絵本の世界と魔法の宝玉! Last Season
□荒れ狂う戦い
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真っ先に姿を現したのは、デカっ鼻のアカンベェ。
巨鼻アカンベェ「…スー…パー、ア…カン……ベェ………」
その鼻に思いっきり噛み付いているチェイサーの姿が確認できた瞬間、ついにデカっ鼻のアカンベェさえも消滅していく。
残っているアカンベェは、ただの一体すら存在しない。
緑川なお「チェイサーッ!!!!」
眠太郎の耳に、チェイサーに向かって駆けていくなおの声が聞こえた。
視線を向ければ、その姿はマホローグとの戦いでボロボロになり、額や口の端から血を流している。
チェイサー「…………」
アカンベェとの戦いで勝利したチェイサーと目が合った瞬間、声など発していなかったはずなのに、チェイサーの最後の声が聞こえた気がした。
チェイサー『少しは貢献できたかな』
美優楽眠太郎「ーーーッ!!!!」
それだけで十分だった。
ウラシマンの足が上がり、倒れ込む土の巨人の体が思いっきり踏み潰される。
ウラシマン『ウォォォオオオオオ!!!!』
あっさりと巨人の体は崩壊した。
バラバラに崩れた土塊から足を引き抜き、チェイサーの頭を抱えて泣き喚くなおを見据え、そちらに歩いていく。
すると……。
美優楽眠太郎「……待…て…」
ウラシマン『ウゴ?』
踏み潰した土塊の中から、全身が血に塗れた眠太郎が這い出てきた。
右頬の古傷が大きく切り裂け、義手だった右手は潰れてしまったらしく、既にそこから失くなっていた。
美優楽眠太郎「…………」
ウラシマン『ウウウウウッ!! ウオァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
倒すべき敵を見定めたウラシマンが、なおに向けていた足先を修正し、再び眠太郎へと向かおうとする。
ところが、その足が更なる一歩を踏み出すことはなかった。
ウラシマン『…ウ…ウゥ??』
美優楽眠太郎「……玉手箱も、持ってないのに……すまないな…」
ウラシマンの両足に、先ほど踏み潰した土塊が蠢き、集まっていた。
眠太郎は左手を構えて、ウラシマンへと“酷な奥の手”を振るう覚悟を決めている。
美優楽眠太郎「チェイサーには、目の前で命を張られたんだ…ッ。だったら俺も、命をかけて君を倒そう!」
ウラシマン『……!!』
美優楽眠太郎「たった三百年だ……。億年単位も土の中で過ごした恐竜に比べれば…、いくらかマシだろう…ッ」
ウラシマンの全身に、眠太郎によって生み出された土が集まり、瞬く間にウラシマンの巨体を覆い隠した。
恐竜が化石として現代に姿を現したかのように、タイムカプセルによって何十年も保存されてきた思い出のように、土の中で時を超えていく。
美優楽眠太郎「三百年の時を超えろ! 爺さんになるか、元の姿に戻るか! 二つに一つの結末だッ、俺が君を救ってやる!!」
美優楽眠太郎「“時空の貯蔵(ティエラコメット・フォッシル)”ッ!!!!」
同時に、チェイサーが消滅した。
絵の具に塗れた両手を見て、なおが泣き叫ぶ。
その傍らで、ウラシマンを包んでいた土の塊が勢いよく収縮した。
美優楽眠太郎「…………」
土塊に近付き、少しだけ乱暴に塊を蹴り崩した。
中から出てきたのは、ジルドーレの魔手に堕ちる前の少年が一人、静かに眠っている。
美優楽眠太郎「……そら見ろ…。これでこそ、主人公だろうが…」
ようやく出会えた、本当の姿の浦島太郎。
眠太郎の戦いは、こうして幕を下ろした…………の、だが。
肝心な戦いは、何一つ終わってなどいない。
マホローグ「ウヒヒヒッ、なんだ相打ちもいいところだ」
美優楽眠太郎「……ッ!!」
なおとの戦いでボロボロになっていたが、まだ余裕を見せているマホローグ。
アカンベェを全て撃破されてしまったものの、その代わりにチェイサーを葬った。
ウラシマンが負けてしまったのも痛手のはずだが、見るからにズタボロな眠太郎など敵ではない。
実際問題、もう眠太郎には宝玉の力に頼れるほどのマジカルエナジーは残されていなかった。
最後に発動した奥の手の影響か、今以上に力を使えば間違いなく死んでしまうだろう。
マホローグ「やれやれ、簡単すぎて面白くないよ。うるさく泣き喚く女の子に、戦うこともできない小太り男。もはや僕の出る幕はないね」
美優楽眠太郎「…ふん。頭数で言えば二対一だ……。それに、ここで俺たちの相手をする気がないなら…、勝手に回復した後にリベンジさせてもらうぞ……」
マホローグ「はぁ? まったく何を言ってるんだか……」
マホローグにとっても、手の打ち様は限られている。
デカっ鼻のアカンベェまで倒されては、あとは自分自身で頑張るしかないのだから。
そう思っての強がり姿勢だった眠太郎だが、その心中を察したマホローグは口角を吊り上げて笑い始める。
マホローグ「ウッヒヒ、ウヒヒッ。ウヒヒヒヒヒ♪」
美優楽眠太郎「……何を笑ってる…、何がおかしいッ…!?」
マホローグ「いいや〜、何か勘違いしてるみたいだから、さ♪」
美優楽眠太郎「勘違い、だと……」
マホローグ「あぁ、そうさ。だって僕……」
マホローグ「あの“デカっ鼻が奥の手だ”なんて、一言も言ってないんだからさぁ!!」
そう叫んだ瞬間、マホローグは本物の奥の手を披露する。
懐から取り出したのは、闇よりも深い色で塗られた黒っ鼻。
今までの鼻とは雰囲気の異なる、見るだけで寒気が走るような、黒く、黒く、黒い鼻。
美優楽眠太郎「……! それはッ」
マホローグ「さぁッ戦慄しろ! これが僕の最高傑作!! 完全体にして、最強究極の超怪物だぁッ!!」
黒っ鼻を放ち、お決まりの召喚術を声高らかに宣言した。
マホローグ「いでよッ!! ハイパーアカンベェッ!!!!」
マホローグにとって、最後の召喚術になるだろう。
もはやアカンベェに込められた力の配分など関係ない。
右に出る者なしの究極体アカンベェが召喚されれば、もうマホローグの出番は不要だ。
美優楽眠太郎「……ッ」
マホローグ「これで終わりだッ。最強のアカンベェによって倒されるがいいッ!!」
そう言い放った、直後のことだった。
アカンベェが鳴き声を上げるよりも早く、一瞬にして、その姿が消滅した。
マホローグ「……………………は…………?」
アカンベェが一瞬で倒された瞬間、風の刃が空を切っていたように思える。
美優楽眠太郎「……な、なお…く…ん?」
眠太郎が、今まで泣き続けていたなおへと声をかけた……その時。
緑川なお「う」
美優楽眠太郎「う?」
緑川なお「ーーーううううううううううううううううううううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」
なおを中心に、我武者羅な突風が激しく吹き荒れ始めた。