series2
□親衛隊と頑張る羊
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「……。(今日は朝にジロくんの作業を手伝って、たこ焼き屋組と模擬店をチェックして……あと跡部くんに喫茶店の食器類の確認をしてもらって)」
8月25日。朝からやらなければならない仕事の優先順位を頭の中で並べていると誰かに声を掛けられた。「アンタ、運営委員の風宮だよね。同じ運営委員の広瀬と一緒じゃないの?」と。
「(……他校の生徒か)そうだけど、広瀬さんに何の用かな?」
「そう、まあいいわ。じゃあ、アンタだけでいいや。アンタさぁー最近、調子に乗ってない?」
「調子?ただ運営委員として動いてるだけだけど」
「ちょっと氷帝の正レギュラーに構ってもらってるからって、いい気になってるんじゃないわよ?」
「いい気って……先程も言ったけど、私達はただ運営委員として学園祭の準備を円滑に行って動いてるだけだよ」
「うるさい!」
私の対応に痺れを切らしたのか煩わしいと喚きながら平手打ちを仕掛けようとする女子生徒の手首を掴んで止めさせる。まさか止められると思っていなかったのか驚きを隠せない他校の女子たち。
「……ここで暴力を振るうのはよくないんじゃない?と言うか、これが君たちの言う『跡部様』に見つかって施設の出入りを禁止されてもいいの?…ねぇ、跡部様?」
そう言って私は後ろに振り返る。曲がり角から誰かの気配を感じる。それに気付いた女子生徒たちは慄いた。
「!……っ、今回は見逃してあげる。だけど、これ以上、跡部様に近づかないで!広瀬にもそう伝えなさい!」
分かったわね!!と言うだけ言って駆け出していく他校の女子生徒たちの背中を見送ってたから私は後ろを振り返った。「ありがとう、忍足くん」と。
そう曲がり角から出てきたのは跡部くんではなく忍足くんだった。忍足くんは後髪を掻いて苦笑を零す。「朝からびびらせんといてや。お嬢さん」と。
「おはよう。ごめん、ごめん。だけど、これで彼女達はしばらく広瀬さんには近づかないはず」
「おはようさん。せやな、証拠の動画も取れたし。跡部に見せてあの子らを出入り禁止にさせれば広瀬さんを守れるはずや」
「用意がいいね。実は気になってた?」
「まあな。それにしても風宮さんに怪我がなくて良かったわ」
「あはは、おっと、今日はジロくんと約束してるから先に行くね」
「おん。ほなな」
忍足くんと分かれて私はジロくんと約束したステージへと向かうと彼はもう来ていた。そんな彼に声を掛けた。
「ジロくんの学園祭での分担はウェイターだよ。」
これ、跡部くんが用意したウェイターのマニュアル。読んでね?と鞄の中からマニュアルを取り出してジロくんに渡す。
「うん、わかった」
そう言ってマニュアルを受け取った彼はページを捲って読み進めていくが、途中で手が止まった。その様子に私は声を掛けた。「……どうかな?」と。
「や、ややこしいね……」
「書いてあるのを読むだけじゃ、わかりにくいよね。じゃあ簡単に説明するね。まずは……」
戸惑うジロくんにまず基本動作を説明して理解できたら次へ。また躓いたらもう一度説明して理解出来たら次へと繰り返す。
「なるほど〜、だからこういう風に言わないといけないだね」
「そう、それにしても呑み込みがすごく早いね。びっくりした」
「葉月ちゃんの教え方、すごく丁寧だったからね〜マニュアル読むだけじゃわからなかったな」
「そう言ってもらうと嬉しいな。ジロくん、楽しそうだし」
「うん、たのC〜。あ、ねぇ。ちょっと実際やってみるから、お客の役、やってくれる?」
ジロくんの言葉にいいよと頷くと、ジロくんが先程教えた通りに動いて所作をこなしていく。
「ではご注文の確認させていただきます。ブルゴーニュ風エスカルゴ、山羊チーズのサラダ、食後にカフェオレ。以上でよろしいでしょうか?……どうかな?」
「すごい、ジロくん!もう完璧だね!」
「ははは。ありがとう〜、葉月ちゃんのお陰だよ〜」
「ううん、ジロくんの実力だよ」
「あ、なんか照れるな〜……それにしても、準備も楽しいもんだね」
「え?」
私が首を傾げるとジロくんが言った。「学園祭にならないと退屈かなって思ってたけど何かやるために、いろいろ考えるのも楽しいね〜」と。
「そうだね。私も運営委員に選ばれた時は戸惑ったけど、今はやっていて楽しいと思っているよ」
「そうなんだね。……ごめんね。その、今までサボってばかりで。これからは自分で楽しい事見つけて、準備作業するよ。楽しい学園祭にしたいもんね」
「ジロくん」
「あのさ……跡部やみんなから聞いたんだ。運営委員っていろいろやる事があるんだってね。俺の事だけ手伝ってると、それだけ君が大変になるって」
「え、あ、でもそんな事は」
「大丈夫、広瀬さんからも聞いてる。無理しなくていいよ。俺のせいで君が大変になるのは嫌だし。跡部もだけど忍足にも怒られちゃうしね。葉月ちゃんは葉月ちゃんの事を頑張って〜」
「(跡部くんはわかるけど、なんで忍足くん?)ジロくん、ありがとう」
「あー、でもちょっと昼寝するかもしれないし、サボっちゃうかもしれないから〜」
「うん、時間が空いたらまたお手伝いさせてね」
「うん、ありがとう〜」
よかった、ジロくんが楽しいって思ってくれて。楽しそうなジロくん、可愛かったな。ちょっこし癒された。
To be continued.