この空の下で

□告げられた本音
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「獄寺くん、お疲れ様。」

もうあがっていいよ、とバックヤードから出てきた店長がそう言ってくれた。俺は「お疲れ様っす」と返して雑誌コーナーにいる夕空さんの姿を確認して作業服から私服に着替えるためにバックヤードへ急ぐ。

裏口から出て店に入る。温かい飲み物を買ってから雑誌コーナーに向かう。
雑誌コーナーには月刊世界の謎と不思議を真剣な眼差しで読んでいる夕空さんが居た。

好きな人が俺の好きな雑誌を読んでいる姿に嬉しくなって俺は思わず言ってしまった。「俺も好きです。」と。

「!?」

俺の声に反応して夕空さんが慌ててこちらに振り返った。驚いている夕空さんがこう返してきた。

「い、今、好きって言った?」

「はい、言いました。」

俺がそう言うと夕空さんが何やら慌て出す。ちょっと意地悪だったか。と、助け船を出す。


「夕空さんも好きなんですよね?この月刊世界の謎と不思議」

「あ、そ、そうなの」

もう獄寺くんが変なこと言うからびっくりしたよ、と読んでいた月刊世界の謎と不思議を雑誌コーナーに戻す。
夕空さんは焦っているのか頬が赤く染まっている。なんだこの可愛い生き物。夕空さんだ。俺は変なこと言ってないです。事実です。


「すいません。同志を見つけたと思ったら嬉しくてつい」

「ど、同志って…」

「さあ、そろそろ帰りましょう。お母様や10代目が心配していますよ。」

俺はそう言って夕空さんの左手を掴んで店を出た。夕空さんの手、あの日と同じで温かくて小さくて柔らかいなぁ…。

手の感触を楽しでいると夕空さんが思い出したように言った。「バイトお疲れ様、獄寺くん」と。

「夕空さんも色々とお疲れ様です。これ、コーヒーのお礼です。」

そう言って俺は夕空さんに先程買ったほうじ茶ラテを渡した。受け取った夕空さんが嬉しそうな顔をして言った。「ありがとう。温かい」と。


「それはよかったです。あ、そうだ。あの店で働いていること、10代目やほかの奴らにも言わないでくださいね」

10代目には働いているところを見られたくない。あと、ほかの奴らに知られたらそれこそ大変だ。


「わかったよ。言わないよ」

「2人だけの秘密っすね」

「そうだね。」

隣を歩く夕空さんを盗み見ると彼女はとても辛そうな顔をしていた。また、俺の胸が締め付けられたように痛む。そんな顔して欲しくない。


「夕空さん、最近頑張りすぎてるんじゃないですか?」

そんなことないよ。と、また無理やり笑顔を作る夕空さん。そんな笑顔、俺は望んでいない。

「無理して笑顔なんて作らないでください。貴女らしくないです。」

「無理なんて」

「10代目から聞きましたよ。ここ最近毎日部活やら勉強やら塾やらで朝早くから家を出て夜遅くに帰ってくるし、食事もまともに採っていないとか」

俺がそう言うと夕空さんは悔しそうな顔をする。まるで、綱吉君のお喋りめ。と言っているような感じだ。


「10代目は心配なんですよ。このままじゃ貴女が倒れてしまうかもしれないって。もちろん俺だって心配してます。」

「大丈夫だよ。一息ついたから」

「それにしたって夕空さん、ふらふらしてて危なかしいです。」

今だって手を繋いでいなければ、何処遠くへ行って消えてしまいそうなくらい夕空さんが儚げに見える。


「貴女がそんなふうになったのは、失恋したと言う相手のせいですか?」

「違うよ。ただ私が好きになってはいけない人を勝手に好きになってしまっただけ」

相手の人は悪くないのと俯向きながら首を左右に振って否定する夕空さん。こんなに夕空さんに想われている失恋相手に嫉妬した。と言うか、いますぐ名前を聞いて果たしに行きたい。だが、そんなことをしても夕空さんの気持ちは晴れない。夕空さんのために俺は何が出来るだろう。


「獄寺くん、今日は送ってくれてありがとう。」

もうお家に着いてしまったのか、夕空さんと一緒にいるだけで時間が早く感じる。もっと一緒に居たい。

「あの夕空さん。俺、貴女のことが…」

今、俺に出来ることは、俺の気持ちを夕空さんに伝えることで失恋相手のことを忘れさせてやることかもしれない。そう思った時だった。

ふに、とした柔らい何かが頬に触れる。

それは……。


「夕空、さん…?」

彼女の、
夕空さんの唇だった。
頬にキスされた。
どうして?


「獄寺くん、ハルちゃんと仲良くね…
大好きだったよ…」

涙を零しながらそう告げられた言葉。
俺が呆然としていると、夕空さんは「さよなら」と言って早々にお家の中へ入ってしまった。



「失恋の相手って、俺!?」


To be continued



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