短編小説

□闇を溶かして
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「…そのような夢を、ご覧になられたのですね…」
「………」

政宗の話を一通り聞き終えた小十郎は、まるで自分のことのように眉を吊り下げながら拳を強く握った。

母親からの拒絶の言葉は、幼い心にとってはとてつもなく深い傷になったに違いない。

それこそ、今でも決して忘れることのない深い傷に。

政宗は、小十郎が険しい表情をしていることに気づくことなく、苦笑いを浮かべた。

まるで、それが仕方のない、自身の宿命であるのだと諦めているような表情である。

「…しょうがないことなんだと、思う…」
「…どういうことですか?」
「そのまんまの意味だよ」

未だ諦めの表情を崩すことなく、政宗は言葉を続けた。

「…父上や小次郎をこの手で伐ったこと、母上を悲しませてしまったこと…他にも、俺が未熟なせいでお前らに迷惑かけちまったこと…俺は、今までに色んな罪を犯してきた」

長い言葉を紡いでいくうちに、政宗の瞳には次第に涙が溜まっていく。

喉からは嗚咽が込み上げてくるが、すんでのところで止める。

「俺は罪人だ…だから、その代償として俺は愛される資格を失っちまったのかもな……けどやっぱり、お前にいっぱい縋りたいって思っちまうんだ…」

そう言い終わると、政宗は遂に瞳から涙を溢れさせた。

こんな話をしたって、小十郎を困らせるだけだ。

自分はまたしても彼に迷惑をかけるのかーー。

彼を困らせるくらいなら、自分が堪えた方がマシだ。

小十郎に縋りたい気持ちを政宗はぐっと抑え、心配させまいと無理に笑顔を作る。

そんな作り笑いが、小十郎をさらに悲しませるのに気づかずに。

「…話はそれだけだ。Sorry、こんな夜中に付き合ってもらって。俺はもう、大丈夫だからっ…」

そう言い終わる前に、政宗の身体は暖かな温もりに包まれていた。

政宗を抱きしめた小十郎は、片方の腕を彼の背中に、もう片方の腕を彼の頭に持っていき、その華奢な肩に顔を埋めた。

突然のことに、政宗は緊張して身体を強ばらせる。

そんな政宗にはお構いなしに、小十郎は更に腕の力を強くし、くぐもった声で言葉を発した。

「…奥州のために命をかけ、兵士全員を大切にし、全てをご自分のせいにしてしまわれるほど優しい貴方が、愛される資格がないなどありえません」
「…こ、じゅう、ろ…」

切なげに呟かれた自分の名前の響きに、小十郎自身もまた切ない気持ちになる。

「…大丈夫です、貴方は皆から愛されています。そうでなければ、兵士たちが筆頭筆頭と騒ぎ立てるわけがないです。それでも淋しいというのなら…」

小十郎は政宗の肩から顔を上げ、彼の小さく端整な造りの顔をその大きな手で優しく包み込む。

涙で濡れた白い頬を愛おしそうに撫であげながら、ぐっと顔を近づけた。

「…俺が、有り余るほどの愛を貴方に差し上げます…」

そう言い終わると同時に、小十郎は政宗の唇と自身の唇を重ね合わせた。

しっとりと包み込むように、優しく啄む。

「っんぅ……」

その柔らかな刺激に、政宗の身体はピクンッと小さく震えた。

それを合図に小十郎が唇を離すと、政宗の頬は先ほどまでの白から薄い桃色へと染まっていた。

それを美しいと心の中で呟き、小十郎はまたふんわりと政宗を抱きしめる。

「……愛しております、政宗様…もう、貴方無しでは生きていけない…」

耳元で呟かれるその甘い言葉に、政宗は自身の心が暖かくなっていくのを感じる。

そう、小十郎は今までに幾度となく愛情を捧げてくれていた。

それを今更ながらに気付かされた。

また、自分自身が最も愛しているのも、今まで自身をずっと支え続けてくれていた彼であると再認識させられる。

心の曇がなくなった政宗は、今度こそ心からの笑顔を浮かべる。

「……Thank you、小十郎。俺もお前のこと、愛してるぜ」
「…ありがたきお言葉にございます」

政宗の笑顔にようやく安心した小十郎は、二回目の接吻を施した。

そして、二度とこの方に寂しい思いはさせないと誓うのであった。


end
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