絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□不思議の国の終焉
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ウラシマンの腕をヒョイヒョイと避け続けながら、チェイサーは本来の自分の相手を見据える。
予想通り、戦うことしか考えていない怪物は猪突猛進の言葉を背負って動き始めていた。
赤剣アカンベェ「アカンベェ!!」
黄兵アカンベェ「アカンベェ!!」
このままでは、仲間側であるウラシマンまで攻撃し兼ねない。
それを止めようとした緑っ鼻のアカンベェが、杖を振るって青っ鼻アカンベェを強制的に浮遊させる。
青盾アカンベェ「アカ?」
緑杖アカンベェ「アァァァッカンベェ!!!!」
自分一人では二体のアカンベェを止められないが、お得意の魔法がある。
青っ鼻アカンベェを、ウラシマンに向かって突進していく二体のアカンベェの前方まで吹き飛ばし、その無謀な行動を止めさせた。
赤剣アカンベェ「アカッ!!?」
黄兵アカンベェ「ンベェ!!?」
青盾アカンベェ「アカンベェエエエ!!!!」
その鳴き声が示す通り、三体のアカンベェがメチャクチャに衝突し、ウラシマンの前で鎮まった。
場を治めた緑っ鼻のアカンベェが溜息を吐いて汗を振るったが、休んでいる暇などなかったはずだ。
チェイサー「おやおや〜? ホッとしてる場合じゃないんじゃな〜い?」
緑杖アカンベェ「ーーーッ!!?」
いつの間に移動してきたのか。
よく見れば、既に体勢を立て直した眠太郎がウラシマンとの交戦を始めている。
ウラシマンの注意を引く役目を終えたチェイサーが、二体のアカンベェを止めようとする緑っ鼻のアカンベェを始末しないはずはなかった。
チェイサー「お疲れさん♪ そんなに休みたいなら休んだらいいよ」
チェイサーの手には、眠太郎から拝借した宝玉による土塊が握られていた。
三者三様に思えた戦場だが、所詮は一つの場。
なおもチェイサーも眠太郎も。
自分の敵だけを見据えて戦うような真似などしていない。
マホローグ「………ッ…」
緑川なお「あんたの敵はあたしだけじゃない。目の前の敵にしか集中できないようじゃ、あたしたちは倒せないよ」
マホローグ「…………」
緑川なお「さっき“とっておきがある”って言ってたよね? そろそろ使ったらどうなの?」
マホローグ「……」
緑川なお「こっちとしては、そんな奥の手を使わせる前に終わらせられるんだからさ。悔しいなら手の内は使っておいた方がいい。その力を前にしても、あたしたちは絶対に勝ち進むッ」
マホローグ「………言ってくれるね…。そんなに僕の力が見たいなら……ッ」
マホローグ「遠慮なく使わせてもらおうじゃないかぁ!!」
懐に忍ばせていた、もう一つの鼻を握り締める。
それを晒したマホローグは、声高らかに召喚を宣言した。
マホローグ「いでよッ! スーパーアカンベェッ!!」
握り締めていたアカンベェの鼻の色は、赤。
しかし、その大きさは本来の鼻の二倍ほどはある大きさだった。
緑川なお「……!!」
デカっ鼻によって召喚されたアカンベェは、既に召喚されている四体のアカンベェと並び立ち、その威圧感を更に増して現れた。
巨鼻アカンベェ「スーパーッアカンベェ!!」
チェイサー「ニーヤニヤニヤッ、こりゃすっごいねぇ〜!」
相変わらずのテンションで対峙するチェイサーだったが、新たに召喚されたアカンベェの強さは感覚で伝わってくる。
これは、一筋縄ではいかないだろう。
マホローグ「本来のアカンベェは100ある力を、攻撃力70、防御力30、魔法力0で割り振ってる。ちなみに青っ鼻は攻守が逆転してるよ」
また黄色い鼻のアカンベェは、戦法をバランスよく取れるように攻撃力30、防御力30、魔法力40で割り振られている。
魔法を得意とする緑の鼻のアカンベェは、攻撃力20、防御力0、魔法力80という具合だ。
マホローグ「だが、あのデカっ鼻のアカンベェはそもそもの作りが大きく違う! 着色されていない無力な白っ鼻を二つ掛け合わせ、それを攻撃性のある赤色で染めたものだ!」
つまり、デカっ鼻の元々の力は200で構成されている。
それを赤色に染めたのなら、基本計算で二倍になるはず。
チェイサー「ってことは、このデカっ鼻は本来のアカンベェの二倍強い、ってことだねぇ♪ その程度ならモーマンタイ!」
しかし……そんな単純な方法で計算しているマホローグではなかった。
緑川なお「……待って、チェイサー! もう少し警戒してッ」
だが遅かった。
向かってくるチェイサーを受け止めたのは、デカっ鼻ではなく既に召喚されていた四体のアカンベェ。
チェイサー「あーもう! 邪魔邪魔ぁ!」
そんな調子など長く続かない。
デカっ鼻による“予想外に強固な攻撃”が、直後、チェイサーの体を一瞬で押し潰す勢いで炸裂する。
チェイサー「ーーーぷおッ!!」
ズガシャァァァンッ!!!! と、洋館の壁を容易く崩壊させる勢いで、チェイサーの体が簡単に吹き飛ばされた。
緑川なお「ーーーッ!!?」
美優楽眠太郎「…なッ!?」
その派手な音に、さすがの二人も目を見開いて驚愕する。
マホローグ「ウヒヒヒヒッ! 単純計算なら攻撃力140の防御力60ってところだが、それじゃあ面白くもないだろぉ?」
緑川なお「………ッ…」
マホローグ「攻撃力は激減するが、防御力だって拳を固める程度には機能してくれる。それなら……攻守共々、本来の力“そのもの”で割り振ったって十分な戦力になって当然なのさ!」
アカンベェの本来の力は100のはず。
それを攻撃か防御にそのままに割り振ってしまえば、アカンベェの力は大きく偏ってしまう。
しかし、本来の力が二つ分の鼻で形成されているのなら、そんなもの何の問題にもならない。
マホローグ「デカっ鼻の戦闘能力は、攻撃力100の防御力100だ♪ たった一人を相手にするだけじゃ、もうアカンベェの軍勢は抑えられないぞ!」
チェイサーだけでは、もうアカンベェを抑えられない。
それほどの力をたった一体が振るっている。
巨鼻アカンベェ「スーパーッアカンベェッ!!」
当人の雄叫びを合図に、既に召喚されていた四体のアカンベェも唸りを上げる。
赤剣アカンベェ「アカンベェッ!!」
青盾アカンベェ「アカンベェッ!!」
黄兵アカンベェ「アカンベェッ!!」
緑杖アカンベェ「アカンベェッ!!」
その圧巻な軍勢を前に、なおも眠太郎も戦慄した。
マホローグとウラシマンを相手にしているだけに、更なる敵を均等に注意しつつ戦うのは至難だろう。
美優楽眠太郎「……ッ、マジカルエナジーも無限じゃないってのにッ」
緑川なお「こんな戦いの打開策ッ、考えてたって分からないよ! 何も変わらないッ、直球勝負だ!!」
二人が覚悟を決めた、その直後だった。
チェイサー「“チェシャ猫のように笑え”ッ!!!!」