短編小説
□とある日の野菜事情
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満天の青空に浮かぶ太陽は、地上へとその神々しい光を照らしている。
その光の下では、奥州の一角にある城の敷地内に存在する、立派な畑が深々と緑を茂らせていた。
また、緑だけではなく、その畑には様々な種類の野菜たちが立派に実を輝かせている。
人参、葱、茄子、オクラ、南瓜……それらは見ているだけで食欲を掻き立てられるくらいによく育っている物である。
そんな野菜たちを、満足そうな目で見つめる男がいた。
(…今年も立派に育ったな)
その男ーー片倉小十郎は、自身が育て上げた野菜たちに水をあげながら、せっせと実や葉の様子を一つひとつ確認し、土を耕し、農作業に没頭し出す。
戦が絶えることのないこの時代において、農作業は小十郎が心を癒すことのできる貴重な時間であった。
もちろん、部下たちとの刀の稽古も楽しいものではある。
しかし、太陽の元で懸命にその実を実らせていく農作物を長い時間をかけて眺めるのは、稽古とはまた違った楽しさがあった。
故に、小十郎は農作業をしているとそれに没頭し過ぎて時間を忘れてしまうことが多々ある。
今日も例外ではなく、小十郎が農作業に夢中になっていると、ついさっきまで下の方にあった太陽が今は真上の位置にあった。
(っと…もう昼の時間か…)
ふぅ、と一息ついた小十郎であったが、農作業がまだ途中なため、休憩の時間もさほど取らずに作業を開始した。
それと同時に、聞きなれた凛とした声が小十郎にかかる。
「Hey小十郎!野菜はどんな感じだ?」
「政宗様!」
その声が聞こえたと同時に、小十郎は急いで後ろを振り返った。
小十郎に声をかけた人物ーー政宗は、ニコッと笑いながら彼に近づいていく。
その綻ぶような笑顔に、小十郎は自然と自身の表情が緩んでいくのを感じた。
独眼であっても、その表情はとても豊かであり、尚且つその笑顔は人々の心の闇を打ち消してくれるような綺麗な笑顔だ。
元々端整な顔立ちである政宗の笑顔は、今や戦で疲れきっている伊達軍の兵士たちの癒しの一つとなっている。
それは小十郎も例外ではなく、政宗の笑顔によって破顔しそうになるのを持ち前の精神力で何とか抑え込み、彼の問に答える。
「今年も立派に育ちました」
「oh!そりゃ今晩の飯が楽しみだぜ!…つっても、あんまり日に当たり過ぎるなよ?体調壊したら元も子もねぇだろ?」
「それくらいで倒れるほど、小十郎もやわじゃありません」
「言ったな?倒れたら承知しねぇぞ」
そう言い政宗は、カラカラと笑いながら小十郎の眉間を指でグリグリと押す。
それにくすぐったさを覚えながら、小十郎はこの方はなんとお可愛らしいのかと心の中で呟いた。
戦場に立って部下を引く勇ましい姿とはかけ離れ、今は年相応の可愛らしい姿で小十郎の心を掻き乱す。