series1
□episode31
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「ああ、来たな、風宮さん。それにお嬢ちゃん達。自分らは俺らと一緒に行く事になったで」
「お待たせ、よろしくね」
「よろしくお願いしまーす」
「お願いします」
現在、私達は手塚くんに言われて温泉へ行く準備を整えて広場で待っていた氷帝メンバーと合流した。手塚くん曰く、日頃の疲れを取る為に今から学校ごとに分かれて温泉を利用する事にしたとか。なんでも温泉は二ヶ所あって混浴の心配はないらしい。
「ほな、行こか」
忍足くんの声に私達は氷帝のメンバーと一緒に温泉へと向かった。温泉に着くとちゃんと男女の仕切りが出来ていた。
「わあ、ちゃんとした露天風呂じゃない」
「うん、そうだね」
「星空を眺めながら入浴っていうのもいいよね」
「何か、向こうから話し声聞こえるね。楽しそう。」
「私達も入ろうか。」
「うん。あ、風宮さんはちゃんと眼鏡外してくださいね」
「わかってるよ。」
辻本さんに言われて私は掛けていた眼鏡を早々に脱いだ服の上に乗せた。掛け湯をしてから温泉へちゃぽんと足を踏み入れて腰を下ろして体ごと浸かる。
「はぁ、いい気持ち」
「風宮さん、おばさんくさいですね!」
「彩夏、失礼じゃない!」
「小日向さん、大丈夫だよ。気にしてないから」
そこへ服を脱いだ彼女達も温泉に浸かる。すると、辻本さんが私の顔をまじまじと見つめて言った。
「私、初めて眼鏡外してる風宮さんの顔を見ました!印象が変わりますね!」
「私もです!風宮さんって、なんでコンタクトに変えないんですか?」
「うーん、目に異物を入れるのが苦手でね」
そう言うと二人同時に「理由が可愛いけどなんか勿体ない」と口にした。可愛い?勿体ないって?
「あ、向こう、急に静かになりましたね」
「何やっているのかな?」
「そうだね。誰が一番お湯の中で息を長く止めていられるかでも競ってるんじゃないかな?」
「えっ?あの忍足さんも参加してるんですか?」
私の言葉に小日向さんが目を見開き驚きながらそう尋ねてきた。辻本さんは意外そうな顔をして私に言った。
「風宮さん、仕切りで見えないのによくわかりますね」
「多分だよ」
辻本さんの言葉にそう返す。
しばらく湯に浸かっていた私たちの耳に仕切りの向こうから「おい!日吉っ!」と向日くんの声が聞こえた。そしてまた騒がしくなった。何してるんだか。本当に。
「お待たせしましたー」
「すみません、遅れて」
「ごめんね。みんな、湯冷めしてない?」
温泉を堪能した私達は身体を拭いてから服を着て先に上がっていた忍足くん達と待ち合わせを決めた場所まで急いだ。待っていた忍足くんが言った。「気にせんでええ。ほな、ぼちぼち帰ろか」と。
その晩、忍足くん達に送ってもらった管理小屋の中では辻本さんが声を上げた。「温泉ですっかり忘れてたけど、ニュースです、ニュース!」と。
「ニュースって?」
「何かな?」
小日向さんと私がそう尋ねると辻本さんは話し始めた。なんでも海側で天根くんが海岸でトランクを拾い、その中に缶詰が沢山入ってたんだと言う。
「え?缶詰?」
「そっちでも見つかったの?」
「そっちでもって……じゃ、山側のトコでも?」
「うん、伊武くんが見つけたって」
「そっか、偶然ね。けどさ、この調子なら、つぐみのお父さんが見つかるのも時間の問題だよね」
「え?そ、そうかな……」
「見つかった缶詰、つぐみのお父さんや風宮さんの先生が落とした物かもしれないでしょ」
「あ、うん……でも、手塚さんはその可能性は低いって言ってた」
「小日向さん…」
「ま、まあ……跡部さんも同じ様な事言ってたけど……けど、いくら可能性が低いって言ってもゼロじゃないんだし。そうですよね?風宮さん」
「うん、小日向さん。辻本さんの言う通りだよ」
希望を持って、と私は気落ちしている小日向さんにそう言った。
「大丈夫。きっとすぐに見つかるって」
「……そう……よね……」
「そうそう」
「……ねえ、彩夏、風宮さん。この島ってどう思います?」
「どうって……」
「ホントにこの島って人が住んでいないのかな?」
「それはまだ何とも言えないな」
「跡部さんはそう言ってたよ。それに、まだ誰も人がいるのは見てないんだし」
「そうなんだけど……何か気に掛かるの。」
「気に掛かる?」
「はい。缶詰が落ちていたり、小麦粉があったり」
「つぐみは考え過ぎだって。今は考えてるより行動、行動。みんなと一緒に頑張らなきゃ」
「そうだね。さあ、もうこの話はやめてそろそろ寝ようか、二人とも」
おやすみ、と私は寝室の電気を消して外へ出て自分の定位置となったソファに身を任せた。忍足くんも小日向さんも薄々気付き始めてる。
「知らない振りはやっぱり辛いよ…」
跡部くん、と小さく呟いて私は眠りに就いた。
To be continued.