絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□開幕するリベンジ戦!
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 ウルフルンは間に合った。

 あかねを襲ったルプスルンの攻撃を、寸前のところで食い止めたのだった。

ルプスルン「テメェッ、ウルフルンッ!!」

ウルフルン「よぉ、ルプスルン。オマエに先を越されてたのは癪だが、最悪の結末には間に合ったみたいだな? 安心したぜ」

 至近距離で睨み合う二人の人狼。

 一見すれば敵対していることが一目瞭然だが、事情を何も知らないあかねにはそんなもの関係なかった。

日野あかね「う、嘘や……ッ。もう一匹、増えてもうたッ」

 あかねの目には、獲物(自分)を取り合う二匹の狼が争っているようにしか見えない。

 どんな展開を迎えようと、自分を狙う敵が増えたと思い込んでも仕方がなかったのだ。

 その数秒後、渡り廊下から走ってきたみゆきがウルフルンたちと合流する。

星空みゆき「ウルフルーンッ!」

ルプスルン「チッ、こいつも一緒かよッ」

 みゆきを確認し、とりあえずルプスルンはウルフルンの前から退いていく。

 その間、みゆきはあかねから宝玉だけは返してもらおうとしたのだが……。

星空みゆき「日野さんッ、あの…………って、あれ?」

 ウルフルンの背後に回ってみると、そこにあかねの姿はなかった。

フランドール「逃げられたわね」

バットパット「まぁ、この状況を考えれば当然です」

ウルフルン「冷静に分析してる場合かッ、バカ野郎! さっさと捜せ!」

 フランドールとバットパットが、ウルフルンからみゆきの肩へと飛び移る。

星空みゆき「で、でもッ、ウルフルンは!?」

フランドール「ルプスルンを足止めしててもらいましょう。わたしたちはわたしたちに出来ることをやればいいわ」

バットパット「急ぎましょう。わたくしは上空から捜してみますッ」

 夕方の大空に羽ばたいたバットパットを合図に、みゆきとフランドールも遠ざかる。

ルプスルン「誰が逃げすかよッ! ナメんじゃねぇッ!!」

 それを追い掛けようとするルプスルンに、ウルフルンは容赦のない回し蹴りを放って食い留める。

ウルフルン「誰が負わせるかよ。ナメんじゃねぇッ」

ルプスルン「テ、メェ……ッ」

 二人の人狼が本気の殺し合いを始めそうな空気が漂う。

 それを察知したのか、上空からバットパットがウルフルンに忠告した。

バットパット「ウルフルンッ。命の危機を感じたら、迷わず“魔句詠唱”を使いなさいッ」

ウルフルン「……考慮しておく。さっさと行けッ」

 忠告への返答を聞き、バットパットは七色ヶ丘中学の内部を見渡していく。







 フランドールを右肩に乗せたみゆきは、あかねを捜して学校の敷地内を走る。

 その間、先ほどのバットパットが言い放った忠告を聞いていた。

星空みゆき「ねぇ。さっきの“まく、何とか”ってどういう意味?」

フランドール「“魔句詠唱”のこと? まぁ、簡単に言えば……わたしたち絵本の世界の住人が持ってる、特殊能力みたいなものかしら」

 絵本の世界の住人であるならば、誰しもが所持している特有の能力。

 フランドール曰く、簡単に説明すればそんなところらしい。

星空みゆき「それって、魔法みたいなものなの? だったら、出し惜しみしないで使った方が確実に勝てるんじゃないの?」

フランドール「今の説明は“簡単に言えば”の話よ。本当は、もっと複雑で難しいものなの。そう滅多に使えるものじゃないわ」

星空みゆき「…そうなんだ……」

 と、そんな時だった。

 みゆきの前方に、ようやく体力を使い果たして休んでいるあかねの姿が見えてきた。

 花壇の隅に身を隠し、校舎の壁に背を預けているのが確認できる。

星空みゆき「…見つけたッ! 日野さーんッ!!」

日野あかね「ーーーッ!? ぁ…ッ、星空さん!?」

 あかねも気付いたようで、緊迫した表情が安堵に変わる様子が見える。

星空みゆき「日野さんッ。単刀直入に言うね? もしかして何だけど、宝玉って持ってない?」

日野あかね「ほう、ぎょく?」

星空みゆき「このくらいの大きさで、真ん中がキラキラしてる玉なんだけど……」

日野あかね「ぁ…」

 すぐに思い至った。

 その玉なら、あかねが先ほどポケットに入れたばかりだった。

日野あかね「それって、もしかしt」

 その直後、二人の傍にあった花壇に何かが激突し、土や石があちこちを跳ね回った。

星空みゆき「うわっぷッ!!」

日野あかね「どわぁ!! 今度は何やぁ!?」

 土煙が晴れると、そこには全身を切り刻まれたウルフルンが呻き声をあげて倒れていた。

日野あかね「うわッ!! あん時の狼ッ」

星空みゆき「ウルフルンッ!!!!」

ウルフルン「ぅ……ぐ…ッ、クソぉ…ッ」

 傷だらけのウルフルンにビビるよりも、何の躊躇いもなくウルフルンに近付いたみゆきの方に、あかねは驚愕を隠せなかった。

日野あかね「ほ、星空さん…? そいつ、危険やないんか?」

星空みゆき「え? あ、あぁ、大丈夫! ウルフルンは味方のオオカミさんだよッ」

日野あかね「う、ウルフマン? 狼男かいな」

フランドール「二人共、お喋りはそこまでよ」

日野あかね「ーーーッ!!?」

 右肩に乗ったヒキガエルのフランドールが喋ったことにも驚かされたが、あかねの目の前に先ほどの恐怖が再び姿を現した。

ルプスルン「ったく……。どいつもこいつも手間取らせやがって……」

日野あかね「……え、えーっと…。そっちの倒れてる方が味方っちゅーことは……あっちの茶色い方は………」

星空みゆき「……うん…。わたしたちの敵だよ…」

 フランドールを右肩から下ろしたみゆきは、あかねとウルフルンを守るようにして前に立つ。

 ルプスルンを見据える目には、明確な戦意が宿っていた。

 そこに、上空からバットパットも舞い降りてきた。

バットパット「フロイラインッ。ここはわたくしもお力添えをッ」

星空みゆき「バットパットはフランドールちゃんを手伝って。ウルフルンの手当てをお願い」

 バットパットが背後を振り返ると、既にフランドールがウルフルンの傷に応急処置を施そうと奮闘していた。

 ヒキガエルの体では、万全な処置にも時間がかかってしまう。

フランドール「バットパット。早く手伝って」

バットパット「あッ、はい!」

日野あかね「何なん……これ…? 星空さん…?」

 目の前で起きてることが理解できず、あかねは呆然とするばかりだった。

 そんなあかねたちを背に守るようにして、ルプスルンを見据えるみゆきの体が、ゆっくりと薄桃色に光り始めていた。

星空みゆき「ウルフルンを…バレー部のみんなを…、わたしの友達を傷付けて…。絶対に許さないんだから…ッ」

 光の宝玉を取り込み、その能力を取得したみゆきの、初の本格戦闘が始まる。
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