detective

□漆黒の星〜ブラック・スター〜
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「うっ…ひっく」

時計台の階段で私は独り膝を抱えて声を押し殺しながら泣きじゃくる。
そんな時、彼が現れた。

「なんだ?おめー男の子なのに泣いてんのか?」
「ち、がうもん…っ」

否定しようと口を開くけれど吃逆と目から零れ落ちてくる涙が邪魔をする。だから心の中で彼の言葉を否定した。私は男の子じゃないよ。女の子なんだよ。と。

「しゃねーな。よし、泣き虫なおめーにオレのとっておきのマホウをみせてやるよ!」
「まっマホウ?」

オレの手をよく見てとこちらに突き出す彼の拳を吃逆をあげながら滲んだ視界におさめる。すると、ポン!と軽快な音を立てて彼の拳から薔薇の花が姿を表した。うわぁっと思わず感嘆な声が漏れた。彼は満足そうな顔をしてその薔薇の花を私に手渡した。

「オレ、ーーーーってんだ!」

彼がニイッと笑って名前を名乗ってくれたけれど、時計台の鐘の大きな音が響いてよく聞き取れなかった。もう一度彼の名前を尋ねようと口を開いたが彼は自分の腕時計を見て慌てて何処かへと駆けだす。どうやら何か約束があったようだ。名残惜しげに彼の背中に声を掛けた。

「ねぇお花っありがとっ」

彼が立ち止まってくるりとこちらを振り返った。彼の顔は逆光で殆どわからなかったけど声が聞こえてくる。「おめー名前は?」と。


「あ、あのねっ…朔っていうのっ」

「へえ朔か。また会おうな!」

「…っもう、会えないのっ」
「え、会えない?どうして?」
「だってっ遠くにいっちゃうからっ」

私は貰った薔薇を両手で握りながら不思議そうな彼の質問に答えた時だった。何処からともなく激しい音が聞こえてきた。その音が大きくなるにつれてすべてが白く染まる。




「………ゆ、め…か」

目覚まし時計が鳴る中で私はぼんやりと呟いた。ベッドからのっそりと起き上がって未だに鳴る目覚まし時計を止めた。そして陽の光と朝の空気を入れるために閉め切るカーテンと窓を開ける。

「また随分と、懐かしい夢を…」

窓辺にはあの時、彼に貰った小さな薔薇が瓶に挿してある。手品の花にしては珍しい黄色い薔薇、調べて分かった品種はイエロードット。それが風に吹かれてゆらゆら揺れた。

「いつか会えたらいいのに」

この黄色い薔薇をくれた男の子と。
そしてもう1人、顔もその姿も知らない泥棒さんに。それぞれに言いたいことがあるんだ。だけど一番伝えたいのはやっぱりありがとうな気持ち。

黄色い薔薇を見つめていると机の上にセットしていたスマホが鳴った。


「…もしもし皐月?…うん。うん。わかってるよ。10時に米花駅ね」

さて、早く朝ご飯食べて出掛ける準備をしなきゃ。なんたって今日はあの鈴木財閥の漆黒の星が拝める大事な日なのだから。
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