detective

□探偵左文字『1/2の頂点』の謎
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「んー…なんか引っ掛かるんだよねぇ」

大好きな推理小説の一つである『探偵左文字』の新シリーズを読み直しながら私は1人唸っていた。

それは2か月前、参考書を買いに書店へ赴いた時のことだ。文芸時代という雑誌に完結したはずの探偵左文字の新シリーズが復活!という文字に嬉しくなって思わず参考書と一緒にこの雑誌も購入した。

そして家に帰って勉強そっちのけで『探偵左文字』が載っているであろうページを捲るとこう書かれた大きな見出しが私の目に飛び込んできたのだ。

『全国の名探偵諸君に告ぐ!私の頭脳を凌駕したくばこの事件の真の謎を解明したまえ!』

私は探偵ではないけれど、この『探偵左文字』の1読者として新名先生の挑戦を受けることにした。なんたって初めてあの新名任太朗先生が私達読者に向けて直接メッセージを送ってくれたのだ。その挑戦を受けないわけにはいかない。そう意気込みこの2か月の間、『探偵左文字』が掲載される度に私はその雑誌を購入しては読み進めていた。

まず最初に驚いたことといえば新名先生本人が作中に登場していることだ。フランスに滞在している売れない作家という設定で。

そんな今までにない斬新な趣向に驚きはしたけれどこのシリーズも読んでいて私はすっかり作品にのめり込んでいた。が、作中の新名先生のこの初登場台詞に私は思わず現実に引き戻された。

『力になってくれ? すまないけど、全く
目が覚めてないんだ……うーん、そうだな
十二時……いや、それじゃ早過ぎるか……
1時ぐらいにまた電話してくれ』

十二時は漢字なのに、
1時は数字になってる…。
これって誤植かな?

気になって続きが読めそうになかったので思わず編集部へと電話をかけてみたのだ。

「あ、出版社ですか?私、浅葱と言う者ですが『探偵左文字』復活おめでとうございます。また新名先生の『探偵左文字』が読めて嬉しいです。それでその、新シリーズのことで少しお話が…」

探偵左文字がフランスに滞在している新名先生から推理のヒントを得ようと電話するシーンについて誤植のことを尋ねると編集部の方は「違いますよ」と答えてくれた。

「え、違うんですか?すいません。てっきり誤植かと思って電話してしまって」

「いえいえ、気にしないで下さい。我々も読みやすいように直そうと思ったのですが…」

編集者さん曰く新名先生に文字の表現は小説家の命。絶対に変えないでくれと連載前に何度も念を押されたのだそうだ。

「新名先生がですか…?」
「ええ、それに私の意に反した文字が掲載された場合、直ちに連載を中止するとも言われまして」

あれには参りましたと受話器越しで乾いた笑いを零す編集さんにお礼を告げて電話を切ったのは新たに雑誌で3話目が掲載される前だった。

それからは誤植のような誤植でない文字も楽しみながら読んでいたのだ。

後に新シリーズのタイトル『1/2の頂点』を基に新名先生の台詞の頂上にある二つの文字をなんとなく合わせてみた。

力と目を「助」。
十二時の十と1時の1を「け」。

そして新名先生の次の台詞…。
先生のキャラはトボケてて思わず笑いが零れてしまったくらいだったが…。

『CALLは三回までだ!忘れるなよ。
一回で取れればいいが、三回なら気を遣って
くれ!私はまだ夢の中だから……まあ、
他ならね君の頼みだからね。そう無情に
ノーとは言えないだろうが、間違えるな
1時だぞ!』

CALLのCと一回の一を「て」。
くと他は新名先生が雑誌の取材とかでよくフランス語の綴りはHを除けても読めるのだと言う話をしていたのを思い出してH=ハ行を除くことを考えて「く」。
ノーのノと1時の1を「レ」。

それぞれを繋げ合わせてみると、
「助けてくレ」と言う一文になった。

「助けてくれって……」

ひょっとしてこれが新名先生が私達読者に伝えたかった真のメッセージ?助けてくれって新名先生の身に一体何が?そう初めて作中に隠された謎が理解できたのは新たに6話目が掲載された後だった。


そして今日7話目が掲載されていることに安堵しつつ雑誌を購入して自分の部屋で開いてみたらある違和感が…。

「新名先生のサインが」

そう、新名先生のサインの位置が1話から5話までは多少ズレが生じているのに対して6話と7話はズレが全くない。これは手書きのサインのはずだからズレないと言うことはまずありえない。ならこのサインはコピーということに……。

「新名先生…」

あのメッセージに気付いた人間は私以外にいるのだろうか?いや、メディアで騒がれていないところを見るとまだ誰も気付いていないのだろう。

「どうしよう…」

新名先生が自分のサインも書けなくなるくらい大変な目に遭っているのだとしたら?それを知っているのが私だけだったとしたら?編集社に事情を話して警察を呼んでもらう?いや、駄目だ。悪戯だと思われてまず相手にされずに電話を切られるだろう。新名先生が連載を続けているのだから。

「編集社が駄目だとすると」

一般人の私が頼れるのはもうあそこしかない。とりあえず電話を。
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