この空の下で

□少年が抱く感情
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「おはようございます。10代目!」
「はよー、ツナ」

「獄寺くんに山本、おはよう」

「あの、10代目。」
「どうしたの?獄寺くん」

「いえ、なんでもありません。」

俺は獄寺隼人。
ボンゴレ10代目ボス沢田綱吉さんの右腕になる男だ。

俺には気になっている人がいる。
その人は、10代目が退院された日から何故か姿を見かけることのない妹君の夕空さんだ。


「獄寺くん、なんか最近元気ないね」

「い、いえ、そんなことありませんよ」

「夕空に会えないからじゃねぇか?」

「野球バカは黙ってろ」

「恥ずかしがるなよ」

「恥ずかしがってねぇよ」

アハハ、素直じゃねぇのな!と歩きながら呑気に笑う野球バカ。その辺の石にでも躓いて転べと思いながら10代目に誤解だと弁解しようとした時、10代目が仰った。


「そーいえば、夕空も最近元気がないんだよな。」

「え?夕空さん、どこか調子が悪いんすか?」

「いや、調子は悪くないんだけど。最近、勉強やら部活やら塾やらで忙しいみたい。昨日も朝早くから学校に行って塾の帰りも夜遅くってさ」

最近は毎日そんな感じなんだよね。と、心配そうに話す10代目。

「なんかいつ倒れてもおかしくない感じだな。なあ、獄寺」

「うるせぇ」

まあ野球バカの言う通り、いつ倒れてもおかしくない感じだ。前に夕空さんを迎えに行った時のことを思い出す。

前に言ってた入江と言う男とカフェで一緒に予習復習でもしているのだろうか。


『入江くんって言って頭がいいの』

笑って入江の話をする夕空さんの顔がちらついた。そう思うと何故か胸がずきんと痛む。

そーいえば、入院していた病室に戻ったらお見舞いの品が置いてあったが、あれは夕空さんが置いたのだろう。

近くに置手紙があって、その字がやはり夕空さんからだとハルが教えてくれた。嬉しさのあまりお見舞いの品を俺は大事に食べた。

夕空さんは本当にお優しい上にお淑やかだ。あのアホ女にも彼女の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

いや、止めておこう。夕空さんのご迷惑になるし、何よりあのアホ女が夕空さんのようなお淑やかになるとかそれはそれで気持ち悪い。



「獄寺くん、品出しお願いしてもいいかな?」

「へい。」

じゃあ頼むね、と店のバックヤードに入っていく店長。品出しを任された俺は作業に入る。

夜の俺は時々この店でバイトしている。この事はリボーンさんしか知らない。まあボンゴレ本部からお金が入ってくるが、それは生活費に充てている。欲しい雑貨とか食費とかを買うために店長にも年齢を偽って採用してもらった。年上は全員敵だが、バイトとなると話は別だ。働かなければ生きていけないのだ。

すると、店の自動ドアが開く音が聞こえてきた。一応、「いらっしゃいませー」と声かけをする。


「すいません、会計お願いします。」
「へーい、只今。」

レジの方で客の会計を催促する声を聴いて早足で向かう。聞き慣れた誰かの声だった。客は細身で見慣れた緑中の制服を着ていた女。一瞬、夕空さんの顔が頭を横切ったが、その女は短い茶髪。

長い髪の夕空さんとは違う。
はあ、夕空さんに会いたいと切なげに思う。


「お待たせしましたー」

レジに入り、女が持っていた買い物かごを受け取って会計していく。かごの中には携帯食と栄養剤のゼリーとホットコーヒーだった。なんかサラリーマンみたいな買い物だな。

「合計で538円っす」
「じゃあ、608円でお願いします。」
「はい、70円のお返し……夕空さん?」

「あ、やっぱり獄寺くんか。」

コンビニの制服着てるから別人だと思ってたよ、と言うその人は先程、会いたいと思っていた彼女だった。


「か、髪、どうしたんですか!?」

そして久しぶりにお会いした夕空さんは長かった髪をバッサリと切ってしまっていた。


「そろそろ切ろうと思っててね」

似合ってないかな?と笑う。
似合ってないわけではないが勿体無いと思ってしまう。ずっと髪を伸ばしていたのに。何が彼女をそうさせたのか。俺はすごく気になった。それが表情に出たのか彼女は困った顔してこう言った。


「告白もできずに失恋したの」

「えっ?」

驚く俺に彼女は「だから新しい恋を見つけるために髪を切ったんだ。」と今度は笑みを浮かべた。

失恋に新しい恋?
夕空さんが誰かに恋をしていたなんて知らなかった。告白もできずに失恋とは相手は一体誰だ。彼女は誰を好きだったんだ。こんなに無理した笑顔を作らせているのは誰だ。そして、俺の胸がじんわりと痛むのは、その失恋の相手に嫉妬しているから。


「あの夕空さん、失恋の相手って」

「あ、そうだ。このコーヒー、獄寺くんにあげるよ。」

「どもっす。って、そうじゃ」

バイト頑張ってね、と俺の声も気にせずひらひらと手を振って店を出ていこうとする彼女の腕を慌てて掴む。その腕は少しでも力を入れたら折れてしまいそうに細かった。前まではそんなこと思わなかったのに。

「(…やつれてる?)もうすぐ自分あがりなんでお家まで送っていきますから」

「獄寺くんって頑固だね。」

じゃあ雑誌立ち読みして待ってるよ、と疲れたように夕空さんはふらふらと雑誌コーナーに向かった。俺は早くあがれないか、品出しをしながら時計を見つめていた。

夕空さんをお家まで送って行くと決めたら先程まで痛んでいた胸が今度は高鳴ってる。ったく、現金なもんだぜ。

俺は夕空さんのことを敬愛する10代目以上に好きなんだ。

To be continued

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