この空の下で

□入江少年の思いの形
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僕には気になっている子がいる。その子とは小学生の頃から図書館の学習室で何度か顔を合わせている。

今だって。学校帰りに学習室のドアを開ければ真剣な顔つきで問題集に向き合う彼女の背中があった。


沢田夕空。
それが彼女の名前だ。
いつもは遠くで彼女を見つめるだけだったけれど。今日の僕は勇気を出して問題集に取り組んでいる彼女の傍へ向かう。

「こ、こんにちは」

彼女に声を掛けるという行為に緊張して声が思わず上擦った。うわっ恥ずかしい。

声に気づいた彼女が問題集から顔を上げる。銀縁の眼鏡が僕の姿を捉えるとレンズの奥にある目が瞬きを繰り返した。

「こんにちは」

後に彼女は首を傾げて挨拶を口にする。レンズの奥にある彼女の瞳が以前図鑑で見た琥珀みたいに澄んでいるのを僕は改めて知った。彼女に見つめられて僕の頬が僅かに火照る。ああ、間近で見ると可愛いな…。

いつまでそうしていただろうか。「あの、」と控えめな声が聞こえた。

「座らないんですか?」

勉強しに来たんですよね?と目の前の彼女が不思議そうに尋ねた。


僕ははっとして「そうだった!」とその場にある空いていた椅子に慌てて腰を下ろす。正面に座る彼女の顔がまともに見れずに僕は俯いた。

顔は鏡を見なくてもわかる。まさか声を掛けられるまでずっと見つめていたなんて絶対変なやつだと思われた。穴があったら入りたいよ…。

頭を抱えた僕の耳に堪え切れていない笑みが届く。見ると正面にいる彼女が笑っていた。ふふ、とまるで花が咲いたみたいに笑う沢田さん。

「あの、」

「ごめんなさい。入江くんって面白い人だったんですね」

「え、何で僕の名前…」


彼女が僕の名前を知っていることに驚いた。学習室で顔は何度か合わせるけれど彼女とは言葉を交わすことはあまりないから。そんな僕に彼女は気まずそうな顔をして「ごめんなさい」と謝る。



「実は入江くんのこと前から知ってました」

よく学習室で顔を合わせるからと言う彼女に僕はなんだか嬉しくなった。 彼女も僕のことを気にしていたんだと。だから僕も白状した。


「僕も沢田さんのこと前から知ってたよ」

僕の言葉に沢田さんの頬が赤らむ。いつも凛々しい感じだった彼女の表情が今日だけでくるくると変わる。


「こんなことだったらもっと早くに声を掛けるべきだったな」


そうですね、と彼女が朗らかに笑う。その笑みに僕の胸がどくりと跳ねた。ああ、あの音は恋だったんだ。

初めての恋。
中学に上がるときは学習塾が一緒になって前よりも彼女とは普通に話せる関係になっていた。

でも、想いを告げることができなかった。もう彼女には想いを寄せる相手、運命の人っていうのかな。そんな相手が出来ていた。僕はずっとただただ見つめ続けていた。もう10年くらい前から。


「ショーイチ、どうした?」

「スパナ、なんでもないよ」

「ご、獄寺さん、落ち着いて。ちょっと待ってください」

「うるせぇ、ジャンニーニ。おい、メカニックども俺を過去に行かせろ。お前らなら出来るだろ」

僕が願うのは、彼女、夕空さんと目の前にいる彼、獄寺くん。二人の幸せ。だからどんな願いだろうと協力は惜しまない。絶対に。

END

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