して、みんなで頑張ってるんでしょ? だったらこのくらい何てことないッ。実現すれば、あたしたちは大きな戦力になれるはずだよ」

日野あかね「ゆか…」

名倉ゆか「他校にだって、絶対に負けない。どんな試合に出ても優勝できるくらいに、あたしたちは“今”を変えなくちゃ、ずっと変わらないままだと思うからッ」

日野あかね「ゆか、ちょい落ち着きぃ」

 完全に当初の目的を見失っている。

 勘違いしてはいけないが、別に七色ヶ丘中学のバレー部は弱小ではない。

 優秀と言えるほどの好成績は収めていないが、それでも毎年負けっ放しなどの低成績が続いているわけでもない。

 だがゆかの行動からは、バレー部そのものの改善方法ばかり。

 本当の目的は、今年度の部長とエースアタッカーの座を狙って、必死で努力してきたことではなかったのか。

日野あかね「ゆか…、ほんまにどうしたんや。何か悪いモンでも拾い食いしたんか?」

名倉ゆか「そんなわけないでしょ! 餌を求めて徘徊する野良犬じゃないんだからッ」

日野あかね「いや……どっちかっちゅーと、もはやオオカミやで?」





ルプスルン「狼を呼んだか? 小娘どもッ」





 直後、バレー部の部室にある窓ガラスが外側から粉砕される。

 粉々になって散らばるガラスの破片を避けて騒然とするバレー部の部室に、窓からルプスルンが姿を現したのだった。

日野あかね「どわぁあああッ!!!! なッ、何やねんッ、こいつッ!!」

名倉ゆか「あ、あかね!! いくら何でも仕込み過ぎでしょッ!!」

日野あかね「仕込みちゃうわ!! どんだけツッコミに力ぁ注いでんねん!!」

 ただのツッコミにしては被害がデカ過ぎる。

 粉砕された窓ガラスを含め、半壊状態の部室の修理はどうするつもりなのか。

 そのことを考えると、ルプスルンの襲撃があかねが意図して行ったものでないことは明白だった。

ルプスルン「ギャーギャーと、うるせぇガキどもだぜ……。さぁて……」

名倉ゆか「ーーーッ」

 ルプスルンの眼光が、ゆかを捉えてギラリと光った。

ルプスルン「気配の出処はテメェか……。大人しく宝玉を渡してもらおうかぁ!!」

 鋭い爪を伸ばした手が、ゆかに向けて勢いよく伸びてくる。

 持ち前の反射神経でそれを避けたゆかに代わって、彼女の背後にかけられていた黒板が爪に裂かれてガリガリと傷付いた。

名倉ゆか「ひぃッ!! いやぁぁぁあああああッ!!!!」

 殺される。

 本能から察したゆかは、そのまま部室を飛び出して逃走したのだった。

ルプスルン「逃がすかよッ!! プークスクスクスッ」

 周囲の部員たちも蹴散らしながら、ルプスルンも部室を飛び出してゆかを追っていく。

 今の衝撃と予想外の事態に、他のバレー部員たちはほぼ全員が気を失っていた。

日野あかね「……ゆ…、ゆか…」

 唯一、ゆかの傍で事態を目の当たりにしていたあかねだけを除いて。

日野あかね「あの狼………狙いは、ゆか、なんか…? 気ぃ失ってる場合と、ちゃうやろ……ッ」

 意識が飛びそうになりつつも、あかねは必死で自分の気を覚醒させた。

 ルプスルンの狙いに当たりを付け、あかねもゆかを追って部室を出ていく。

 何が起きているのか分からないが、良くないことだと理解するには十分な展開を経験した。







 少し前のこと。

 昨日と違って、今日はあかねと一緒に下校してみようと思ったみゆきは、そのまま昇降口で待機していた。

星空みゆき「日野さん、遅いなぁ…。ミーティングが長引いてるのかな?」

 するとバレー部の部室がある方角より、窓ガラスが割れるような音が昇降口まで聞こえてきた。

星空みゆき「……? なに…?」

 この時、それが窓ガラスが割れる音だとは気付かなかったが、日常では聞き慣れないものの印象が強かった。

 妙な胸騒ぎを感じる。

 そう思ったみゆきは、昇降口であかねを待つことを諦めると、直接バレー部の部室に向かうことを決めて走り出したのだった。
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