この空の下で
□少女の抱く葛藤
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『っ獄寺さん!安心してください。告白する前に失恋しちゃいました。』
獄寺さんは驚いていたけれど、これでいいんだよ。これで獄寺さんの目的は達成されたはずだ。ちょっと違うかもだけど、これで私と獄寺くんが恋人になることはない。
未来の獄寺さんが恐れている出来事がこの先起こることもないだろう。
あとはしばらくハルちゃんや獄寺くんと会う事を控えればこの気持ちもいつかいい思い出になって彼らを快くお祝いすることができるはず。
これから部活や勉強や塾でもっと忙しくなるから丁度いいんだ。とても悲しいけれど、我慢強い方だから大丈夫。
病院から帰ってきてから数日。
ぼんやりと自分の部屋でそう思っていると、コンコンと部屋のドアをノックされた。ドアの向こうから「夕空」とビアンキさんの呼ぶ声が聞こえた。
「ビアンキさん?」
「ちょっといいかしら?」
「えっと、ちょっと待ってください」
慌てて溢れ出ていた涙を拭った。
鏡を見て大丈夫だと思った私はドアに近寄って、ガチャとドアを開けた。
「ビアンキさん、どうしたんですか?」
「貴女に教えてもらったナミモリーヌでチーズケーキ買ってきたの。一緒に食べましょう」
ママンが紅茶を入れてくれたからと穏やかに笑うビアンキさんに私は「どうぞ」と彼女を部屋に招き入れた。
「貴女の部屋に入るのって初めてだけど、ツナとは本当に真逆ね。きちんと片付けられていて素敵だわ」
「ありがとうございます。ただ必要最低限のものしか置いてないだけですけど嬉しいです。」
ビアンキさんからケーキと紅茶が乗っているおぼんを受け取ってローテーブルにそれぞれ置いていく。私の言葉にビアンキさんは「そんなことないわ、このアロマとかぬいぐるみだって可愛い趣味ね」と部屋にある手頃なぬいぐるみを手にとって触り心地が気に入ったのか抱きしめている。
「そのぬいぐるみ、綱吉君から誕生日プレゼントに貰ったんです」
双子で同じ誕生日だからプレゼント交換みたいな感じだけれど。
「あら、そうなの?あのダメツナもちゃんと兄らしいことするのね。」
「綱吉君はダメツナじゃないです。ただちょっと自分に自信が持てないだけです。自信を持って行動する時のお兄ちゃんはとても凄いんです。」
「ツナのこと、大好きなのね」
「はい、大好きです」
だって、たった1人しかいない。
私だけのお兄ちゃんだから。
その後は、他愛のない話をしながら過ごす。商店街に出来た美容室とか綺麗な服とかお料理の話とかリボーン君の話とか。
「夕空は好きな人いないの?」
「す、好きな人!?」
そして恋愛の話とか。
だけど、それは今の私にとっては、
NGワードだ。
「その反応はいるのね?誰かしら?」
私の知っている人?と嬉しそうに尋ねてくる。その瞳が獄寺くんを思い起こして私の胸がじわりと痛み出す。
「!……夕空」
貴女、泣いて。とビアンキさんが慌てて向かい合うように座っていた場所から移動して私の隣まで来て震える私の背中を摩ってくれる。収まるどころが涙は大粒になってポロポロと頬を伝って落ちていく。
「ビアンキさん…っ」
ずっと見続ける変な夢のこと。
10年後の恋人に好きにならないでと言われたこと。
いつの間にその人を好きになってしまって、気付いたら失恋していたこと。
失恋しても忘れられない人。
忘れたくない大切な人。
一緒に居たかった。
対等で居たかった。
本当は平気じゃない。
我慢強くなんてない。
悲しい。寂しい。辛い。
『10年後の貴女は人当たりが良く、とても美しくて群がる男どもを果たすくらい俺は毎日嫉妬します。』
私は美しくなんてない。
大事な友人を羨んだり、妬んだりしてしまうくらい自分のことしか考えてない。
誰にも言えないこの醜い気持ち。
「夕空、ゆっくりでいいから話してくれないかしら。私は貴女の力になりたい。」
誰にも言わないから、と真剣な顔して、けれど優しい声でそう言ってくる。ビアンキさんになら言ってもいい?
「最初はちょっと気になる人って感じだったんです」
「そう」
「だけど、いつからか頭の中でその人のことを考えるようになって」
「そう」
「気付いたら恋に落ちていたんです。でも、その人には別の気になる人がいて、その人といい感じで気付いたら告白する前に失恋しちゃいました」
「そう、だったのね。」
話してくれてありがとう。と頭を撫でながら未だに震えている私の身体を抱きしめてくれるビアンキさん。この人がお姉さんならいいのに。
「あの、ビアンキさん」
「何?」
「私、髪を切ろうかと思います。」
泣き晴らした私がそう言うとビアンキさんも頷いてくれた。
「私も付き合うわ。うんっと可愛くなって相手を見返してやりましょう!」
そしてもう一度、
新しい恋を見つけましょう。
To be continued