この空の下で

□大嫌いな彼女へ
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何時ぞやの白い部屋には眠る長い茶色い髪の女性の元へまた誰かが訪れる。

「夕空…」

眠る彼女と同じ茶色い髪で琥珀色の瞳に同じ顔立ちをした青年が椅子にも座らず、じっと彼女を見つめていた。

彼の服装も先日訪れた銀髪の青年と同じくきちりとした黒いスーツだ。

女性を見つめる表情は怒っているような悲しそうな顔をしていた。目の下には少しうっすらと隈が出来ている。


「なんでだよ…っ」

青年はぽつりと呟いた。
傍らにはピッピッと規則正しい音を奏でる機械があるが彼女の意識が戻ることはない。が、構わず言い続ける。


「なあ、いい加減に。目を覚ましてくれよ。」

みんなお前が目を覚ますのを待っているんだよ、と寝具の柵を握り締め、悔しそうに下唇を噛むと鉄の味がした。


「くそ…っ、俺はお前もマフィアの抗争に巻き込みたくなかったのに……!」

どうして、と涙が次々と溢れては流れていく。その雫がぽたりっぽたりっと彼女の陶器のような肌に落ちた。その時、今まで動かなかった。眠る彼女の目頭にシワが寄り、彼女は苦しげに呼吸器越しで初めて呼んだ。大切な片割れの名前を。


「………つな、よしく…っ」

「……っ夕空!」

今まで何も反応しなかった妹に兄である自分が呼ばれたことで綱吉くんと呼ばれた青年は俯いていた顔を上げて彼女の名前を呼び返す。だが、彼女は目を覚ますことはなく夢現に呟いた。


「獄寺くんに…体操着、ちゃんと返してね…」

「夕空!おい、しっかりしろよ!」


重体な身体の彼女を揺さぶる訳にもいかず、声だけで彼女を呼び止めようとするが彼女はまた眠りについてしまった。そんな彼女に綱吉は呆れた顔をする。



「隼人に体操着っていつの話だよ…」

涙ぐんでいた表情に少しだけ笑みが浮かぶ。夢現だが、意識のなかった彼女が少しだけど意識を取り戻し始めている。


「早く隼人に知らせなきゃ」

「残念ながらハヤトは今不在だ」


よう、ボンゴレ。と綱吉を呼ぶのは、黒い癖毛で無精髭をうっすらと生やした男性。男性の服装を見ると草臥れた白衣を着ている。医者なのだろう。


「Dr.シャマル、お久し振りです。」

綱吉は面識があるのか体ごと空いた白い扉のほうに振り返って会釈する。シャマルと呼ばれた男性は「おう」と返した。



「それで隼人がボンゴレのアジトにいないと言うことはどういうことでしょうか?」

「ああ、あのバカ。何を考えてそうなったのかわからねぇが過去に行きやがった」

「え、過去へ?」

何故?と首を傾げる綱吉はしばらく考えた後、なんとなく眠る夕空を見つめて「ああっ!」と声を上げた。

先程、夕空が呟いた言葉はもしかして………。



「沢田!居るか!」

「あ、お兄さん!夕空の為に来てくださってありがとうございます!」


過去を作り変えるとかそんなわけないよな、と綱吉はその考えを遥か遠くに追いやって部屋に入ってきた青年に頭を下げる。お兄さんと呼ばれた笹川了平もきちりと黒いスーツで決めている。


「うむ、沢田の妹の一大事だ。同じ妹を持つ者同士助け合わないとな」

「にしても、流石ミルフィーオレファミリーだな。こんな可愛い子ちゃんまでボンゴレ関係者だからって容赦なしかよ。」

可哀想に、と包帯が何重にも巻かれた柔らかそうな茶色い髪を撫でる。しかし、先程のように反応が返ってくることはない。




「おい、ボンゴレ。とにかく夕空ちゃんの額の包帯外して患部を見て笹川の活性の炎を使うぞ。あと、ビアンキちゃんとクロームちゃんを呼んできてくれ」

「わかりました。あと山本も呼んできます。」

「鎮静の炎か。無いよりあったほうがいいな。頼む。」

「はい!」

綱吉は白い部屋を飛び出して山本と呼ばれる男を呼びに行く。

全ては大嫌いな妹を機械の群れから解放する為。そして、目を覚ましたら彼女を目一杯抱きしめて大泣きして困らせてやることだ。


覚悟してろよ、夕空。


To be continued

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