絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□騙し欺く戦術
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 木陰から立ち上がり、身を乗り出す準一。

 その姿は透明ではなく、先程までの実体に戻していた。

サゼロン「む? 一人かくれんぼは終わったのか?」

 草むらの中からサゼロンの声が聞こえてきた。

桜野準一「あぁ、もう終いや」

サゼロン「そっか。じゃあ……」



サゼロン「もう退場してもいいよね?」



 サゼロンが構えていた裁縫針の照準が準一の額に設定される。

 貫くほどの威力はなくとも、頭蓋に到達すれば無事では済まない。

 仮に頭蓋を撃つことすら出来なかったとしても、額に裁縫針が命中するよう設定された時点で準一へのダメージは確定していた。

サゼロン「始末しなくちゃならない敵が多いんだ。ここで大人しく眠っててよね」

 容赦なく放たれた鋭利な裁縫針。

 その先端が準一の額に届くと思われた……その瞬間。

桜野準一「…………」

 スカ……と虚しく、準一の頭を音もなく突き抜けて、裁縫針が彼方へ飛んでいった。

サゼロン「ーーーなッ!?」

桜野準一「何や? 豆鉄砲でも食ろうたんか?」

サゼロン「(普通の喋ってるから気付かなかったッ。こいつも幻覚かッ!)」

 準一が木陰から出てきた際、サゼロンと喋っていた方は既にダミーだった。

 自分と話し合っている者が目の前に現れては、まさか偽物とは思わないだろう。

 更に、目の前にいる者が本物だと認識してしまえば、偽物を遣わせた本物が別のところに移動していくのにも気付かないものなのだ。

サゼロン「……ッ。本物のお前は何処だ!」

桜野準一「んなモン知るわけないやろ。自分で捜しや」

サゼロン「なにッ!?」

桜野準一「あぁ、でもメンドイか? そんなら教えたるわ。自分の後ろにおるで」

 その言葉に従ったわけではないが、反射的にサゼロンが振り返る。

 そこには、まさか居場所をバラされると思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべた準一の姿があった。

桜野準一「ーーーちょ…ッ、馬ッ…鹿!! 何で教えんねんッ!!?」

サゼロン「……! ははッ、お前が本物か!」

 その反応を見て確信したサゼロンが、裁縫針を握り締めて跳躍する。

 準一の目を狙って自ら突き刺してやろうと飛びかかった結果……。

 スカ……と虚しく、何かを刺した感触もないままサゼロンの体が準一の中に滑り込む。

サゼロン「ーーー!!?」

桜野準一「……なーんてな♪」

サゼロン「お前も偽物かッ!!!!」

 二人目の偽物の体を素通りして着地した先に、また別の準一が待ち構えている。

 本物か偽物か分からなかったが、裁縫針を構えたサゼロンは容赦なく斬りかかった。

桜野準一「ちょッ、待てや! 容赦ないなッ」

サゼロン「うるさいッ」

 結局は偽物だった。

 三人目をあしらった後、ふと頭上に視線を向けてみれば……そこには身長十メートルを超える準一がサゼロンを見下している。

桜野準一「さすがに分かるか?」

サゼロン「当たり前だッ、偽物め!」

 斬りかかるまでもない。

 その後も次々と現れてくる準一の偽物たち。

 それら全員が、あたかも自分が本物であるかのような演技をするため、サゼロンとしては相手にしないわけにもいかない。

 明らかに偽物だと分かる者だけをスルーして、それら以外の全ての準一を相手にしていく。

サゼロン「ぜぇ…ッ、はぁ…ッ」

桜野準一「つらそうやな? でも安心しぃ。俺が本物や」

 否、斬りかかってみたら偽物だった。

桜野準一「よぉ頑張ったな。モノホンは俺やで?」

 否、刺してみたら空振りだった。

桜野準一「いや〜、待ちくたびれたわ。でもよぉやく辿り着いたな」

 否、腹に飛び込んだら手応えなく貫通した。

桜野準一「もう楽になってええで。俺を倒したら休んどきぃ」

 否、よく見たら影も出来ていない。

桜野準一「自分、何を頑張ってんねん。俺ら全員、ホンモンやで?」

サゼロン「ーーーうわぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

 もう何が何だか分からなくなってきた。

 次々と目の前に現れる準一全員が偽物だった。

 針を振るう手にも力が抜け、走る足も痺れ始める。

 同じ顔、同じ声、同じ姿、同じ手口。

 それらに繰り返し襲われる輪廻に軽くノイローゼを起こしそうになりながらも、サゼロンは我武者羅に針を振りながら草むらを駆けていた。

 もう、その針は準一を攻撃すらしていない。

桜野準一「俺が本物やで」

サゼロン「嘘だッ」

桜野準一「正解♪」

桜野準一「ほな、俺が本物やで」

サゼロン「嘘だ!」

桜野準一「正解♪」

桜野準一「んじゃあ、俺が本物やで」

サゼロン「嘘だッ!」

桜野準一「正解♪」

桜野準一「そんなら、俺が本物やで」

サゼロン「嘘だぁッ!」

桜野準一「正解♪」

桜野準一「ほら、俺が本物やで」

サゼロン「嘘だッ!!」

桜野準一「正解♪」

桜野準一「おーい俺が本物やで」

サゼロン「嘘だぁッ!!」

桜野準一「ハズレ、本物やボケ」



 ゴチンッ!! と、ただの拳骨がサゼロンの脳天に振り下ろされた。



サゼロン「ーーーぉぅ!!!?? おぁ!!? あ、あぁぁああ!???」

 準一が相手にしていたのが、もしも自分と同じ体格の誰かだったなら、勝敗は分からなかった。

 今のサゼロンのように弱らせたところで、きっとトドメの一撃には繋がらなかっただろう。

 小さな体だからこそ、準一の“何てことない普通の攻撃”が大ダメージに繋がったのだ。

桜野準一「でもまぁ、その針で反撃されちゃ堪らんからなぁ。ギリギリまで弱らせとく必要があったんや。すまんな」

サゼロン「お?? あ、えぁあ…???? あ……、ぉぁ…ぁぁ…………」

 バタリッ、と目を回しながら気絶するサゼロン。

 目に映るもの全てが信じられなくなった時、他人の目を欺き騙す者として、準一の勝利が決定する。

桜野準一「小人が相手やったから、並みのパワーしかあらへん俺でも勝てたんやけどな」

幻の宝玉『アッパレでござる! 見ていて飽きる光景ではあったが、此度の戦いは見事であったぞ♪』

桜野準一「一言多いねん」

 気を失ったサゼロンを拾い上げ、準一は中庭を出て行く。

 するとタイミングのいいことに、人質を救出してヘイテンたちとも行動を共にしていたニコたちが、大勢で駆け寄ってくる姿が見えてきていた。
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