S.A.D
□クセが強い!3
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「開催地区枠で全国へ?」
氷帝男子テニス部が関東大会で敗退して数日。その報せは全校登校日に登校した私の耳にも届いた。
「おっ!跡部がテニスコートに居る!みんなテニスコートに向けて氷帝コールしようぜ!」
「書道部が用意した応援幕も出そうぜ!」
男女年齢関係ともなく学園中に響く氷帝コール。何百人ものの氷帝コールがテニスコートに向けられる。テニスコートには跡部くん率いる氷帝正レギュラーがいた。未だに飛び交う氷帝コール。それを止められるのはただ一人だ。
ぱちんっ!と指なりが響く。その時、氷帝コールが止んだ。しーんと静まる周囲。跡部くんが高らかに言う。「俺様とともに全国について来な!」と。
その一言に周りはまた騒ぐ。今度は跡部コールが響いた。氷帝男子テニス部が全国大会に出場する。この先の未来を私は知らない。知らないが結末はわかりきってる。優勝するのはーーーーだと。
そう考えてしまう私は全国大会に出場する男子テニス部を素直に喜べずにいた。滝くんVS宍戸くん戦でも当たり障りのない励ましを滝くんにして逃げてしまった。
向日くんやジロくんには関東大会に見に来いよと誘われたけど負けるとわかっている試合を見るのは退屈でつまらないものだと思ってしまった私は苦笑いを零し、その誘いを断って関東大会には顔を出していない。
試合を見に行った友人達からは跡部くんの武勇伝を語られたがどうでもいいとさえ思ってしまう始末だ。何というか一人だけ他人との温度の差がある感じだ。まあ夏休みはほとんど親戚が経営している喫茶店の手伝いがあるしね。
「葉月ちゃん、買い出し頼んでも大丈夫かしら?」
「あ、はい。いいですよ。」
学校からそのまま喫茶店に寄って制服に着替えた私はこのお店の看板娘である星羅さんに声を掛けられて、私は彼女の頼みを承諾した。
「はい、これが買い物リストね。あ、そうそう。今日、商店街で福引きやってると思うから。もし、引換券がたくさん出たら。代わりに福引き参加してきていいからね」
「あ、はい。わかりました。」
星羅さんから買い物リストを渡された私は商店街に向かった。
「なんや風宮さんやん。一瞬誰かわからんかったわ」
「忍足くん、も買い物?」
「ま、まあな。おかんに頼まれてな」
「そうなんだ。」
商店街に行くと買い物袋を持った忍足くんがいた。忍足くんは喫茶店の制服を身に纏った私を物珍しそうに見て尋ねてきた。「その服、どないしたん」と。
「中学生はアルバイト禁止やで」
「アルバイトじゃないよ。親戚が経営してる喫茶店を手伝ってるだけ」
教師や跡部くんに承諾は貰ってる。と答える私に忍足はふーんと言って私の足元から頭の先まで見ると、にっこり笑みを浮かべて言った。「その服、よう似合っとるで」と。
「お世辞、ありがとう」
「お世辞やないんやけど。せや、風宮さんにお願いがあるんやけど」
「なに?」
「俺ら全国大会に出場するやん。風宮さんには是非見にきてもらいたいんや」
「あのね、私はテニスがにが」
「苦手なのは知っとる。理由はわからんけど。そやけど、風宮さんにどうしても俺の本気のテニスを観に来てもらいたいんや。」
あかんか?とそう言って彼は切なげでどこかいつもと雰囲気が違う感じがした。私は思わず頷いてしまった。それを後悔したのは不覚にも福引きで特賞を引いてしまった後だった。
To be continued