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人間たち(ベネッタも人間だが)はしつこいもしつこかった。もうかれこれ30分は逃げているのだが、次々と車両が増えて諦める気配が無い。

ここはどこだろうか?もうとっくに自宅からは遠のいてしまった。

この時、エイリアンは少し不思議に思い始めていた。この女(自分たちと同じで性別があることに気づいた)、こんな危険な状況でなぜこんなに冷静なのか?

完全な冷静ではないとしても、明らかに他の人間よりは平常を保っているように感じる。

先ほどはヘリからRPGを撃ち込まれた。それなのに動じていなかった。

「よう、随分と肝が据わってるじゃねえか」

エイリアンが大通りに出た。追手もすぐに後続しぞろぞろと曲がってくる。

「別に」

ベネッタが答えたのはその一言だけ。

「ああ、そうかい」

その瞬間。

エイリアンは初めてベネッタの悲鳴を聞いた。だがそれどころじゃない。

浮いた自らの身体を調整し、悲鳴を上げているベネッタをキャッチすることで忙しかった。

今までの衝撃とは違う。

この威力は――。

「クロスヘアーズ!!」

発射元を見ようとしていた時、突如頭上から声がし、ベネッタを掴んだエイリアンは計画変更してその喋ったヘリコプターへと掴まる。

ベネッタは頭が混乱しそうでたまらなかった。突然自分の身体がエイリアンごと吹っ飛んだかと思えば、今度は喋るヘリコプターがやってきた。

おまけにそのまま空の旅。

……落とさないでよね。

そう心の中で呟き、ベネッタはエイリアンの装甲にしっかりと掴まった。

「来るのが遅いぜ、このノロマが」

「すまない、私も同様に追われていたのだ」

「……どうりでヘリコプターの登場が早いと思った」

エイリアンが後ろを見る。車などは追ってこられないにしても、先ほどRPGをくれたヘリがまだ追ってきている。

「おいドリフト、もっと早く飛べよ」

「無理を言うな」

「まったくよ……」と呟くと、エイリアンはいきなりベネッタを掴んだ右手を下ろそうとした!!

「ちょっ、ふざけんなこのボケッ!!」

「おっと、いたんだったか」

やれやれ、とでも聞こえてきそうなため息とともに、ヘリコプターに「おい、ドア開けろ」と声を掛ける。

そして右手をヘリのそばまで目いっぱい伸ばすと、言った。

「乗れ」

「の、乗れって……」

「心配すんな、早くしろ!!」

エイリアンが怖いとかではなく(もちろん怖いは怖い)、ヘリに空中で乗り込むとはどんな事態だ、まったく。

幸い最低限の心遣いはできるようで、ヘリに掴まっているエイリアンの左手首を登る時は右手で支えてくれた。

「狙われている、急ぐんだ」

ヘリから声が聞こえると、ひとりでにドアが開く。

ベネッタは「お邪魔します……!!」と半ば叫びながら転がり込むように乗り込んだ。

ほぼ同時にRPGがベネッタのお尻を掠める。

「揺れるぞ、掴まれ!!」

ヘリの声が響くとともに、下にいるエイリアンが追手の方へ向き直る。

再び飛んできたRPGを避け、ドアを開けたままのヘリが大きく傾いたとき、エイリアンはコートのような装甲の中から一丁の銃を取り出した。

「あっ……」

ベネッタはそれを見た途端にヒヤッとした。あのエイリアン、あの人間たちを殺すつもりだ。

瞬時に、シカゴの残骸と化した光景が脳裏に蘇る。

あの人たちには家族はいるだろうか?

友達は?恋人は?

もしかしたら私の知っている誰かかもしれない。私のことを知っている人かもしれない。

また目の前で人が死ぬのか――。

『人間は生きてこそ価値のある生き物だ!!生きたいなら殺すしかない』

声が脳内に響き渡る。あの忌々しい言葉が。

人が死ぬのは、見たくない。

「掴まれ!!」

再びヘリが注意を促し、敵に照準を合わせられぬよう身体を大きく傾ける。

「調子に乗るなよ人間が……」

同時にエイリアンが銃を敵へと向けた。

「ひとがしぬ……」

人が、死ぬ。

だがそうしなければ、自分が死んでしまう。

生きたいなら殺すしかない。

叫んだ。

「やっちまええ!!」

叫んだ瞬間、エイリアンがわずかに驚いたように見えた。顔は分からないが。

でっかい銃口を追手へ向けたまま、彼は言った。

「あったりまえだろ」

発砲の振動が彼の右手を通してベネッタにも伝わった。ズシリと重い響きに思わずもよおす。

「ハッハー!!」

エイリアンの歓喜の声に追手を見ると、ヘリの操縦席部分に穴。

心臓を失ったヘリは、爆発することなく降下していった。

「どうだ、見たかクソ野郎ども」

「クロスへアーズ、このまま何も無いところまで行った方がいい、ここは目立つ」

「ああもう面倒はごめんだ、どこへなりとも連れてってくんな」

ベネッタが落ちてゆくヘリを見ていると、死んだ操縦士以外がパラシュートで脱出してゆく。

そこでまた進行方向へ向き直ったエイリアンとふと目が合った。

「お前、さっきの良かったぜ」

「さっき……」

「やっちまえーなんて言うからびっくりした、だがスッキリした気分だ」

「……そう」

さっと目を反らし、ベネッタはヘリの中へと戻る。

夜はまだまだこれからだ。





あとがき

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