太刀川隊の剣姫

□太刀川隊の剣姫
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「そうか…。玉狛での入隊手続きが済んでいたとしても、正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない…」
雪華の言葉に太刀川は頷き、迅を見据えた。
「そういうことだ。俺たちにとって、お前の後輩は1月8日まではただの野良近界民だ。仕留めるのになんの問題もないな」
「へえ……」
雪華には、この時の迅の目が一瞬苛立ちを帯びたように感じられた。
まともに剣を振れるようになるまで迅に稽古をつけてもらっていたからこそ、こういった微かな変化にも気付くようになった。恐らく迅は今、穏便に済ませられないことを解った上でこう言っているのだろう。
「邪魔をするな迅。お前と争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する」
「……本部と支部のパワーバランスが崩れることを別としても、黒トリガーを持った近界民が野放しにされている状況はボーダーとして許すわけにはいかないんです」
「雪華…おまえは……」
「き、城戸司令はどんな手を使っても玉狛の黒トリガーを本部の管理下に置くと思います。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかないでしょう」
「雪華、もういい」
「……っ、すみません」
どうやら声が震えていたらしく、太刀川に止められた。情けないと思いながら、雪華は謝罪の言葉を口にした。そして、風間が続けた。
「おとなしく渡した方がお互いのためだ。………それとも、黒トリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか?」
「城戸さんの事情は色々あるだろうが、こっちにだって事情がある。あんたたちにとっては単なる黒トリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば命より大事な物だ。別に戦争するつもりはないがおとなしく渡すわけにはいかないな」
"持ち主本人にしてみれば命より大事な物"
雪華は迅の言葉を聞き、マントの下で手首につけたブレスレットを握った。
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