detective

□ホームズ・フリーク殺人事件
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(240)ホームズが、モリアーティ教授と一緒に谷底に転落したと思われたのは
何年何月何日?

「1891年5月4日。次は踊る人形…」

分け与えられた部屋で私はメイドさんから配られたホームズカルトテストを解いていた。
出題数は1000問で提出期限は明日の…いや今日の夕食までだそうだ。

オーナーの金谷さん曰く、この問題で990点以上採るとこのツアーの毎年恒例である超難関推理クイズに参加することが出来るそうだ。そしてそのクイズで見事満点を採ることが出来た人にはあのコナン・ドイルの出世作『緋色の研究』の初版本が進呈されるとか。

まあ私はこの問題を解いているだけでも幸せいっぱいだけどね…。

1000問も問題を作るなんて凄いなぁ…。
ホームズへの愛を感じるよ。

そう思いながら天井の隅に付けられた監視カメラを見つめて再び問題に向き直った。


「浅葱さん!」
「あ、毛利さん」

朝食も昼食も採り終えて部屋に戻ろうと廊下を歩いていると毛利さんが追い駆けてきた。隣に並ぶと彼女が問題の進み具合について尋ねてくる。

「もう終盤に近いよ。案外簡単なものばかりだったから…。」

「へぇー。でも驚いたわ。まさか浅葱さんが隠れホームズフリークだったなんて。新一が知ったら驚くかも…」

「あー、毛利さん。工藤くんにはこのこと黙っててもらえないかな?」

そう頼むと毛利さんはきょとんと首を傾げた。「どうして?」と。その問いに私が言い淀むと何か思うことがあったのか彼女が納得したように笑った。

「わかったわ、あの新一に知られたら浅葱さんにも被害が及ぶもんね」

「え?被害?」
「あれ違った?だってアイツ。事あるごとにホームズのウンチクやら前にあった殺人事件の話やら聞かせてくるんだよ?…この間だってね。」

毛利さん曰くこの間工藤くんとトロピカルランドに出掛けた際に話題はずっとホームズのウンチクだったらしい。

そしてそこで運悪く殺人事件に巻き込まれてなかなか遊べなかったとか。確かその前の水族館でも殺人事件に巻き込まれたって聴いたけど。

「さ、災難だったね」

「そうなの。だから浅葱さんもホームズを好きすぎてあんな事件大好き推理馬鹿になっちゃ駄目だよ?」

毛利さんの工藤くんに対する手厳しい言葉に思わず渇いた笑みが零れる。思い人からここまで言われるだなんてあの工藤くんも形無しだね。

「もう笑いごとじゃ……あら?あそこにいるの綾子さんじゃない?」

「え、本当だ。何しているんだろう?」

廊下に佇む同じツアー参加者の大木綾子さんが私達に気付いた瞬間、慌てて持っていた何かを後ろに隠した。そして彼女はぎこちない笑みを作るとそそくさと自分の部屋に入ってしまう。そんな彼女の挙動不審な行動を見送った私と毛利さんは顔を見合わせた。

「なんだったんだろ、今の?」
「さあ?」

じゃあ浅葱さん頑張ってね!と毛利さんと別れて自分の部屋に入った。締めたドアの背に寄りかかりながら綾子さんの不審な行動について考え込む。

綾子さんが後ろに隠したあれは…。
私の見間違いじゃなければあれはホームズのテスト用紙だったような……。

「まあ、いっか!」

それより残りの問題だ!と机に駆け寄って再び残りの問題に取り掛かった。途中、服部くんが遊びに来たけど問題を解く手を止めない私を見て「まるで女版の工藤やなぁ」と独りごちる

「んー、楽しかったっ!」

最後の問題も解き終わって伸びをしながら椅子の背に体を預けた。独り悦に入るとそれを邪魔するかのように声が投げられる。「そらようござんしたなぁ」と。

「……服部くん、自分の部屋に帰ったんじゃなかったの?」

「アホ!あんな監視カメラしかない部屋に独りでどないせーちゅうねん!」

息が詰まるわ!という言葉に少なからず納得した。私はテストを解き続けていたから何とも思わなかったけどテストを受けていない服部くんからしたら何もない部屋はきっと退屈だったに違いない。

「けど、私の部屋だって対して変わらなかったんじゃない?」

ずっと問題に付きっきりで構うこともあまり出来なかったのだから。それに最後は問題が全部解けるまで静かに見守っててくれていたようだし。

申し訳ないなと思っていると服部くんが両腕を組みながら呆れたように口を開いた。

「ほんまやで。あまりにも構ってもらえくて平次くん寂しゅうて寂しゅうて死にそうやったわ。……せやけどそんなん独りの部屋にずっと居るのに比べたら何倍もマシちゅー話や。」

「…ありがとう、服部くん」
「おん、ほんなら問題も全部解き終わったことやし。提出までまだ時間あんのやろ?それまで俺に」

構えと言いたいのだろう服部くんに頷いた。彼はよっしゃ!とガツポーズをする。
散々待たせちゃったからね。

待った甲斐があったわと心底喜んでいる彼を眺めていると部屋のドアが独りでに開いた。

そちらを見ると顔を覗かせたのはコナンくんだった。手にはカルトテストの問題集を持っていた。私を見つけると彼は嬉しそうに目を輝かせる。

「朔子姉ちゃんっ!問題全部解けた?解けたなら僕と一緒に提出しに行こ」

「あ、ごめんね。今は先客が」
「え、先客って…?」

コナンくんと話していると後ろで喜んでいた服部くんが私を呼んだ。

「おい、浅葱!付き合うからには覚悟せぇよ!」

「あ、ああ。うん、お手柔らかにね。…コナンくん?」

服部くんにそう返事をしてコナンくんに向き直ると彼は視線を床に向けていた。その表情は眼鏡が反射して読めない。声をかけても返事がないことに不審に思っているとこちらの異変に気付いた服部くんが「なんや?」とやってくる。

「あ、服部くん」
「ん?ねーちゃんとこのボウズやん。何しに来たんや?」

俺ら今から大人の話をするところなんやけどなと言う服部くんの言葉にコナンくんがバッと勢いよく顔をあげる。

そして彼は子供がするのにはまだ早い悲痛な顔持ちで口を開いた。「2人は付き合ってるの?」と。


「なあんだっ!付き合うって話に付き合うってことだったんだねっ!」

「もう勘違いの上におませさんなんだから。コナンくんは」

「だってあのお兄ちゃんが朔子姉ちゃんに大人の話なんて言うだもん!嫌でも勘違いしちゃうよ!」

でもよかった!と誤解が解けて先程の悲痛な表情が嘘のように晴れやな笑みを浮かべるコナンくんの頭を撫でた。

彼は吃驚しながらも気持ちよさそうに目を閉じてそれを受け入れる。まるで猫みたいだなと思っていると服部くんが面白くなさそうに呟く。「別にこのまま誤解してもよかったんに」と。


「ちゅーか、ボウズ。お前あの蘭ちゅーねぇちゃんが好きなんとちゃうんか?」

「えっ?そ、それはっ」
「ほんなら俺とこいつが本気で付き合うってもなんも問題ないやろ。」

なあ、浅葱?と私の肩に腕を回してくる服部くんが訊いてきた。その表情は楽しげである。

「えと、」
「朔子姉ちゃん!だめっだめっ!」

OKなんかしちゃダメだよっ!とコナン君は答えを出そうとする私の足にしがみついて今にも泣き出しそうな瞳を揺らしながらこちらを見上げてくる。

服部くんもコナン君もあまり接点なんかないこんな私に好意を寄せてくれてるんだなぁ…。

「ありがとう、服部くんの気持ちは嬉しい。だけどね。私、好きな人いるんだ。」

だからごめんなさい。と肩に回されていた腕を外し彼に向き合って頭を下げる。頭上からは服部くんの驚きの声が降ってきた。「なんやて!?」と。

「やーい、振られてや…ん?ええっ!?好きな人って誰!?」

「ま、まさか工藤か!?工藤なんか!?」

「そ、そうなのっ!?朔子姉ちゃん!」

好きな人って誰!?と詰め寄ってくる彼らに「黙秘権を行使します!」と告げると非難の声を上げられた。こればっかりはいくら大好きな2人でも教えてあげられないよ。
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