絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season

□昔を思う暴走
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 ジルドーレの能力が効き過ぎたことで暴走してしまった浦島太郎こと“ウラシマン”は、その体を大きく膨らませていた。

 巨体を振るわせる巨人の大男と化した彼に、もはや自我すら残っていないだろう。

 本能のままに暴れまわり、やがて力尽きるだけの猛獣。

 そして最も厄介なのは、その暴れぶりがウラシマンの意思ではないということであり。

 即ち、本物の悪にさえ染まっていない彼を敵と見做して、なおたちはウラシマンを倒すことすら躊躇われたことだ。

緑川なお「姿や行動はメチャクチャでも、絵本の世界の住人に変わりはないんでしょ!? そんなの、戦えるわけないッ」

チェイサー「ニーヤニヤニヤ! ご尤もで♪ でもでも、それじゃあどうするのぉ?」

緑川なお「死なない程度に気絶でもさせて逃げる! それしかないッ」

 だがその方法さえ見つかるか分からなかった。

 仮に成功したとしても、彼が目覚めたら再び暴れ出してしまう。

 ならば目を覚ましても動けないようにしておかなければならないのだが、その方法も皆無だった。

 結果、今もなおたちは暴れ始めるウラシマンを前に逃げることしか出来ていないのだ。

ウラシマン『ーーーアバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』

緑川なお「…ッ…ああッ!! 耳がッ」

チェイサー「ニーヤニヤニヤッ。この咆哮だけは、やっぱどうにかしてほしいねぇ!!」

 耳を塞ぎながら洋館の廊下を駆ける。

 幸いにも巨体が災いしているのか、ウラシマンの足は遅かった。

 といっても体が大きいため、その足のリーチは長い。

 一歩進むたびに飛び上がってしまうような揺れに襲われながら、なおとチェイサーは走り続けていた。

 当然だが、洋館の廊下の天井はウラシマンの背の高さに対応できず、ウラシマンが進むたびにガラガラと音を立てて崩れていく。

チェイサー「ねぇねぇ、風のお嬢さん! もしもこのまま永遠に追いかけっこが続いちゃったらどうするぅ?」

緑川なお「こんな時に何言ってんの!」

チェイサー「このままだと何も進展しないよーって話さ♪ 何かアクションを起こすか、何かアクシデントが起きるか、結局は変化を待たなくちゃねぇ〜って」

緑川なお「そんなの分かってるッ。でも、何を、どうしたら……ッ」

 と、その時だった。

 前方に、また別の人影が見えてきた。

 人影といっても、それはなおたちに比べて恐ろしく大きい。

緑川なお「……!!?」

チェイサー「ニーヤニヤニヤッ。デジャヴだねぇ!」

 二人目の巨人。

 その背中が見えてきたことに絶望したが、その人物が振り返った時のこと。

チェイサー「……およよ?」

緑川なお「…あッ!」

 二人揃って、その正体に気付いた。

 新たな巨人もなおたちに気付いたところで、その背後から迫っている、自分とは別の巨人“ウラシマン”の存在に気付いたようだ。

 なおたちが自分の股下を通り抜けたところで腕を振り上げて……ウラシマンを押し返すように、その巨体を思いっきり突き飛ばしたのだった。



美優楽眠太郎「ーーーふんぬッ!!!!」

ウラシマン『ウバァアアア!!!!』



 土で形作られた巨大な兵隊の姿。

 それは、かつて最愛の恋人を失った際に暴走したものと酷似している反面、あの時の凶暴性のみ削がれているように感じられた。

緑川なお「眠太郎さんッ!!」

美優楽眠太郎「おぉ! やっと知った顔に会えたぁ! だが、これは一体全体どういう状況だぁ!?」

 自分自身が土の巨人になっているため声が遠いと自覚しているのか、眠太郎はなるべく大きな声を上げてなおに訊ねる。

 ウラシマンが再び起き上がってしまう前に、なおは眠太郎にこれまでの出来事を簡潔に説明した。

美優楽眠太郎「なるほどな!」

緑川なお「あれは浦島太郎! つまりは味方なの! 今は暴走してるみたいなんだけど、倒しちゃダメ! 分かる!?」

美優楽眠太郎「あぁ、分かった! つまりは……昔の俺ってことだな!」

 ウラシマンが立ち上がり、自分と同じ背丈の土の巨人を前にして腕を振るった。

 それを掴み取って身動きを封じた眠太郎は、土の巨人をラジコンのように脳内で操りながら、近場の壁へと押さえつける。

美優楽眠太郎「ここは任せろ! 君たちには荷が重い相手だ! 俺が責任持って引き受ける!」

緑川なお「ありがとうございます!」

チェイサー「ニーヤニヤニヤ! 任せたよぉ!」

 ウラシマンを眠太郎に任せて、なおとチェイサーは逃走する。

 しかし、それを大人しく見過ごすウラシマンではなかった。

ウラシマン『ウグウ……ッ、グゥオァアアア』

美優楽眠太郎「う、む?」

ウラシマン「ーーーウオァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 土の巨人とウラシマンの背丈は同程度。

 眠太郎がウラシマンを跳ね除けることが出来たのなら、逆にウラシマンが土の巨人を突き飛ばすことだって可能なのだ。

美優楽眠太郎「ーーーッ!!? これは、マズいッ!!」

 眠太郎が操作している土の巨人が大きく傾き、逃走中のなおとチェイサーに向けて倒れ出してしまった。

チェイサー「んにゃ?」

緑川なお「え?」

 その自体に気付いた二人が振り返ったが、今更どうにか出来ることでもない。

 土の巨人の中から眠太郎だけ避難することなら可能だが、結局は土の巨人の体を形成していたものの行き先は変わらないのだから。

美優楽眠太郎「すまん! 何処でもいいッ、俺の土塊を吹き飛ばしてくれ!」

緑川なお「了解ッ」

 だが、そこはなおの力の見せ所。

 どんな災害が降り掛かろうとも、風には敵わないはずだ。

緑川なお「“天風の一撃(マーチシュート)”ッ!!」

 突風を巻き起こし、降りかかる土塊を周囲の壁際に向けて払い飛ばしていく。

 ウラシマンの脅威から逃れられなかったのは痛手だが、手詰まりになったわけではない。

 振り出しには戻されたが、これで終わりというバッドエンドだけは避けられたようだ。
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