detective

□ホームズ・フリーク殺人事件
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「うえーい、食った食った。」

あれからも騒いでいた私たちは部屋に訪れた毛利さんに一緒に夕食に行こうと誘われてリビングへとやってきた。私は服部くんとコナンくんに挟まれながら食事を終えた。時計を見ると夜の9時過ぎを指していた。夕食を終えてもオーナーの姿は今の所見ていない。

「それにしても全然姿を見せないな。オーナー」
「早くオーナーを呼んでテストの採点を始めてちょーだいよ」
「でも私は旦那様がお出でになるまでお客様をもてなすように言われてますので」

夜の12時を過ぎてもオーナーの金谷さんは姿を見せない。それに痺れを切らした藤沢さんが怒りながら部屋に戻っていく。そんな中、机に頬杖を突いていた戸田さんが口を開いた。「やっぱりあの噂は本当だったみたいね。」と。

戸田さん曰く、クイズの賞品に初版本なんて真っ赤な嘘。毎回難癖付けて全問正解者を出さずに結局はあの本を自慢するだけのツアーだとか。

「…悪いけど、私も休ませてもらうわ」

席を立つ戸田さんを皮切りに川津さんと清水さんも席を立って自室へと戻っていく。メイドさんが止めるけれど毛利探偵もアホらしいと自室に戻って行ってしまった。


「どうする?コナン君」
「僕、まだここにいるよ。」
「浅葱はどないすんのや?」
「私もまだ待つよ。」
「さいですか。」

コナンくんと私の言葉に毛利さんと服部くんも席を立たずに付き合ってくれる。私たちの他にリビングで残っているのは大木綾子さんと戸叶研人さん。そしてメイドさんの7人。


「ふわあ…」
「大きなあくびだね」
「うっさいわ。…あかん。俺ももう限界や」

そう言って机に突っ伏す服部くんに部屋に戻るって寝るように声を掛けるけれど彼は動かない。

どうやら私が席を立つと言うまで動くつもりはないらしい。

やれやれ。と苦笑いを浮かべていると向かい側でも会話が聞こえてくる。

「ねぇ研人。私達も部屋に戻ろうよ」

「待てよ。こうゆう時は先に動いた方が負け……ん?なんだ、あれ?俺達の乗ってきた車じゃねぇか?」

窓に視線をやった戸叶さんの言葉に私たちも窓に視線を向けた。窓の向こうには確かに私たちがここに来る時に乗ってきた車がゆっくりと動いている。

誰が運転しているのだろうと目を凝らす。目に付いたのは見覚えのあるホームズの衣装だった。

「オーナーよ。オーナーが運転してるわ。」

綾子さんの言葉に私たちは席から立ち上がって窓の側に駆け寄った。得意げな戸叶さん曰くやっと始まるのさ。推理クイズがね、と。

その言葉に私はぼんやりと動く車を見つめていた。が、動く車の先に道も何もないことに気付いた。

「ちょ、ちょっと!」
「そっちは崖」

綾子さんと研人さんの言葉に服部くんが窓を開けた。コナンくんと服部くんが外に飛び出す。私も急いで2人の後に続く。

「おい、スピード上げよったで!あの車!」
「な、何を考えてるのっ…あの人はっ!」

加速する車になんとか並んで服部くんとともに窓を叩きながら運転する金谷さんへと必死に呼び掛ける。

「おい、おっさん!何しとんのや!?早う止めんと落ちてまうで!!」

「止まってっ!この先は崖なんですよ!!わかってるんですか!?このままじゃ崖に落ちちゃうっ!」

呼び掛けても反応を示さない金谷さんに不審を抱いて私達は呼び掛けつつも窓から中を覗くと彼は意識がないようだった。そして車のパネルには何故か不自然に毛布が被せられていて…。エンジン音じゃない妙な風の音が私達の耳に届く。…この風はクーラー?

「と、とにかくどうにかして窓を壊さないと…!」

「だ、ダメだ!朔子っ!」
「あ、あかんっ!浅葱もう手ぇ放せ!」
「けど、このままじゃオーナーが…!」
「このドアホっ!」

自分まで落ちる気かっ!と叱りながら服部くん達が崖から足を踏み外そうとしていた私の腕を掴んで引き留める。

それと同時にオーナーを乗せた車は崖から海へと落ちていき爆発した。それを目の当たりにしてしまった私たちはしばらくその場で立ち尽くしていた。



「何?オーナーが死んだ?」

「ああ、そうや…。たったいま、俺らの目の前で車ごと海に落ちよった」

例の爆発で騒ぎを聞きつけてやってきたフリーク達に服部くんがそう説明する。メイドさんが信じられずに訊いてくる。「どうしてっ」と。

それを欠伸を噛み殺しながら毛利さんがこう答えた。

「自殺だよ。自殺。きっとホームズの初版本を持っていかれるのが惜しくなったんだろう」

「あ、あの毛利探偵。差し出がましいとは思うんですけど。初版本を誰かに持っていかれるなら尚更自殺なんてしないんじゃないでしょうか?」

私の言葉に毛利探偵以外が頷いた。毛利探偵は目を瞬かせて私に尋ねてくる。「では朔子さんはどうお考えですか?」と。

前から思っていたんだけれど毛利探偵はなんで私に対してはこうも大人な対応なんだろう。まあ邪険に扱われるよりはいいか。

「えと確証はないんですけど。これはひょっとするとた」
「他殺かもしれませんよ。」

私の言葉に被さるように告げられた言葉に視線をやる。どうやら言葉を発したのは戸叶さんらしい。

「オーナーを予め眠らせたか。殺したかして車のシートに座らせ。ギアをドライブに入れれば車は自動的に発進する。」

その後も彼は得意げに自分の推理を披露してガレージを指差して言った。「犯人が作業したのはおそらくあのガレージの中」と。

「じゃあもしかして私達の中に犯人が?」
「まあ、そういうこと。」

戸田さんの言葉に戸叶さんは自分のメガネを指で押さえてそう答える。

確かに戸叶さんの言う通りだ。
そう考えるのが妥当だとは思うんだけど。ただ気になることが。


「せやけど、あの車。途中でスピードあげよったで。なあ浅葱」

服部くんに話を振られて私は頷いた。
そう。仮にオーナーが誰かに眠らされたか殺されたかしてもそんな人間がアクセスを強く踏むなんてことが可能なのだろうか?

「それに車の中でしてた風の出るような妙な音も。あれはエンジン音とはちごうてたで」

「ああ、それならきっとクーラーの音だよ。スイッチが入ったままになっていてエンジンをかけた時に勝手に動いたんだよ」

服部くんの言葉に川津さんが難なくそう答えた。そして死体が回収不可能になった今は警察に連絡して待つしかないと言う毛利探偵の言葉にフリーク達は家の中に入っていく。メイドさん曰くカルトテストで取り上げられた携帯がオーナーの部屋にあるとか。


「あら何してるの?タイヤの跡なんか見て」

毛利さんの言葉に下を見るとコナンくんが地面に這いつくばるように何かを捜していた。彼曰くちょっと捜し物とか。ひょっとして彼が捜しているのってアレかな?

「ねぇ捜し物って……あっ」
「「いってぇっ!」」

コナンくんに尋ねると同じく何かを捜すように地面に這いつくばっていた服部くんがこちらに向かってきて見事にお互い頭突きをしてしまった。痛む頭を抑えた彼らに苦笑いを零すと毛利さんが不思議そうにしながら服部くんに尋ねた。「何してるの?服部くんまで」と。

「知るかいな!俺はほんまにクーラーをつこうてたかどうか調べとっただけや。そしたらまたこのガキが……!」

不自然に言葉を切った服部くんを見つめると彼はコナン君を見つめていた。その表情は何か信じられないものと遭遇したような……?

確かにコナンくんは普通の子供よりも聡いけど。…あれ?コナンくんって確か小学生なんだよね?小学生にしてはかなり聡明過ぎやしないか?

それに殺人事件になると今みたいに好奇心旺盛で証拠を探しているところなんかまるで…。
まるで彼を、工藤くんを見ているような…。

「暗くてよく見えないね?」
「あ、ああ。そうやな。」

2人の言葉に胸ポケットに差していたペンライトを取り出すよりも早く灯りがついた。

「これでどう?お若い探偵さんたち?」

その灯りは綾子さんの持つライターの火だった。2人はお礼を言いながらも視線の先は火に照らされた彼女の谷間に向かっていた。…男の子だもんね。

あの後、コナンくんに探し物は見つかった?と訊いてみたけれど見つからなかったそうだ。彼の捜し物がクーラーを使う際に出る水滴の跡だったとしたら?それが見つからないってことはつまりあの妙な風の音の正体は暖房?

じゃあ、あのパネルを不自然に覆っていたあの妙な毛布は暖房が付いていることを目撃者に気付かせないためのものだった?ひょっとしてオーナーはすでに死んでいて…。速度が急に早くなったのはアクセルを踏んだからじゃなくてその逆のブレーキを踏んだまま体の死後硬直が解けてブレーキの効きが緩くなったから…?…だったら、犯人は…?

悶々と考えながら毛利さん達と家へ引き返そうと足を向けるが服部くんに肩を掴まれた。「ちょっと付き合えや」と。

どうやら彼はガレージの中にある残った車が動かせるかどうか調べたかったようだ。服部くんとともに残された車を調べた結果、燃料タンクに穴が開けられていてガソリンが全部漏れ出ていた。その上バッテリーも上がっている。
とても動かせる状態ではない。

「見事に退路絶たれてしもうたな。こりゃあ連絡手段も壊されとんのとちゃうか?」

「そう考えたくはないけど今のところその可能性が高いよね。…そろそろオーナーの部屋に行く?」

「せやな。…なあ、浅葱。」
「ん?どーしたの?」
「…いや、なんでもあらへん。」

行こかと何とも言えない表情をして彼は家の中に入っていく。私はそれに首を傾げながらもそれに続いた。
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