絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□敵陣潜入!
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 ジルドーレが作動させた地下の仕掛け。

 それは、とある者たちが捕らえられている地下牢の錠を解くものだった。

日野げんき「ん? 今の、何の音や…?」

 この一ヶ月間、自分の身に何が起きたのかも分からないまま牢獄生活を強いられてきた三人。

 日野げんき、緑川ひな、青木淳之介。

 だが、たった今この地下牢に響いた不可思議な音は、この一ヶ月間でただの一度も聞いたことがないものだった。

青木淳之介「待つんだ、げんきくん。僕が見てくるから、ひなちゃんを頼むよ」

日野げんき「え? あ、はい……」

 危険を察した淳之介が、音の出処を探って牢の出入口に近付く。

 何か変わったことはないかと格子に手を添えた瞬間、格子は何の抵抗を見せることもなく静かに開いた。

緑川ひな「あ! 開いたぁ!」

日野げんき「うそやろッ」

青木淳之介「まさか……、いや…これは罠なのか…?」

 あまりにも唐突に訪れた脱走のチャンス。

 ここが何処なのかさえ分かっていなかったが、とにかく外を目指せば助かる可能性も広がるだろう。

日野げんき「こないなところにおっても、どうせ俺ら捕まったままや!」

緑川ひな「逃げようよぉッ。わたし、おうちに帰りたい!」

青木淳之介「………ッ…」

 ここで逃げて、もしも脱走に失敗すれば確実に助からない。

 もし、自分たちを捕まえた者たちに見つかってしまったら?

 もし、脱出そのものが不可能な場所だったら?

 もし、この解錠自体が罠だったら?

 自分たちに待っているのは飢えや疲労を含んだ自然死か、第三者の手による殺害の末路。

 だが、それ以上に淳之介は他の二人と過ごしていて決めていたことがある。

青木淳之介「(この二人だけでも、絶対に家族のところに帰すんだ……。一番年上の僕が、げんきくんとひなちゃんを守らないと……ッ)」

 青木家の長男として……否、一人の日本男児として淳之介は決断した。

青木淳之介「ここを出よう…。必ず脱出するよ……。さぁ、僕の後ろに続くんだ…ッ」

日野げんき「了解ッ」

緑川ひな「は、はい!」

 淳之介を筆頭に、捕らわれていた三人が地下牢から脱出する。

 その様子をモニターしていたジルドーレは、静かにニヤニヤと笑っていた。

 げんきたち三人はジルドーレの思惑通り、普通の人間にとっては凄まじい戦場と化した洋館の中へと解き放たれたのだった。







 一方、みゆきたちと別れたニコと魔王。

 多くの選択肢だった廊下の一つを進み、ジルドーレの居場所を探し当てようとしていた。

ニコ「多分、この洋館の最上階よ。そうに違いないわ」

魔王「何故そう思う?」

ニコ「勘!」

魔王「……」

 頼りになるのは女の勘。

 これで本当にジルドーレの居場所を突き止められれば大したものだが、せめて人質か行方不明中の住人たちを見つけることができて十分かもしれない。

 と、そう思っていた時だ。

 二人は、先ほどのエントランスホールよりも更に広い場所へと到達を果たす。

ニコ「……! なに、ここ?」

魔王「………広すぎるな…。まるで舞踏会やパーティー会場のようだ……」

 いや、それでもスペースが余るだろう。

 反対側の壁が小さく見えるほどとにかく広い部屋に出た二人だが、視界は良好ではない。

 何故なら、異常な程デカい家具が部屋の中に配置されており、ニコと魔王が小人のような立ち位置で現存しているからだ。

 ミニチュアの人形たちが人間の世界を見るとしたら、こんな景色が広がっているのかもしれない。

魔王「……もしかしたら、部屋が広いのではなく…」

ニコ「わたしたちが小さい、ってこと…? でも、何で……?」

 廊下に振り返れば、先程までの情景がそのまま残っている。

 部屋に入った瞬間にニコたちが縮んだのではなく、やはり元からこの部屋の中の物が全て大きく作られて配置されているだけらしい。



 そして魔王たちは、その原因をすぐに知ることになる。

???『あら……わたしのお客人を楽しみにしてましたのに……見知った顔ですのね?』

 高すぎる天井付近から、ニコと魔王も聞いたことがある女性の声が聞こえてきた。



ニコ「……!」

魔王「その声は…ッ」

 揃って真上を向き、ようやく気付いた。

 すぐ傍にあった巨大な椅子とテーブル。

 そこに腰掛けて優雅にお茶を飲んでいたお姫様の存在。

 この部屋にニコたちが入った時から、シンデレラの“エィラ”は黙って成り行きを眺めていたのだ。

ニコ「シンデレラのエィラ!」

魔王「どういうことだッ。何故そんなに大きく…ッ!?」

 誰もが知っている常識だが、シンデレラは巨大な女性などではない。

 灰かぶりと呼ばれる少女が、魔法使いの魔法によって生まれたガラスの靴をキッカケに王子様と結ばれる、ごく普通の肉体を持った女の子のはずなのだ。

 そんな彼女の前にあるテーブルには、とあるアイテムが置かれていた。

 それを手に取り、エィラはニコたちにも見えるように掲げて見せてくれた。

エィラ『これのおかげよ。この力で、わたしは戦うための力を手に入れたの…』

ニコ「……小槌…?」

魔王「…それは、まさか……!」

 大きくなった家具と少女、そして小槌。

 ここから連想できるアイテムといえば一つしかなかった。

ニコ「一寸法師の打出の小槌!?」

魔王「だが解せんッ。どうしてそんな物を使ってまで……戦うための力など…ッ」

 戦うための力ほど、シンデレラに不要なものはない。

 だがこの時、シンデレラのエィラの目には明らかな戦意が宿っていた。

エィラ『わたしだけが非力だったわ…。戦力外だったの……。でも、それももう昔の話』

魔王「なに……?」

 ゆっくりと椅子から立ち上がるエィラ。

 しかし、その足元にいたニコたちの体感には、地震が起きるかと思うほどの地響きが起きていた。

エィラ『全てはジルドーレ様のため…。デッドエンド・バロンに捧げる、わたしなりの貢献のため…ッ』

ニコ「……! エィラッ!!」

魔王「…これも、ジルドーレの持つ能力の影響かッ。逃げるぞ、ニコ!!」

 人間界に派遣するため、厳選に厳選を重ねた住人たち。

 味方であれば心強かったはずの彼女たちが、よりにもよって敵と化して自分たちに牙を剥いてくる。

 ただの足踏みで踏み潰され兼ねない状況の中、ニコと魔王はかつての仲間からの逃亡を図った。







 そして、地下牢から脱出を果たしたげんきたちも行き詰まっていた。

 まず、ここが洋館の地下であることを分かっていない。

 このまま何処かに進み続けるのではなく、まずは地上に上がるための手段を見つけなければならないのだが、ここが地下だと知らない彼らに脱出の手口は最難関だった。

日野げんき「淳之介さん。さっきから同じ場所、ぐるぐる回ってるとちゃいますか?」

青木淳之介「可能性は否めないな……」

緑川ひな「ひなたち、ここから出られるの……?」

 不安だけが募っていく。

 実を言えば淳之介は、地下牢の中にいた方が助かるのではないか、という考えも持っていた。

 牢の中では誰かの助けを待つ他にないが、この一ヶ月を生きてこれたのは青鬼の幹部が食事を持ってきてくれたからだ。

 手洗いや睡眠時にも立ち会ってくれていたため、これまでの一ヶ月で自分たちの身に危険が及ぶこともなかった。

青木淳之介「(誰かの助けを待つことしか出来ないが、あのまま地下牢に残っていれば少なくとも死ぬことはありえない……)」

 このまま無計画に身を任せて脱出を図ったが最後、三人全員で命を落とす可能性さえあった。

 それでは本末転倒だろう。

青木淳之介「(…僕は、どうしたらいいんだ……ッ…)」

緑川ひな「……! あッ」

日野げんき「アカンッ! 止まるんや、淳之介さん! そっち何かおるで!!」

青木淳之介「え」

 二人の声掛けに顔を上げる。

 が、遅かった。

 三人の気配に勘付いた怪物が、三人が立ち止まると同時にこちらに振り返った。

日野げんき「………ッ…!!?」

緑川ひな「ひぃッ!!!!」

青木淳之介「な、んだ……こいつはッ」

 そこにいたのは、明らかに人間界の生き物ではない存在。

 世話をしてくれた青鬼と初めて顔を合わせた時も、同じような反応を見せた気がした。

 そんな三人を目の前にして、大柄の怪物はゆっくりと振り返り真正面から睨みつける。
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