短編小説

□とある日の野菜事情
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「でもお前、休憩も取らずに農作業続けるつもりだったろ?」
「……………そんなことはないですよ」
「その間は何だよ。やっぱ図星じゃねーか。そんなんじゃ本気でぶっ倒れかねないぞ」

図星と言わんばかりにたらりと冷や汗を流した小十郎にクスッと笑みを零した政宗は、懐から何かを取り出した。

笹の葉で何かを包んであるようなそれを、政宗は小十郎に手渡す。

「…政宗様、これは一体…?」
「開けてみろよ」

政宗に言われるがまま、小十郎は笹の葉にくるまっていた紐を解き、中にある物を確認する。

中には綺麗な三角の形をした、少し大きめの握り飯が二つ入っていた。

そう。政宗は、昼食を摂ろうとしない小十郎を心配し、簡単ながらも気のきいた昼飯を用意したのだ。

「体力使ったら、その分体力を戻さないとやっていけねえ。それは武将であるお前が一番わかってんだろ?」
「…政宗様…」

得意げに笑みを浮かべる政宗を前に、小十郎は心の中で感動の言葉を叫びまくっていた。

(政宗様が俺のために昼飯を…なんという幸せ!政宗様が俺の身体を心配して…なんという幸福!政宗様が輝かしい笑顔を俺に向けている…なんという天国!政宗様が政宗様が政宗様が……)

と、小十郎の頭の中は既に取り返しのつかないことになりつつある。いや、もはや崩壊している。

けれど、愛する主君の前で格好悪いところは見せられないとあくまで表面上は冷静な態度を見せた。

しかし、目尻には若干涙が溜まっていた。

「…政宗様のお心遣い、ありがたき幸せにございます…本当に、何と御礼を申し上げればいいのか…」
「おいおい、そりゃ大袈裟だって!たかが握り飯二つくらいでよ」
「小十郎にとっては、これ以上ないくらいの幸せにございます」

そう言い小十郎は、普段はあまり見せることのない柔らかい笑顔を政宗に向ける。

その艶のある大人っぽい笑顔を目の当たりにし、政宗はカァッと白い頬を朱色に染め上げた。

「…ほんっと、大袈裟な奴だな…」

プイッと照れ隠しに後ろを向いた政宗に、小十郎はクスリと笑い声を漏らす。

ああ、本当になんて可愛らしい方なのであろうか、とーー。

小十郎は、後ろを向いてしまった政宗の正面に立ち、空いた手で彼の細い顎を掴み、上に向かせた。

「…小十郎?」

政宗がそう言い終わる前に、小十郎は彼の形の良い紅い唇に自身の唇を合わせていた。

軽く触れるだけの、小さな接吻であり、その唇はすぐに離れていった。

それでも、政宗の心はドキンと高鳴りを示す。

「…こじゅ、ろ…」
「…申し訳ありません。貴方様があまりにもお可愛らしいので、我慢が利きませんでした」

その言葉を聞くと同時に、政宗はボンっと効果音が付きそうなほどに顔を真っ赤に染め上げる。

その姿に、また抑えがきかなくなった小十郎は、再びその唇同士を合わせた。




その日の昼は、双竜が仲良さげに食事をしていたとの多数の目撃情報があったのである。


end
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