movie short
□赤と緑
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【attention!!】
・主人公がアサシン
・様々な設定ガン無視
・クロスヘアーズが格好良くない
・Assassin's CreedとWatch Dogsも登場
・とにかく注意なされよ
アメリカ。シカゴ。
一見華やかで賑やかで、暗黒沙汰など何もなさそうな見た目の街。
だがその裏ではさまざまな犯罪が横行している。
一見犯罪に見える正義の鉄槌も。
「かっ……」
喉元を押さえ、血を噴出しながら男が倒れる。彼はこのシカゴの犯罪に多々関わっているシカゴ・サウスクラブのメンバーだ。
この夜、ベネッタは教団からの指示で、ある情報を得るためにハッキングを仕掛けに来ていた。
エイデン・ピアース。ターゲットである彼の情報を。
ベネッタはまず建物内のカメラをハッキングし、外から内部の情報を探っていた。
その時だ。
「何……っ」
防犯カメラの映像が途切れた。いや、この一帯の電源が全てダウンしたようだ。
「その"任務"、本当に大丈夫なのか」
「!!」思わずその場から身を遠ざけようとするが、あっという間にテイクダウンされる。動けない。
「自らを置く組織の事は何にも知らないようだな、アサシン」
「エイデン・ピアース……!!」
馬鹿な、いつの間に?気配など感じなかったのに。
「俺を探っている組織、それはお前たちだなアサシン」
「何が目的だ?」エイデンが問いかけるも、ベネッタはそんなこと知りようも無い。
「知っていたとしても、教団への誓いをかけて言わない」
「ほう、素晴らしい心がけだな」
安全装置の外れる音が無情に響く。彼は本気だ。邪魔するものは必ず消される。
「女を手にかけるのは残念だ、ベネッタ」
「私の名を――」
「勝手に呼ぶなよ根暗野郎」
「ぐっ!?」
暗闇の中で急に身体にのしかかるものが無くなったが、先ほどの声から原因は分かる。
周囲の電源が復旧し、案の定エイデンを摘み上げているエイリアンに言い放った。
「クロスヘアーズ、いい加減に私のことは忘れて頂戴」
「ああ?命の危機を救ってやったんだろうが、この暗殺狂い」
ベネッタはため息をついた。これで何度目だろうか?任務中に現れるのは……。
「こいつが噂のエイリアンかアサシン……教団はお前がこいつらと関係があることを知り、お前を抹消するつもりだ」
「何……」
「何だとこの野郎、俺らが一体何をした?」
「俺はお前を殺すと見せかけ逃がすつもりだった」
「そんな嘘信じねえぞ」
「嘘だと思うなら、この映像を見ろ」
エイデンはクロスヘアーズの手の中でスマートフォンをいじり始める。
どこかのカメラをハッキングしたのだろうか、まずそれをクロスヘアーズへと見せた。彼は真っ先に顔をしかめたが、しばらくし――。
「……なるほど、疑って悪かったなハッカー」
納得した様子でエイデンを地面へと降ろした。ベネッタは不安のあまりクロスヘアーズを見る。
「安心しろ、俺もハッキングをかけたが、その映像はリアルタイムだ、嘘じゃねえ」
「見ろ」エイデンにそう言われ、恐る恐るスマートフォンの画面を見る。そこには顔を知っている教団の仲間が2人血を流し倒れていた。そこで更にエイデンが紙をベネッタに差し出す。
それはベネッタもよく知る教団の指示書だった。
「俺は今夜、ここでお前を殺すように依頼されていた」
「そんな――」
その時だ。突如発砲音と共にエイデンの左腕から血が噴出した。狙撃されたらしい。
「エイデン・ピアース!!」
「くそっ!!大丈夫だ……問題ない、俺はこのままここから離れる」
「行け!!」それだけ叫び走り出したかと思うと、再び周囲の電源が落ちる。彼の仕業らしい。
「まだ見張りがいたってことだな、行くぞベネッタ!!」
「待って!!あっ……」
「待ってたら殺されちまうぜ!!」
弾丸の雨が降る中否応無しに身体をとっ掴まれ、あっという間にコルベットの車内に軟禁状態となる。駆け出しつつトランスフォームした彼は既に全速力で、あっという間に現場から離れていった。
追手が来るのではと心配にはなったものの、ここまでの事態は想定していなかったらしい。何も追っては来なかった。
「これでいよいよ暗殺狂い卒業だなあベネッタ?」絶妙なハンドル捌き(身のこなしか)を見せつつクロスヘアーズが問いかける。
ベネッタは既に小さい現場を眺めながら「暗殺狂い……」と復唱した。
「ああそうだ、俺が行くとお前はいつも誰かを殺してた」
「やめて欲しい意味を込めてそう呼んでいたんだがなあ」と続ける。
ベネッタだってそんなことは分かってはいたが、ベネッタは生まれたときからアサシンとして育てられてきていた。それが今になって"コイツ"と出会い、"普通の生活"というものを垣間見てしまった。
今さら過ぎたのだ。違う世界を見るという経験そのものですら。
「誰も追ってこないようだな……それじゃあ今夜はどこへ行くベネッタ?」
いつもならここで「報告に帰るから降ろしなさい」と一蹴するのだが……。帰る場所は失った。本当にどうしようか。
行きたい場所どころか、この街を知らないことに今、気づいてしまった。もちろん"データ"という意味合いでは誰よりも知り尽くしている。だが――。
「分からない……」
「分からない?俺よりも詳しいだろうが」
「……そうじゃなくて、人間らしくこの街を見られない」
「人間らしく、ねえ」
ハッとして付け加えた「違う、貴方が人間じゃないからとかそういった意味は無くて……」
「分かってるさ、心配いらねえよ」
コルベットはいつの間にやら森の中へ来ていた。この近辺は機密施設、もしくはわずかな住人しか存在しない。彼だって伊達にこの街を知り尽くしていないようだ。
「到着だ、降りろよ」
「……分かった」
ベネッタが降りると、待ってましたと言わんばかりにクロスヘアーズがトランスフォームする。
そばにある湖ぎりぎりにベネッタが向かうと、彼もまた木々に引っかかるコートをはためかせながらついてきた。
「きれい」
湖は澄んでいて、月の光が水面に反射する。ちゃぷちゃぷという水の音もまた、心を落ち着かせた。
「いい場所だろう?見つけておいた」
「他にすること無いの、暇人」
「うるせえ」
クロスヘアーズはその場に座り込むと、ベネッタに「おいで」と仕草をする。
ベネッタは素直に従うことにした。
「あ、待って」
「またそれか、俺はそんなに待てな――」
バサリと音を立て、ベネッタの赤いコートが地面に投げ捨てられる。
クロスヘアーズは過去に聞いたことがあった。なぜ赤いコートをいつも着ているのか?と。その質問に対し彼女は淡々と答えた。「アサシンである、誇り高き証拠だから」と。
それを脱ぎ捨てた。そのコートには幾人の血が染み込んでいるのだろう?
「ベネッタ……」
「これで"お揃い"ではなくなったけど、いいの」
「……なら早く来い」
今度こそクロスヘアーズが手を伸ばす。それに乗ると、肩へと導かれた。
「やっとお前とゆっくり話ができるな」
「……そうね」
「ひとつ聞きたかったんだけど……」ベネッタが珍しく言いづらそうに切り出す。
「なぜそんなに私に構うの?」
「なんだそんなことか」彼の笑い声が間近で響く。
「戦争が激化していたときの俺と同じだったからだ」
「――え?」
意外な理由だった。てっきりからかい目的だとか、暇つぶしだとか思っていたのに。
「俺もお前みたいに、敵を殺しまくってサイバトロン星のためになっている、貢献していると思い込んでいた時期があった」
「だけどな……」
彼の声が哀しげになる。「争いは何にも生みやしねえ、ましてや殺し合いだってな」
「クロスヘアーズ……」
「当時はオートボットもまだまだ多くてな、俺に彼女だっていた」
「死んだのね」
「もう遠い遠い昔の話だ、人間からしたら」
「人間……」
「その彼女、名前はダガーレインだった」
クロスヘアーズは続けた。「そいつもお前に、似てた」
その言葉に、ベネッタは少し胸がチクリとした気がした。なぜだかは分からないが。
……いや、なんだこの感情は。徐々に徐々に、複雑な気持ちが膨らむ。
その時――。
『ダガーレイン!!』
「え……!?」
脳内に映像が流れ始めた。明らかに地球ではない、どこか。だがそれもまた、彼の声が正解を示していた。
サイバトロン星だ。そして目の前で倒れているのが――。
『起きろ!!死ぬんじゃねえ!!』
倒れている赤いボディのロボットを抱き起こし、彼の声が響く。
その時、先ほどの複雑な感情が全身に溢れた。
『ごめんなさい、クロスヘアーズ……約束、守れない』
『あんな約束守れなくたっていい、お前がいなきゃ――』
『クロスヘアーズ』
彼女がこちらへ手を伸ばす。『生きて、それで幸せになるの』
彼女の瞳の光が弱まる。『今まで、ありがとう――』
「ベネッタ!!」
ハッと気がつくと彼の手のひらで起き上がる。「急に気を失うから驚いたぜ、どうした」
ベネッタが顔を上げ見上げると、彼もまたハッとする。「何で泣いてんだ、まさか……」
「ごめんなさい――」
「俺の記憶が、見えたのか」
トランスフォーマーの身体は金属でできているが、人間と同じでそこには遺伝子や記憶が含まれている。アサシンとして様々な情報獲得能力をもつベネッタには、触れているだけで見えてしまうらしい。
涙が止まらない。
「クロスヘアーズ、ごめんなさい、クロスヘアーズ――」
「ベネッタ……」
どうしよう、苦しい――。息ができない。悲しい。辛い。胸が痛い。
ベネッタはその場で胸をぎゅっと押さえ、蹲るように涙を流した。彼に触れていると、その感情が流れ込んでくる。
彼はこの事で一度も泣いていない。それすら分かってしまう。
クロスヘアーズがベネッタに手を伸ばした。あまりに大きさが違いすぎて、撫でてやることすらできない。
それも分かった。だからその指を抱き寄せた。ぎゅっと抱き締めた。その金属の肌は、とても優しかった。
「悪い、何もできなくて」
ベネッタは首を振ったが、彼の感情は当時に近づく。
「俺は、いつだって何もできやしない。……いつだって」
「それは違う――。お願い、もう我慢しないで」
絶えず感情は流れ込んでくるが、ぐっと耐えて彼を見上げた。「悲しいのに隠しちゃだめ……こんなに未だに苦しんでいるのに、どうして無理に笑おうとしていたの?何もできない訳がない、貴方は私を救ってくれたじゃない!!」
クロスヘアーズは困惑していた。見れば見るほどに"彼女"に似ている。忘れもしない。
「……泣きたくても、泣けなかったのさ」
「え……」
「周りも仲間や友人を失ったやつばかりで、みんな泣かずにただ殺しを続けていた」
ふっと、風が吹いた。「そんな中で俺だけ泣くわけにはいかなかった」
ほんとにおなじだ――。ベネッタはそう思った。先ほどの彼の言葉。戦争中の彼に、私が似ていたと。
そうして彼もまた、今もなお苦しんでいる……。
なぜだろう、ふと彼が愛おしくなった。人間以上に人間に近く、人間以上に苦しんで生きている、彼が。
離れたくない……。ずっとそばにいたい。自然とそんな感情が湧き上がってくる。
こんな感情は、初めてだ――。
「……これから、どうする?」
「……これから?」
「貴方が私を誘ったんでしょうが、ここでさよならするつもり?」
ベネッタは再び顔を上げ、クロスヘアーズを目を合わせた。
「明日も明後日も何年先までだって、一緒にいる。だからどこへ行く?」
彼が驚いた顔を見せる。ああどうしよう、彼にこんなにも弱い部分があるだなんて。
愛おしい。
「泣きたいとき、楽しいとき、どんなときでも、"ここ"にいるから」
「……ハッ、ぬかしやがる」
指が離れると、今度は彼の顔が近づく。その表情はすっかりいつもの顔だった。
「その台詞、取り消しは無しだぜ」
ベネッタもまた答えた。
「嫌ってほどそばにいてやる」
あとがき
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