S.A.D

□クセが強い!4
1ページ/1ページ



「ここはこの解の公式を使うたほうがええで」

「この公式だね。」

「そうや。」

今日は忍足くんの家で数学の勉強を彼に見てもらっている。忍足くんのおかげで残りの数学もあと数ページで終わりそうだ。


「謙也のやつが居なくなって静かに勉強が捗りそうやな」

ちなみに謙也くんは四天宝寺の部長である白石くんに呼び出されて現在は外出している。なので、この家には忍足くんと私しかいない。


この状況、少し、いやかなりドキドキしてる。特賞で夏の合同合宿に巻き込まれて少しだけど一緒に過ごしてなんだか彼のことを意識してる。


こんなに美形なんだもん。彼女の一人や二人いそう。平凡な私では太刀打ちできない。

って、太刀打ちする気にも起きないのだけれど。


「あ、葉月ちゃん」

「へ?な、なに?」

「いや、麦茶。なくなっとるやん。入れてきたるわ」

「あ、ありがとう、侑士くん」

ん、今日も暑いからな、とそう言って忍足くんは私の飲んでいた空になったグラスを持って自室を出ていった。


彼がいなくなって改めて忍足くんの部屋を見渡した。シックな色合いで忍足くんらしい部屋だな。観葉植物もある。


「……。」

そういえば男の子の部屋に来るの初めてだ。なんかちょっと新鮮だな。と、思いながら写真立てに注目した。


「こ、これは……」


写っているのはバイオリンを持つ侑士くんと、寄り添う年上の女性は……誰だろう?



「ああ、その人は俺のバイオリンの先生や」


「!?……びっくりした。侑士くん、戻ってきてたなら声かけてよ」


「すまんな。葉月ちゃんが熱心に写真を見つめてたから声掛けづらくて」

そう言った忍足くんは苦笑を零しながら私に麦茶の入ったグラスを渡した。


忍足くん、バイオリン習っているんだ。すごいな。もしかして、この先生って忍足くんの初恋の相手かもしれない。

「……なんてね。」


「葉月ちゃん、なんか誤解してへん?俺が好きなのは」

「ん?何?」

「い、いやなんもない。こういうのは雰囲気が……」

さて、勉強の続きするで、と忍足くんはそう言って逃げた。俺が好きなのは、か。やはり忍足くんには想いを寄せている相手がいるんだ。


誰だろう?
私の知ってる人かな?

小日向さんとは結局何も無かったみたいだけど。


「もうすぐ全国大会だね」

「せやな」

「忍足くんはやっぱりダブルス?」

「どうやろ?榊監督からはまだ何も聞いてへんのや」

「そうなんだ」

「あんな葉月ちゃん、以前も言うたけど。俺の試合、見にきてくれへん?」

「それは、その…」

忍足くんの要望に言葉が詰まる。私なんかが見に行って何が変わると言うのだろう。その言葉が頭に浮かんだ。


「せやな返事の答えは全国大会のテニスコートで会う事にしよか」


待っとるから、と忍足くんはそれだけ言ってこの話題は流されていった。



To be continued
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ