この空の下で

□prologue
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白い壁、白い床、白い天井、白い扉。
すべてが白一色で覆われた部屋。
その部屋の家具も清潔のいい真っ白な色で統一されていた。

白い寝具には茶色の長い髪をした女性が寝かされていた。陶器のような滑らかな額には何重もの包帯が巻かれ、淡い桜色の唇には酸素マスクが覆われている。

その彼女が身体に覆う毛布の下には、隠しきれない何本もの管が大小様々な機械へと繋がれていた。

ピッピッと規則正しく音を奏でるのは、
意識が戻らない彼女がこの世にまだ存在しているという証明だ。

そんなどこかのお伽噺である眠り姫の元へは今日も誰かが尋ねてくる。


「…夕空さん…っ…」


彼女をそう呼ぶのは、銀髪できちりとした黒いスーツを着た青年だった。
青年は白い寝具の傍らにある椅子に腰かける。
そして、彼女の陶器のように滑らかな左手に両の手を添えて柔く握った。

「…申し訳ございません…」

そう呟き青年は伏し目がちにしていた翡翠の瞳を閉じ、涙を流すまいと眉間に皺を寄せて苦しげな表情をする。が、すぐにまた翡翠の瞳を開けた。

その瞳には、なにやら決意のようなものを感じた。


「どうか、待ってて下さいね…。」


名残惜しそうに彼女の左手を元に戻し、
青年は穏やかに笑みを浮かべ、眠れる彼女の柔らかそうな髪を一撫でしてその白い部屋を去っていた。


To be continued

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