迷夢録『うつろ』
□第一話
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その日は夜なのにとても明るくて、まぶしくて、とてもドキドキしました。
「おかー…さ…」
声を出そうにも、涙が流れ、火の粉に喉を焼かれてうまく話すことができませんでした。
焼けて倒壊した家の下から、母親の腕が延びていました。彼女の腕が私を焼け落ちる寸前、家から押し出してくれたのです。
「…っ…あっ…」
その腕に必死ですがりつこうとかけよろうとしたら、いつおったのか、足にあったひどい火傷の痛みせいで転んでしまいました
それでも、幼い私は必死に母親のうでの方に手を伸ばしました。もう今となっては、母の顔は忘れてしまいました。覚えているのは、その腕が炎に飲み込まれる瞬間。
「あ…あぁっ…」
完全に炎に包まれた我が家に、幼いながらに私は泣き崩れました
私はその日、天涯孤独になりました。
別に珍しい話ではありません。戦争孤児など腐るほどいました。そのころは一番攘夷戦争が盛んな時期でしたから