S.A.D

□欧米かっ! 前編
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「ここ、何処?」

あの入学式から時があっという間に過ぎて、私は新2年生に進級した。

あの二人の試合を見終わった私はあれから氷帝テニス部の試合を見に行っていない。が時々、女子達の会話で私の耳に情報が入ってくる。

跡部くんが1年で氷帝男子テニス部部長、そして生徒会会長になったこと。

そして新入生の鳳長太郎、日吉若、樺地崇弘がテニス部に入部した、と。

テニス部の主要メンバーとは今のところ、同じクラスにはなっていない。まあ、同じクラスになっても必要以上に関わるものでもないと思っているから。

それよりも今、問題なのは私が氷帝の2年の行事で遠足に来ていること。やってきた場所はなんとあのカジノとかで有名なラスベガスだ。

まさか中学2年でパスポートのいる海外へ遠足に行くとは流石氷帝である。

そして冒頭の台詞通り、私は遠足の班の子たちと見事にはぐれて迷子になってしまったのだ。


「だちゃかん……」


今頃、私がいないと班の子たちが気付いて探してくれているだろうか。もし、そうなら私ははぐれたこの場所で待ってることしか出来ない。本当にここは何処なんだろう。


「(だちゃかん?)よう、お嬢!」

「えっ?」

お嬢?と、後ろから声を掛けられて振り返ると男の子がいた。現在の私より年が少し上くらいなその人は片手にオレンジ。肩にはテニスバックを掛けている。

この人、誰かに似てるような気がするのだけど、誰だろう?


「どうした?迷子か?」

「あ、はい。学校の遠足でここに来たんですけど、クラスの子たちとはぐれちゃいまして」

「学校の遠足でラスベガスかよ!?すげえな、お嬢んとこの学校って」

「あ、あの先程から気になってたんですけど。お嬢って?」

「ん?ああ、その呼び方のほうがしっくり来たからな。それとも金持ちのお嬢様って呼んだ方がいいか?」

「なーん、やはりお嬢でお願いします」

「(なーん?)あはは、おもしれぇな。お嬢」


しばらくその人と立ち話をしていると遠くの方から「風宮さんっ!どこにいるのっ!」と必死に私を探す声が次々に聞こえてきた。


「どうやら、お嬢の迎えが来たみたいだな。じゃあ、俺は行くな。」

「はい。あ、私の名前は風宮葉月って言います。お兄さんの名前は?」


「俺か?俺は越前リョーガだ」

「越前、リョーガさん」

「おう、あ、お嬢にこのオレンジやるよ!うめぇから」

「あ、ありがとうございます!」


じゃあ、また何処かで会おうぜ!と越前リョーガさんは私に持っていたオレンジを手渡してそう言い残して去っていった。その入れ違いに班の子たちがやってきた。「ああっ!風宮さん、やっと見つけたぁ!」と。



「いきなり居なくなるから心配しましたよ!」

「そうだよ、何処ではぐれたんだろうって来た道をみんなで引き返して来たんだからね!」

「ごめんなさい」

「でも無事に見つかってよかった!」

「あれ?風宮さん、そのオレンジはどうしたの?」

「あ、うん。親切なお兄さんがくれたんだ」

「そうなんだ。でも、知らない人からもの貰っちゃダメなんだよ」

「知らない人じゃないよ。名前教えてもらったからもう知り合いだよ」


越前リョーガさんって誰かに似てると思ったらテニプリの主人公である越前リョーマだったか。苗字も同じだから多分親族かな。そう思いながら貰ったオレンジを大切に自分の旅行用バッグに入れた。



「風宮さんは俺と手を繋いで行こう!」

「え?た、滝くん?」


危機感なさすぎで心配だという表情をする滝萩之介くんに手を握られて私たちは集合場所になっているところへと急いで向かった。


「はい、並んで。みんな、ちゃんといるわね」

そこには担任が待っていて点呼の時間にギリギリ間に合った。班のみんなさん、きのどくな。



「風宮さん、迷子になってたからお土産ってまだ買えてないよね?俺と一緒に買いに行こうよ」

「あ、そうだった。滝くん、何かおすすめのお土産とかあったら教えてくれる?」

「いいよ、それじゃ行こう」

心配性な滝くんに手を繋がれながら自由時間に売店へと向かう。滝くんのおすすめはカラフルなチョコだった。パッケージからして美味しそうだ。そして自分の選んだお土産もカゴに入れた。


「お金、足りるかな」

「大丈夫、足りるよ」

滝くんにそう言われて私達はレジに向かった。単価がドルだから心配してたけど、それは杞憂に終わった。


「滝くんが居てくれて助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして。さあ、みんなのところに戻ろうか」

「うん。」


購入したものを旅行用バッグに入れて、私達はまた手を繋いでみんなの元へと戻った。


「……。」


遠足も終わり、帰りの飛行機の中でみんな疲れたのかぐっすりと眠っている。私はバッグから越前リョーガさんから貰ったオレンジを取り出して眺めた。

また何処かで会おうぜ、か。
彼の言う通り、またきっと何処かであの人に会う機会があるだろう。この世界で彼がテニスを続ける限り。または私がこのテニプリの世界にいる限り。


「参ったな…」

滝萩之介くんのこともそうだ。私は少しずつだけれど、テニプリの主要人物達に関わる人との交流を持ち始めていた。


To be continued
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