迷夢録『うつろ』
□第五話
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「まだ寝てないのかよ」
その夜も、やっぱりヒトカゲさんはやってきました。
「まってたの、晋助がくるのを」
思いきってわたしがいうと、ヒトカゲさんは少し動きをとめました
「おれは晋助じゃない」
「うそだわ」
「…」
松下村塾のみんなとお話をしました。声をおぼえました。その中に、ヒトカゲさんと同じ声の人はありませんでした。
ただ、七瀬と語ろうとしない晋助を除いては。
「わたしたち、毎晩おはなししているのに、ふだんはぜんぜん話さないのね」
「…」
「わたし、さびしいわ。ねえ、明日からはなしかけてもいい?」
「…好きにしろ」