series1
□episode13
1ページ/1ページ
「あれ?テニスボール?」
からかう向日くんと別れた後、
今度は憩いの場へ行こうと歩いている。
その途中に茂みの中で見慣れたテニスボールを見つけた。広場のコートから誰かが飛ばしたのだろうか?
テニスボールは現在の彼らにとっては貴重なものだ。拾わないとそう思って屈んでボールに手を伸ばすと、「あった」と言う茂みの中から出て来た手と重なった。え?誰?
「なんや、風宮さん。また会ったな」
「お、忍足くん。なんでここに?」
「いや、練習してたらボールがどっか行って探してたんや。なぁ、お嬢さん」
「忍足さん、ボール見つかりましたか?って風宮さん!?」
忍足くんの後ろからこちらに近付いて来て姿を現したのは小日向さんだった。私の存在に彼女は今気が付いたのか驚いていた。どうやら二人ともこのボールを探していたらしい。
「なんや、風宮さんと同時に見つけたみたいや」
「ご、ごめんなさい」
「ん?なんでお嬢ちゃんが謝るんや?」
「あ、いえ、手が……」
「手?手がどないしたんか?」
急に謝り出した小日向さんを忍足くんは不思議そうに尋ねる。私はすぐに気付いた。
「あの、忍足くん。そろそろ、私の手を放してくれないかな?」
彼女の見つめる先には、
未だに重なり合っている私たちの手だった。
「ああ、すまんな。可愛い手やったから、つい、な」
「あのね、そう言うことをさらっと言うのやめようか?」
「フッ……風宮さん、照れた顔可愛いで」
「だ、だから小日向さんが居る前でからかわないでよ」
「ならお嬢ちゃんが居らんかったらからかってええの?」
「っ…忍足くんの意地悪っ!」
「すまん、すまん。ボール、見つけてくれてありがとうな、風宮さん」
お嬢ちゃんも探すの手伝ってくれてありがとうな、と忍足くんは小日向さんにもお礼を言った。小日向さんは頬を真っ赤に染まって恥ずかしそうに言った。「お邪魔してごめんなさい」と。
なんか誤解されてるけど、今否定すると忍足くんがまたいらないことを言うと思うからやめよう。私は忍足くんが手を放してくれたので、「じゃあね」とその場を走り去ることにした。ああ、もう向日くんが変なこと言うからつい意識しちゃったよ。
「あ、日吉くん、ちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか?」
忍足くん達から逃げてロッジの前にやって来ると日吉くんが居た。忍足くんがどんな人かこの際、後輩の日吉くんに聞いてみよう。
「忍足くんって、どんな人?」
「……そんなの、俺に聞かなくても貴女の方がよく知っているでしょう」
「そんな事ないよ。私、知らない事が多くて」
さっきだってからかわれたし、と私が困った顔して言うと日吉くんは呆れた顔して言った。「何やってんだ、あの人は」と。
「フン、まあいい。教えてあげますよ。あの人は言わば天才です。」
「天才?テニスのって事?」
首を傾げる私に日吉くんは話してくれた。何をやってもあっという間に上達するとか。人の技だって簡単に自分のものするとか。
日吉くんの話によって、私は『忍足くんはテニスがすごい』という事がわかった。私の時にはいらないちょっかいかけてくるのに。
ますます彼がわからない。はぁ。
To be continued.