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「今度は何?」すっかり疲れ顔のベネッタがドアの窓枠に頬杖をつきながら問いかける。

「お前と会って逃げていた時からずっと、この星にいる他のオートボットに通信を投げてた。ずっと音沙汰無しだったが、ようやく応答があったんだよ」

答える声は先ほどまでとは打って違い、それを聞くベネッタも思わず身を乗り出してしまった。

「……攻撃されてるの?」

「応援要請だった」

「だった……」

「通信は途中で途切れたよ」

ピンと張っていたものが、ふといやな空気に変わる。口には出したくないが――。

「お前の予想は、たぶん合ってるぜ」

「助けられないの」

「そのために今急いでる」

「近道する。ベルトしとけ」そう付け加えられ、しゅるりとシートベルトがベネッタに装着された。

「……話しかけたら走るのに邪魔?」

「別に。何でだ」

「いや、あなたたちのこと、誤解していたみたいだから……」

「俺に説明させようってか」

「そういう意味じゃないよ。聞きたいことは同じだけど」

「じゃあお断りだな」

「……なにさ、ケチ」ムッとして言ったはいいものの、もしかしたら死んでるかもしれない仲間のことを話すのが嫌なだけかも知れない――。

そう考えて、緊急事態の今はうるさく言わないことにした。

何も見えない真っ暗闇の中、車は右にそれる。これがさっき言っていた近道なのだろう、あからさまにオフロードなその"路面"は激しく彼らを揺らした。

「おとなしくしとけよ」

「どうせ飛んだり跳ねたりするんでしょ?仲間の命には代えられないってのおおおおおおおおおおお!?」

言っているそばから車体が飛んだ。……しかもなんだこの滞空時間は。

「ちょ、ちょちょちょああああああ!!」

ガツンと言うにふさわしい音を立て、ようやく地面へと帰宅する。いくら柔らかいシートでもさすがにおしりは痛くなった。

「せめて飛ぶ時は言って……」

「あ?言ってなかったか」

こいつ……わざとかよ

彼らは暗視もできるのだろう。ライトもつけずに走っているが、ベネッタは人間だ。暗闇を見通すには限界がある。

それを分かっていたずらするなんて……さっきやっぱり文句言っとけばよかった。

「そんな堂々と腰さするな、ババくせえ」

「あんたのせいだろうがああ!!」




     *



「ベネッタ、おいベネッタ!!」

突然自らを呼ぶ声にハッと目が覚めた。いつの間にやら眠ってしまっていたらしい。

「おい、起きたか」

彼の声はまたも緊張している。一体どうしたのだろう。

「もうじき着く。人間たちはもういないとは思うが――」

念のため姿を見られないように警戒しろとのことだった。頭を下げていろというのだろうか?

「あと少し走ったら降りてもらう」

「ええ!!」

「置いてかねえよバカ」

「あー、あーそう。それならいいけど」

そこまで私は分かりやすいの?ベネッタに悩みがひとつ増えた瞬間だった。

ほどなくしてクロスヘアーズがスピードを落とし停止する。ここで降りろという意味なのだろう。

「すぐに戻ってくるとは思う」

「当たり前でしょ」

「……最悪、どっちか片方だけでも戻ってくるかな」

それだけ言うと思い切りエンジンを呻らせ行ってしまった。あっという間にひとりだ。

「……寒」

夜明け前の太陽光で周囲を見ると、辺りは岩や砂ばかり。寝ている間に随分と景色が変わってしまっている。

ここはどこなのだろう?アメリカ?

ごうと風が容赦なくベネッタの身体を吹き付ける。彼女は近くに岩に囲まれた場所を見つけ、そこに入った。

ここなら風もそんなに当たらない。

風がないだけでだいぶ暖かく感じた。

その時だ。

「なに……?」

遠くで大きな爆発音が上がった。思わず風除け場から出て、そばの背の高い岩へと登る。

「……なにあれ」

人間のベネッタにもはっきり見える。

巨大な白煙の柱が上がっていた。

「……嘘」

あの場に転がっている残骸……彼らの仲間ではないか?何やら緑と青のスクラップが――。

「緑、と、青」

仲間……いや、彼らではないのか?まさか、人間たちの罠にかかったとか――。

「ヘイフィーユ、待ったか?」

「ぎゃあ!!」

ベネッタは突然の声に驚いて周囲を見回す。だがたった今耳元で声がしたのに、そこには何も誰もいない。

「なになになに……!?なんなの!?」

どういうこと?私ついにおかしくなっちゃった?

しきりにキョロキョロするベネッタの頭上から、ふいに笑い声が聞こえてきた。

「くっくっくっくっ……ここだぜフィーユ」

見上げるとまたいつのまにやらロボットの姿。その身体は赤く、腕には鋭い刃が付いている。

「驚かせちまったようだな」

「あまりからかってやるな、ディーノ」

その後ろから姿を現したのは――ドリフトだった。

「生きてる!!」

「殺すな」

「さっさとここからおさらばしねえと、このクソチビが危ないぜ」

「なんだ、生きてる」

「おい殺すぞ」

聞くところによると、あのスクラップはやはり仲間。レッカーズのロードバスターとトップスピンといったそう。

「俺が来たときにはもう終わっていた。単騎特攻は不利だからな」

通信が途切れたのは人間たちがジャミングを使ったからなのだとか。

仲間が失われたのは悲しいことだが、赤い彼一人だけでも生きていた。儲けもんだ。

「さあ、もう行こう」

ドリフトが言い終える前に変形を始める。残った二人も続いた。

「フィーユ、俺に乗りな」

そう言ってベネッタの前で赤いフェラーリがドアを開ける。「クロスヘアーズなんかよりずっと楽しいぜ」

「はっ、勝手に言ってろ。俺は別に乗せたくて乗せてた訳じゃねえしな」

「何さ、ばーか」

ベネッタは不機嫌そうにエンジンをふかすクロスヘアーズなどお構い無しにフェラーリへ乗り込む。

3台はすぐに走り出した。





あとがき

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