この空の下で

□立ち塞がる運命
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「あの、獄寺隼人さんって誰ですか?」

「え?」

目の前にいらっしゃる10代目の妹君である幼い夕空さんがこの世界ではまだ幼かったおれを知らない。

俺はずっと幼かった10代目に隠れて幼い夕空さんを意識しては見つめていたと言うのに、彼女にとっておれはやはり隣にいる資格などないのかもしれない。ならば。


「俺は貴女が好きです。ですが、どうか俺を好きにならないでください。先程のお話も俺の存在も無かったことにしてください」

「は?いや、それは…」

強烈過ぎて何が何だかと困惑な表情を浮かべる彼女。彼女はとてもお優しい方だからそう易々と俺の存在も俺の言葉も無かったことにできないのだろう。だけど、俺はこの世界に来て決めたんだ。

俺とあの人が無関係だった頃に修正するって。つまり、10年前の自分の恋路を10年後の俺が潰すというものだ。こんな馬鹿げたことをするために過去へ行く協力をしてくれたアイツらには感謝しなければいけない。


「夕空さん、もう遅いので家までお送りします。行きましょう」

「あ、ちょっと」

幼い夕空さんの手と自分の手を繋ぎ、ゆっくりと彼女のご自宅までお連れする。存在の知らないはずの俺に手を繋がれても抵抗せずに、俺の後をついていく幼い夕空さんは不思議そうに俺を見上げていた。ああ、綺麗な琥珀だ。


「好きになるなと言われて、はいわかりました。なんて簡単に言えませんよ。」

「っ………何故です?」

恋は好きに成る成らないではなくて、恋は落ちるものですから。という彼女の桜色の唇へと目が行き、俺の胸の中がきゅうとなる。ああ、好きだ。どうしようもなく、貴女が好きだ。
柔くて温かい手を更にぎゅっと握る。


「夕空さん、俺は…」

「着きましたね」

「え?あ、はい」

送ってくれてありがとうございました。おやすみなさい、獄寺さん。と幼い夕空さんはそう言ってご自宅へと入っていった。頭痛がしない。ここに10年前の俺はいないのか。


「お前は10年後の獄寺じゃねーか、こんなとこでなにしてるんだ」

「り、リボーンさん」

「獄寺、夕空を送ってもう10分ぐらい経つが10年後の世界に帰れねぇのか?」

「あ、えと。はい、そうです。」
「10年バズーカの故障か?まあいい。お前はしばらく俺の手配したセーフハウスでも行って休め」

じゃあな、とリボーンさんはあまり事情も聞かずにご自分のセーフハウスの鍵を渡して去ってしまわれた。

正直この姿のまま、何処かで一夜の過ごすのは辛い。リボーンさんに感謝しなければ。ありがとうございます。








「おはようございます。幼い夕空さん」
「おはようござ………獄寺さん?」

早朝。俺はセーフハウスを抜け出して、10代目のご自宅へとやってきた。この時間はまだ10代目は夢の中だが、部活をしている幼い夕空さんの朝は早いのだ。


「10年バズーカの調子が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか?」

「リボーンさんのおかげでなんとかなっています。」

「そうなんですか。えと、今日はどうしたんですか?」

「今日はいつもの道で行かないほうがいいですよ。貴女に良くないことが起きる」

「良くないこと?…(そーいえば、ハルちゃんが)ああ、わかりました。今日は別の道で行きますね」

俺の言葉に幼い夕空さんは何やら考えた後、素直に頷いた。そして、別の道で学校へと向かわれた。俺はその後ろ姿を見送ってその場を去る。これで、10年前のおれと幼い夕空さんが出会う事は無い。


「痛っ、す、すいません。」

「っ、てめぇどこ見て……って10代目の妹君!?足から血が!申し訳ございません!」

「え?10代目?妹君!?ってか、君ってニコニコマートの店員さんじゃ」

「手当できました!さあ学校まで背負って送りします。俺の背に乗って」

「いや、いいよ。これくらいたいしたことじゃないよ」

「それでは、俺の気は晴れません。」



………はずだったのに。




「ハルちゃん、綱吉君。大丈夫!?」
「10代目!ご無事ですか!?」

「あ、夕空ちゃん。ハルはツナさんにフォーリンラブです!」

「うん、わかった。わかったから服着替えようか。私の体操着貸すから。えと、綱吉君はどうしよう」


「あ、あの10代目にはおれの体操着をお貸ししますので」

「あ、ありがとう……って、小さい獄寺さん?」

「(ちいさい?)あ、はい!流石妹君!自分は獄寺隼人と申します!10代目の右腕であるこのおれを以後お見知りおきを!」




「はぁ……」


痛む頭を抱えて、
俺はため息を吐いた。

あのアホ女、よくも人の苦労を台無しにしやがって……。


To be continued

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