series1

□episode2
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「風が気持ちいい…」

部屋に篭もりきりも勿体ないので、デッキに出て潮風に当たっていた。すると。


「すいません、僕らここに行けって指示されてきたんですけど」

聞き馴れた関西弁が聞こえてきて思わずデッキからそちらを窺う。

そこには全国大会に関西枠で出場する彼が船長と話しているのが見えた。耳からは彼らの会話も入ってくる。

「四天宝寺様でございますね。お待ちしておりました。外部から話は伺っております。私はこの小型客船の船長を勤めさせていただきます。川崎と申します。」

「部長の白石です。この度はうちの部員が体調管理を怠ったせいでこちらの船にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」

「気にしないでください。…それでその方の体調は如何ですか?」

「はい。今出すもの出してるんで時期に治まるかと思います。」

「それはよかった。もしお薬が必要であれば遠慮なく私か船員達にお声を掛けてくださいませ」

「ありがとうございます。」

「それではお部屋のほうにご案内させていただきます」

「あ、いや部屋は場所さえ教えて下されば後は大丈夫です。部員たちにも自分から伝えますんで」

かしこまりました。と白石くんの申し出に船長が快く了承して彼に部屋の場所を教える。

「では船の旅もお楽しみください」

最後にそれだけ言うと船長はどこかへ行ってしまった。

また船長室に戻ったのかな。そう思っていると船に乗り込んだ白石くんが私のいるデッキへとやってくる。彼が私の存在に気付いた。


「あ、なんや俺らの他にお客さん居ったんやな。…野郎ばっかでえらいすまんな、お嬢さん」

途中までやけどよろしゅうなと人のいい笑みを浮かべて気さくに声を掛けてきた彼に「こちらこそ」と笑い返す。

けれど、内心は疑問でいっぱいだった。

なんで関西の四天宝寺がここにいるんだろう?多分テニス関連だと思うのだけれど…。

まず、テニスと船の組み合わせで私が思い浮かんだのはあの合同合宿だった。

けど、私の記憶には確か四天宝寺は参加を辞退したとかなんとかって…。

「ああっ!」
「…え?」


思考の海に潜っていると高く響いた声に引き挙げられた。

そちらを見ると赤茶髪の男の子もとい遠山金太郎くんに指を差されていた。


「…えと、私の顔に何か付いてる?」

「こら、金ちゃん。人を指さしたらあかんやろ」

「せやかて、白石ぃ!この姉ちゃん!ケンヤの携帯にある写真の姉ちゃんにそっくりやで!」

金ちゃんの意味深な言葉に思わず「…は?」と間抜けな声が出てきた。

そんな私を次に白石くんが顎に手を当ててじぃっと見つめてきた。

後に顎から手を離して閃いた!と言わんばかりにぽんっと手を叩く。


「…言われてみればほんまやな。なんか見覚えあるなあ思うたら自分氷帝に居るケンヤのか…ぐふっ!」

「ちゃうわっ!」

白石くんの言葉を遮るように物凄い速さで突っ込みが入った。白石くんに突っ込み(と言うよりあれはラリアット)を食らわした彼がこちらへ振り向いた。


「うちのゴンタクレと部長がすまんな。俺は四天宝寺中の忍足謙也や」

氷帝の忍足侑士の従兄弟をやっとる。と自己紹介してくれた彼に返す刀で私も名乗った。

向こうは忍足くん経由で私のことを知っているみたいだけど。…なんで忍足くん、私の写真を従兄弟に見せてるんだ。


「氷帝の風宮葉月です。侑士くんの友達(仮)やってます。よろしくね」

「ああ、よろしゅうな。俺のことは謙也とよ……(仮)って何!?友達やなかったんかい!?」

「あー…うん、なんというか本人に無断で人の写真とか個人情報を送りつけてる人を果たして胸を張って友達と言えるかどうかが微妙な心境でして」


「あー…うん」

うちの侑士がえらい迷惑かけてすまんと額に手を当てて謙也くんがそう詫びてきた。


「話は済んだと?もうすぐ船を出すっていうとったと」

荷物とか置いてきたほうがよか。と今し方荷物を置いてきたらしい千歳くんがやってきた。


「せやった!おい、白石いつまで伸びてんねん!金ちゃんもや!荷物置きに行くで!」

謙也くんが慌てて未だに伸びる白石くんを起こし始める。

それを見ていた千歳くんと視線が合うと嬉しそうに微笑まれた。そして何故か近寄って来て頭を撫でられた。「むぞらしか」と。

To be continued.


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