たからばこ
□エロス
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ギリシャ神話の神の一人であるエロスは、人間の少女プシュケに恋をした。
彼女に求婚し、宮殿に住まわせ、夜にだけ現れる。
しかし、決して姿は見せない。
なぜなら、その美しすぎる神としての姿を隠すため。
ーーー私の恋人もエロスのようなものだ。
結愛はそう思う。
天狗は決して結愛を山奥の住まいに閉じ込めているわけじゃない。
彼女には自由が許されているし、別れようと思えばいつだってサヨナラできる。
しかし…美しすぎるといわれるその顔は、見たものを虜にするという。
そして、魅了された者は彼のこととなると心を奪われ、もとの自分には戻れなくなるとか。
天狗は決して仮面をはずしてはくれない。
まるでエロスだ。
私が変わるのが怖いのだ。
エロスが、その正体がプシュケに知れることを恐れたように、彼もまた私にその素顔が知れるのを恐れている。
顔を見たって、きっと結愛はなにも変わらない。
だって、もう彼の虜だから。